1話:正義のミカタ ~ VS機獣オーバード・ハイドラ(前編) ~
『必要な知識のインストールを完了しました。グッドラック、サキ』
「うひゃああああああああああああああ!?」
ゴロゴロゴロ、どっしゃーん!
女神Xがおわす闇から追放された咲子は、思い切り地面を転がって大木にぶつかった。
「いたたたた。うう、ここは……聖皇歴1252年・城塞都市ヘキサ・ゴート?」
思わず口を突いて出た言葉に、咲子は困惑した。
(あれ? 私、なんでこんなこと知ってるんだろ)
咲子は頭上から落ちてきた葉っぱを振り払うと、立ち上がった。
「わぁ……!」
辺り一面に草原が広がっていた。
吹き付ける風の感覚、小鳥のさえずり、鼻腔をくすぐる爽やかな新緑の香り。口内に広がる草の新鮮な、それでいて苦い味。
五感を刺激する感覚は、紛れもなくこの世界が実在することを教えている。
「異世界だ。私、異世界に来たんだーーーーー!!」
キィィィン……。
謎の高音を伴い、一瞬の間、景色が歪んだ。
気づくと、咲子の傍には奇妙な形の剣が突き刺さっていた。
大人の背丈ほどはあろうかという、巨大な剣だった。それでいて、時計の長針を思わせる複雑怪奇な形状だった。
(こんな剣、さっきまで突き刺さってたっけ……?)
だけど――この剣を引き抜かないといけない気がする。
咲子は怪訝に思いながらも、妙な確信に後押しされて、剣を手にした。
ズボッ。
大地から剣を引き抜いた途端、咲子の脳裏に声が響き渡った。
『ザ……ザー……聞こえていますか?』
『君は……正義の味方、ですか――?』
不意に、これから起こるであろう光景がフラッシュバックした。
瓦解する城壁。流れる血。失われる人命。その中には年端もいかない子供たちもいて……。
咲子は一瞬で決断した。
「正義の味方かどうかは、私が決める!! 来て、ネメアー!!」
咲子の背後に巨大な時計盤が出現した。
時計の針が動き出す。長針と短針が交差した瞬間、銀色の光を発し、闇へと至る時空の扉が開いた。
『ザ……ザー……時空ゲート反応!? 君は、一体!?』
「グォォォォォン!!」
剣の声をかき消すかのように、機械仕掛けの獣が時空の扉より現れた。
(知っている。私、この子を知ってる!)
巨大なる機械仕掛けの獅子。咲子は興奮も露わに、その名を叫んだ。
「機獣オーバード・ネメアTYPE2!!」
「グォォォォォンッ!!」
吠え猛る機械の獅子の咆哮を受け、咲子は安堵を覚えた。
なぜかは知らないが、今までに幾度となくこの子と接してきた気がしたのだ。
咲子は喋る奇妙な剣をスーツ背面部の端子にマウントすると、タキオン・フェザーを広げて跳躍した。
「とーうっ!」
機獣オーバード・ネメアTYPE2の背面部ハッチから腹部コックピットに乗り込み、操縦桿を握る。
操縦方法は知っている。座席に座り、2つの操縦桿を動かす。それだけで機獣は動く!
「コンディションチェック! ベーシックシステム、広視野角メインモニター、トリプルサブモニター、コンソール、オールグリーン! 行ける!」
差し当たっては、城塞都市ヘキサ・ゴートを守るのが先決だ。
この年代、城塞都市ヘキサ・ゴートは狙われている。そして、咲子はなぜかそれを知っている。
「“あいつら”を止められるのは私だけ! 行くよ、ネメア!」
「グォォン!」
機獣オーバード・ネメアTYPE2は咆哮すると、城塞都市ヘキサ・ゴートに向かって駆け出した。
★ ★ ★
「ハァーハッハ! 寄越せ寄越せ、“怒れる竜の涙”を寄こせぇッ!」
聖皇歴1252年、城塞都市ヘキサ・ゴート。
あちこちで火の手が上がり、煙が燻る中、巨大なる機械仕掛けの獣が暴れていた。
全長30メートルはあろうかという、大いなる機械仕掛けの蛇。その名も、機獣オーバード・ハイドラ。
機獣オーバード・ハイドラを操縦する暴漢は、音声増幅器を使って民衆を脅迫する。
「ここにあるのは分かってんだよぉぉッ!! 寄越せ、“怒れる竜の涙”を寄越すんだよぉぉぉッ!!」
「うわああああああああ! 助けてくれぇぇぇ!」
「クソッ、だからあんな行いはするべきではなかったと言うのにッ……!」
「ひぃっ! 頼みます、この子だけはお助けを――」
「びええええええええええん!!」
子供たちが泣き叫び、混乱の渦が街を覆う。
「黙れッ! 貴様らに命乞いする権利は無い! “怒れる竜の涙”を寄越せぇぇぇぇッ!!」
周囲一帯の民家を破壊し尽くした機獣オーバード・ハイドラが口を開く。
口腔部内に搭載された機関砲が、火を噴いた。
「ひっ――!」
未来の予定では子供たちを貫くはずだった弾丸は、咲子が駆る機獣オーバード・ネメアTYPE2に防がれた。
タテガミ装甲が弾丸を弾き、子供たちの退路を確保する。咲子はコックピット内に設けられている音声増幅器を使って、機獣オーバード・ハイドラに呼び掛けた。
「やめなさい! 横暴もそこまでよ!」
「ぬぅッ! 貴様、何者だッ!?」
「名乗る名は無いわッ! 行くわよ、ネメアーッ!!」
「グォォォォ!!」
サブモニターの上部にはバリアゲージが表示されている。このバリアゲージがゼロになると、機獣オーバード・ネメアTYPE2は爆発四散する。
操縦桿を前に押し出す。機獣オーバード・ネメアTYPE2は城壁から跳躍し、機獣オーバード・ハイドラに襲いかかった。
「しゃらくせぇッ!」
機獣オーバード・ハイドラがその場で急速旋回し、強靭な尻尾で機獣オーバード・ネメアTYPE2の横腹を殴打する。
「くぅっ!」
衝撃がコックピットを襲い、サブモニター上部に表示されているバリアゲージが10%低下する。
「グォッ!」
機獣オーバード・ネメアTYPE2は体勢を立て直すと、燃え盛る街に降り立った。
ズシン……と音を立てて、機獣オーバード・ネメアTYPE2が要塞都市に足を着ける。
「はぁっ!」
「グォォッ!」
「何度やっても同じことだ、間抜けがぁッ!」
機獣オーバード・ハイドラが再び旋回し、尻尾を打ち付ける。
咲子は、操縦桿を引いた。機獣オーバード・ネメアTYPE2が敵機の尻尾を蹴りつけ、頭上に跳躍する。
「なにぃッ!?」
「そう何度も同じ手は食らわないわ!」
機獣オーバード・ハイドラの上を取った。
咲子と機獣オーバード・ネメアTYPE2に、剣が語りかける。
『正義の味方さん! 時計の鍵を……セーフティデバイス01Dをエクストラスロットに差し込んで下さい!!』
「了解! セーフティデバイス、セット!!」
咲子は躊躇なく背中の剣を引き抜き、コックピット内の鍵穴に差し込んだ。
咲子は知っている。この奇妙な剣は、機獣の次元動力炉を制御するための鍵だ。
鍵穴に剣を差し込んだ瞬間、機獣オーバード・ネメアTYPE2の装甲が露出し、深紅の光を漏出させた――。
時間が空き次第、次話を更新します。




