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12.久石君の事情(3)☆

まだまだ下世話な話が続きますので、苦手な方はブラウザバックを推奨します。


※アルファポ版とは一部内容が異なります。



「その事務の子……見た目は大人しそうで、純情な感じだったんだけど」


フーッと久石は覚悟を決めたように一息吐いてから、話を続けた。


「純情でも控えめでも何でもなくて……医者と結婚するために、皆に良い顔をしていたみたいで」

「うーん、まあ……多かれ少なかれ、結婚したい子は好みの男性がいたら良い顔をするものじゃないの?男の人って医療系の営業さんかお医者さんくらいしかいないんでしょう?」


笑顔を振りまくくらいなら単なる処世術の可能性もある、と川奈は思った。大抵の受付嬢なら先生を敵に回したくないだろうし、その愛想の良さを誤解する男性もいるだろう。この時川奈は何となく後輩の小悪魔系美女、小日向を思い浮かべていた。


「愛想良いってレベルじゃなくて……その、自分から色んな医師に近付いて同時進行しつつ品定めをしていたらしいんだ」

「え、それって久石君と付き合っている時のこと?」

「そう……その、周りにやっかまれたら困るから付き合う事は当分内緒にしようって彼女に言われてさ。言い寄って来た看護師の子には、彼女いるからって言って断りを入れて一段落ついた気持ちでいたんだよね、だけど……」

「ええと、何で彼女が二股しているって分かったの?」

「当直って嘘を吐いて彼女と会っていた医師がいて」


つまりその受付嬢は周囲にバレないように……と言うか同時進行中のもう一人の医師にバレないように久石もキープしようとしていたと言う事なのだろうか、と川奈は推測した。


「た、大変だったね……」

「うん、けど結局その子とは深く付き合う前に二股が発覚して別れる事になったから、俺の方はそれほどダメージが無かったんだ。だけどもう一人の医師の方は同じ病院の看護師と付き合ってて、受付の子に乗り換えようとしていたらしい。だからバレた時、看護師達からかなり冷たい目で見られて、彼女居づらくなって辞めちゃったんだ」


川奈は「うーむ」と呻いて腕組みをした。


「何かスゴイね……ツイていないと言うか……そこまで行くと『女難』って言えちゃうかも。お祓い行った?」

「いや、お祓いは……」

「行った方が良いよ。あ、もしかして厄年だったんじゃない?」

「え?」

「男性は二十五歳が厄年だよ」

「……過ぎてる……」


軽い調子で呟いた川奈の言葉を聞いて―――苦々しい神妙な久石の表情かおに、フッと苦笑が浮かんだ。川奈は少し肩の力を抜いて、笑顔を浮かべる。告白を重ねる度、ドンドン地の底に落ちて行きそうな様子の久石を何だか和ませたくなってしまったのだ。

お互い喉を潤して人心地付く。少し話題の方向を変えた方が良いだろうと、川奈は気になっていた事を訪ねる為話を元に戻す事にした。


「えっと……その彼女とは結局出来ずに終わったんだよね?だからその……病気なんじゃないかって気付いたんだ」


久石は表情を引き締めて、頷いた。


「うん、今思うとその……妙に彼女、積極的と言うか慣れているって感じだったのも駄目だったのかもしれない。一度そう言う雰囲気になって、あっちから押し倒して来たんだ。何だか以前の記憶がよみがえって来ちゃって。俺の方は全然その気になれなくて……それ以降は会う時はそう言う雰囲気にならないように気を付けるようになった。だから彼女も他の相手に興味を移したのかもしれないけど」

「いや~……普通はだからって、同時進行はしないと思うよ?」


もうその受付嬢には『ハンター』と言う称号を与えても良いかもしれない。そりゃあ、居づらくなるだろう……と川奈は思った。


「……そうだね、確かに。後で聞いたんだけど、彼女遠野にも言い寄ってた節があって」

「遠野さん……って、この間ランチに代打で参加した、あの?」


そう言えば小日向に『何か問題がある』と指摘されていたあのモテそうな研修医が遠野と言う名前だった。七海の夫の黛に随分辛辣な扱いを受けていたが、ノリも良いし感じも良かったように記憶している。容姿で言えば黛の方がずっと遠野より完璧だったが、彼は常に妻の七海優先で他の人間に愛想を振りまくと言う事が全くなかったから、おそらく職場や飲み会などでは圧倒的に遠野の方がモテるだろうと言う印象を受けた。あまり目立つタイプが好みでは無い川奈は興味を引かれなかったが。


「そう、でもアイツはそのー……なんていうか慣れているから、面倒臭そうだって上手く避けてたみたいなんだ。あと俺と彼女が付き合っているのに気が付いていて、一応遠慮してくれたんだと思うけど」

「遠慮って……あの人確か婚約者いるんだよね?」

「うーん、何て言うかそう言うのにこだわり無い奴で」


なるほど、小日向の勘は当たっていたようだ、と川奈は思った。


「つまり『遊び人』ってコト?」

「うっ……まあ、男同士で付き合うなら悪い奴じゃないんだけどね……ほら、アイツ、カッコ良いし要領良いしモテちゃうのは仕方ないんだけどね」

「……庇うのは自分も『あわよくば』って思っているから?」

「えっ……」


ジットリとした視線を川奈に送られ、久石は慌てた。


「そんなワケ無いよ!」

「だって、久石君も結構モテるでしょう?……もし私と付き合う事になったら、遠野さんみたいに余所見するんじゃないかな?」

「まさか……」

「その受付の子には未練はないの?」

「ないよ。その……やっぱりちゃんと好きだって相手と付き合わないと駄目だなって改めて思って。それに何だかその子、思っていたのと随分違うと言うか……後から色々分かったけど、見た目と中身が随分違うって分かって合わないなって思ったんだ」

「それって、単に見る目が無いって事じゃない?」


ズバリと川奈が指摘すると、久石は一瞬言葉に詰まりたじろいだ。


「うっ……それは本当にそうなんだけど」

「私の事もそうやって『後から違った』って言いそうだなぁ」

「そんな事あり得ないよ……!俺は、その川奈さんの事は本気で……」


焦ってオロオロと弁明を重ねる久石を見て―――川奈はとうとう噴き出してしまった。




次話で『久石君の事情』最終話となります。

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