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私の日記  作者: コーレア
002 伊賀編
13/146

030408 外階段→旧校舎前

 ノックをすると、すぐに返事が来て、扉が開く。

 扉を開けたのは、部屋の中にいた中岡玉枝さん。燈川大学に35年間在籍している魔法使いであり、同じ年数にわたり学園長室を含む麒麟棟と咲洲の来客専用の宿泊所のメイド長を勤め、入学式の時にも職員の1人として紹介されていた人物だ。

 傍らの週替わりの燈川大学の丹生キャンパスの家政科の学生ら4人から真剣な表情で見詰められている中岡さんは、予め用件は伝わっていたのか「お待ちしておりました」と微笑みながら言い、そして私達を部屋の中へ案内する。

 53とは思えぬ美貌の中岡さんに案内されたのは、既に対面に雨降学園長が座っているソファー。真ん中に河尻さん、両端に薫さんと私が座ると、すぐに私達の前に暖かいお茶が出される。紅茶や珈琲が飲めず、少し猫舌である私でもすぐに喉を潤せて、外階段に吹き付ける風で少し冷えた体が暖まるお茶は、やはり何時もよりおいしく感じた。


「さて。用件は新しい部活の創部ですね?」


 先に机の上に乗っていたティーカップで紅茶を飲んでいた雨降学園長の言葉から、創部の書類上の最終手続きが始まる。

 返事をした河尻さんが、3つの判子が押されている創部願いの用紙に加えて、創部理由などを書いた紙を出し、それを学園長がじっくりと読んだ。

 3分ほどして読み終えた雨降学園長は、表情も変えず、声も発する事なく、紙を机の上に置いて、自分の後ろに控える中岡さんの方をわざわざ向いて、一言口にした。


「判子と万年筆を」

「はい」


 その言葉にほっとしている間に、机の上に判子と万年筆のセットが置かれ、雨降学園長は慣れた手付きで創部願いの用紙に自分の名前を書いていき、次いで判子を押す。

 この瞬間に創部が確定したわけだが、まだ部活の中心たる部室が何処になるかは聞いていない。岸田先生曰く、目の前の雨降学園長が知ってるらしいが………。


「さて。君達は旧校舎の事は知ってるかな?」

『は、はい』

「明日に岸田先生から鍵を渡されると思うが、君達の部室はそこの1階の一番奥の部屋になる。生徒の間では『桐』と呼ばれている部屋だ」


 ………………なんですと?


「学園長」

「んっ?」

「旧校舎の『桐』の部屋は、重要文化財に指定されている所では?」

「そうですよ?」


 そうですよ? って………ええ。


「因みに改革の姿勢を内外に示すためと、旧校舎も掃除してほしいというこっちの身勝手が多分に含んでいます」


 ………………なにもいわないでおこう。

 フリーズ状態から復活した河尻さんに雨降学園長が明日の段取りを言い、それで創部の手続きは本当に終わった。


「一緒に降りるかい?」


 また外階段を使うのは出来るだけ遠慮したいので、学園長からのお誘いにのって、私達はエレベーターで1階まで降りる。

 そして、学園長と学園全体の職員室の前で別れ、行きと同じように中央口から外に出る。


「これですよね?」

「ええ」


 中央口は中等部の校舎の道路を挟んだ対面にあるので、その東隣にある初等部の校舎に挟まれた木造の校舎はすぐに見えた。

 土佐から畿内を縦断して若狭へ抜けた室戸台風は、当時では史上最強クラスの台風であり、校舎が木造の所が多かった事に加え警報の発表が登校後だったという事もあり畿内の学校の関係者に大きな被害が出た。更に、台風の右側にあった大阪湾はやはり最強クラスの高潮に見舞われ、この燈島でも全ての校舎が1ヶ月も使えなくなるという大被害を受ける。

 その中で、補強などをしていなかった初等部の校舎は呆気なく吹き飛ばされ、仮の木造校舎が建てられて、現在の初等部校舎の基礎になっている鉄筋コンクリートの校舎が完成するまで教室として使われ、その後は音楽室などがあり続けた。

 しかし、時が経ってくると、元々が今で言うプレハブの建物に近い目的が作られた建物である事もあり、他とは違い大した補強もされず、次第に使われなくなる。


「本当に(ニシン)が干してますね」

「干してるね」


 そして、最後まで使われていた音楽室の撤退と丹生キャンパスの完成による家政科の移動によって、常時使われる事は無くなる。

 この時点で、旧校舎を壊して初等部の校舎を移転させるなど取り壊しの案がよく出ていたが、区立の初等部と州立の中等部の対立などから、そのまま時々使われるだけの部屋になった。

 更に、北半球戦争で生き残った艦の中で、海外でもその名前が知られるほど活躍した戦艦『大和』の艦内の神社が、『大和』の現役引退時に当時の艦長・猪飼利貞大佐(高等部魔法科卒業生)の縁で送られてそれを置いている和室があり、そこにテロ事件後に燈川学園に送られた唯一の勲章である勲一等旭日桐花大綬章(きょくじつとうかだいじゅしょう)も生徒が鑑賞するために保存された事から、更に壊しにくくなり、今では2階・3階が物置として、屋上が家庭科部の天日干しに使われている。

 その屋上の天日干しの装置を見上げ、そして他とは違い門がなく直接見える玄関を見る。

 閉じられた木の扉は、静かに(たたず)んでいた。

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