表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻泡影のアザレアカフェ  作者: ナナカセナナイ
ゆるふわ金髪少女 折部詠ルート
56/56

五話「吟詠の夜に、詩歌ありて」⑧

遅くなりました。何とか畳んでいきたいと思います。

 すっかり慣れてしまった仕事を、薄ぼんやりとした頭で終わらせていく。

 思案すべきことはいくらでもあった。自分自身のこと、詩歌、早広の事、そして詠のこと。

 全ての集まりが作為的であり、何もかもが誰かの手のひらで踊らされてるような、そんな気持ち悪い感覚。


「あいつしかいないか……」


 思い描いたのは詠の顔だった。彼女はおそらく全てに至る答えを知っており、俺に明確な道を示してくれた。


「”選別”が終わったら、全部話す、か……」


 至極単純明快であった。なによりも、今の彼女をどうにも放って置けそうになかった。

 彼女と自分が先の件で初対面でないことはもはや自明の理であった。

 もう自分で動かなければ真実は何も掴めない。


「榊、わり、上がるわ」

「はああああああ!? 唐突だなてめええ?」

「いやもういけるだろ、お客さんも引いてきたし」


 調理場から客席を見渡す。やがて一件のオーダーが通るとともに、詩歌の声が響いた。


「オーダー待ちこれで以上です」

「だとよ」


 得意気に俺は告げる。少しでも時間を作って詠と話がしたかった。


「はあ……、また女絡みかよ……、あんたも好きだよなあ」

「いや違うお前は何かとてつもない勘違いをしている」

「違うのか?」

「違わないけどな」


 自然と二人に口から笑みが零れた。そういえばこいつはどうなんだろう。榊も何かの目的のもと、集められたはずだ。


「……あの、さ」

「”選別”のことか?」

「っ」


 知らず距離を取った。自分の愚鈍さに腹が立つ。こいつもグルか。


「おいおいそんなびびんなよ。別に危害加える気はないさ。”落伍者”くん」

「”落伍者”? なんだよそれ」

「まだ自分の立場がわかってねえようだな。俺も選別の参加者なんだよ、お前より上位のな」


 曖昧な記憶をたどる。そうか、自分はいま敗者復活戦の位置づけにいるのだ。


「つまりなにか、戦う気はないと?」

「そうだな。今のところは。……でも、上がってこいよ。俺はてめえと殺り合いてえ」

「物騒だな……。て、ことは詩歌の家のことも茶番か?」


 腐臭に塗れた記憶を思い返す。あれから全てが狂い始めた。


「俺はツレの指示に従ったまでだ。おっさんと女は知らん……が、あれは多分監督者だ」

「監督者?」

「ゲームの審判のようなものだよ。といってもそんな生易しいもんじゃなくてな。自らガンガンゲームに介入してくる」


 趣旨は全く不明だが、あれが奴らなりの介入の仕方なのか。


「まだわかんねえのか。みんなてめえの記憶を取り戻したいんだよ。片倉本家の坊っちゃんのな」

「榊、どこまで……」


 知っているのか、とは愚問だろう。むしろ知らないのが俺だけなのだ。

 

「正気の沙汰じゃないだろ……、死体抱え込んでまで!」

「そうまでして取り戻したい記憶があったら?」

「何、を」


 榊は詩歌に合図すると、俺を連れ、BYへ向かう。

 鞄から取り出したのは、一枚のレポート用紙だった。



 200●年  46回財閥後継者 高能力者選別試験(通称 選別)報告書


 参加者(別紙A)のうち、生存者は片倉恭平、折部詠のみ。

 貴重な後継である片倉静玖を亡くしたのは大きな誤算であった。

 また、この選別により他20名の尊い命が失われることとなった。

 この反省点は今後の選別に大きな貢献を果たした。


概要


 保全管理した片倉所有敷地内の建造物にて、建物の出入り口全てを封鎖し、一定時間ごとに配給される限られた食料で、考課者のストレス耐性、生存適正、コミュニケーション能力を計測するもの。


結果


 食料搬入経路の全てが何者かのハッキングにより、遮断。開始三日目にして食料の供給が途絶えた。考課者の脱出を防ぐための防壁が仇となり、救出が困難な状況になる。

 途中何度か破砕を試みるが失敗。管理区域ということもあり、大型重機の搬入が困難であった。

 開始十六日目が食料、水なしでの生命活動のリミットであった。そのころになっても救出策の目処は立たなかった。

 開始三十日目。監督者、瑞原詩織がハッキング遮断に成功する。(彼女は後に場内の一部始終を見た影響か、心神に不安定な点が多々見られ、後に自宅のマンションのベランダから飛び降りて自殺する。この結果も鑑みて、当選別の犠牲者数が21名だとする声もある)救護隊が突入するも、死亡が12名(全てに部位欠損あり)、心肺停止が8名(後に搬送先の病院にて死亡確認)、意識不明が2名(両名14日後に意識回復)。

 

 選別結果は一旦保留とされるが、審議の結果、死体の部位欠損と2名の生存者あり、ということもあり「食人」の可能性が上がる。

 人道的見地、また王者に相応しくないとの理由から両2名は失格扱いとなされた(これは後に情況証拠のみと強い批判を浴びている)


 ※追記 201●年 7月 再審議の結果、証拠なしと判断。両2名を再選別に投入するとの判断が議会によりなされた。


 ※ハッキング詳細は別紙Bを参照。具体的な原因は判明していない。


結構まだまだ続く予定です。気長にお付き合いくださいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ