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季節は神の悪戯か  作者: 迫る騎士鹿丸
第一章:静かな冬の森にて

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第一話

空には一面、白い雲がかかっていた。分厚く太陽の光を少ししか通さない雲。

残念ながら今日も朝日を見られそうにない。これで、1週間連続で天気は曇りである。

雲ひとつない快晴の青空を最後に見たのは一体いつだったか。

現在の空模様と同様、晴れない心持ちの男はため息をつく。


男は森に住む狩人である。

といっても、都合よく獲物に出会えることはそうないため、森に住む動物を狩ることは稀である。

普段は木の実や山菜を採取してとれた食べ物と小さい畑で採れる作物を食べて生活している。

しかし、最近は食べ物に困る日々が続いているのだ。


季節は湖が凍るほど冷える冬。

畑は休閑させており、何も食料は得られない。

貯蔵しておいた芋や穀類は底をつきかけていた。

山の恵も尽きかけており、男が雪をかき分けて探しても少ししか得ることができない。


これは例年より異常に冬が長いことが原因である。

去年も一昨年も、男が数えた限りではおよそ九十日で春になったにもかかわらず、今年はおよそ二百日経っても冬は明けない。

おかげでいつ開けるか分からない困難に立ち向かわされているという現状に、男は不安を隠せない。

とはいえ、愚痴を言っていても仕方がない。

今日もきっと収穫はないだろうと予測しながらも、外へ出て食料を探すことにした。


男が住んでいるのは小さな掘立て小屋である。

山の斜面を自分で平らにし、木を倒して柱にし、近くに生えていた竹を屋根にしてかれこれ五年ほど住んでいる。

家造りの方法など全く知らないまま思い切りで建てたが、意外と丈夫に出来ていて愛着もある。

できればここで残りの人生を過ごしたいと思うほどだ。


男は毛皮で作った上着を羽織って、藁で編んだブーツを履く。

ブーツを履く際に、つま先のあたりが破れそうになっているのを見て、昨日の出来事を思い出す。


昨日は大変だった。

いつものように家を出て、獣道を歩き食料を探していた時だった。

少し霧があったせいかは分からないが、崩れた雪と共に崖から落ちてしまったのだ。

幸い雪がクッションになってくれたため、地面との衝突によるダメージはほとんどなかったのだが、途中で木に引っかかってしまい、そこで足を強打してしまった。

骨が折れるほどではなかったが、今になって腫れてきた。その上、ブーツを破損させてしまったとは。

とりあえず、今日は無理をしないようにして、帰ったらブーツを直すとしよう、と決めて立ち上がる。


身につけるものの支度が終わったので弓矢と、獣の皮を加工して作った水袋、採取したものを入れるための袋を持ち扉を開けて外に出る。

どうやら昨夜は雪だったらしい。屋根に雪が積もっている。

帰ったら雪を下ろすという面倒な作業が増えて、またため息をつく。

ただでさえ食料が少ないのだ。消費するエネルギーは少ない方がいいというのに、この現実だ。

果たしてこの冬を乗り切ることはできるのだろうか。

不安で体を縛られそうになるが、なんとか一歩踏み出し、雪の森を歩きだした。


冬の森は静かだ。

ほとんどの動物は眠りについており、たまに鳥かうさぎを見るぐらいか。

後は水の流れの音や、木々から雪が落ちる音を聞く程度である。

無音という音で満ちた森を一人、男は周囲を警戒ながら進む。

もしかすると、眠りから覚めてしまった熊などの猛獣がいるかもしれないからだ。

男は実際にその姿を見たわけではないが、少し前に新鮮な熊の糞を発見した。であれば、他の猛獣が目覚めていても不思議ではない。

分厚い雪をかき分けながら、注意深く進んでいく。


男の予定では、まず、森で食べ物を探し、その後で川に行き水を汲んで家に戻る。

雪に包まれたこの森からは何も取れないのではないのかと思う人も多いかもしれない。しかし、実際はそんなことはない。

木のあたりをよく観察すると、キノコがついていることが多い。毒入りのものもあるが、見分ければいい食料だ。

名前は知らないが、時々赤い木の実がついていることもある。


こういった知識は幼い頃に、親と森に入った際に教わった。

思うと、森との正しい付き合い方、気をつけなくてはならないことなど、重要なことは全て今は亡き両親から伝授されていた。

この教育がなければ男はとっくに死んでいただろう。

男は心の中で手を合わせつつ、ちょうど見つけたキノコを袋に入れる。


それからおよそ一時間、森を歩き回り、袋を半分ほどまで満たした男は川へ向かうことにした。

微かに聞こえる川の音を頼りに歩く。

木々の間から見える空は相変わらず灰色だが、明日分の食料を見つけることができたためか、朝よりは少し明るく見えた気がした、その時だった。


「おい、そこのお前。」


どこかから声が聞こえた気がした。

まさか真冬の森に他の人がいるとは思わず、気のせいだと思い、そのまま歩き過ぎようとすると、


「やはり聞こえんか。わらわの声が聞こえるものが次に生まれるのは一体いつなのやら。」


その声を聞いてもやはり気のせいだと思ったが、一応確認をしておこうと思った男は、声がした方向を向いた。

すると、そこに立っていたのは明らかに異質な女だった。

見た目の年齢は十代後半というところだろうか。その点はまだ良い。

男と同じように森の中に住む者の子供という可能性があるからだ。


では何が異質かというとその格好だ。

男がコートを着ても寒いと思うほどの気温だというのに、少女が着ているのは白い生地を基調にした上に、赤い模様や黄色い紐がついた、袖口の広い服である。

それ以外は特に身に纏っておらず、見ているだけで寒々しい。


それから、容貌も普通の人間とは異なっていた。

具体的にいうと長い銀の髪、それから頭から生えている耳だ。

男は生きてきた中で、若い頃から銀髪の持ち主という存在に出会ったことがない。

無論、獣の耳を生やしている人間にも。


そういうわけで男は、一瞬でその存在が人間ではない、人間の形をした何かだと察した。

無意識に、肩にかけている弓に手をかけながら男は問う。


「お前は何者だ?」


男の質問に女は笑いながら答える。

敵意を向けられても、怖がる様子はなく、むしろ面白がっている様子だ。


「わらわか。わらわはエトロンという。お前たちのいうところの神じゃな。」


「神?」


その言葉に戸惑いながら、とりあえず敵ではなさそうなため、弓にかけていた手を下ろす。


「そうじゃ。お前は創世記は知っておるな?」


「ああ。」


幼い頃、寝る前に何か話してくれと、母にせがむと、大抵聞かせてくれたのが創世記の一部だったため、男は自然と中身を覚えてしまった。



昔々、この世界は不毛の大地だった。木も、草も何もない、ただあるのは灰色の土だけ。

そんな世界に生命を生み出したのが四人の女神である。

それぞれ、風、光、火、水を司っていた。


まずは光の女神がこの世界に太陽を与えた。

それまで暗かった世界は輝きを得た。


次に水の神が大地に川を導き、海を創った。

それまで乾いていた世界は潤いを得た。


次に風の神が空気を生み出した。

それまで呼吸することのできなかった世界は、生命が住むに適した環境となった。


最後に、四人の女神が力を合わせて、この世界に生命体を生み出した。

かくして、世界は創られた。


今でも、四人の女神はこの世界を維持するために、世界のどこかを回っているという。



男が遠い記憶を引き起こして創世記の序章を暗誦すると、女ーエトロンは嬉しそうに笑った。


「よう覚えているのう。わらわがその水の女神じゃよ。」


「お前が…いや、失礼。あなたが。」


目の前の存在が自分より遥に高位の存在であると知って、慌てて言葉を正す男。


「良い良い。先ほどまでの話し方にしてくれ。その方が楽じゃ。」


「そうですか…いや、違うな。分かった、エトロン。

 いつも通りの言葉遣いでいさせてもらう。俺はコタンだ。」


「そうかそうか。

 して、コタンよ。わらわは今、休める場所を探しているのじゃが、どこか良い場所はあるかの?」


「それなら俺の家で休んでくれればいい。」


コタンはエトロンの体を見ながら答える。

先ほどは軽くしか見ていなかったので気づかなかったが、よく見るとエトロンは傷だらけだ。

白い服には血が滲み、銀髪はくすんでいる。素肌が大きく露出している足にも切り傷がいくつか見える。

雪のように白く美しい肌に、赤色の血はより際立って見えて痛々しい。

神の体についてはよく知らないが、少しでもその傷が癒えるといい。そう思いながらコタンは答えた。

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