三十話 お抹茶色の嫉妬劇
カレンさんからの一方的なからみに耐えているというのに、空気を読まないゾーイがついにソワソワし始めた。
「あ~、やっぱりオレも研究室に行ってくるわ。なんとなくスライムも心配だし。じゃあな」
おい、ごるぁ~!?
「そうね。それじゃまたあとでね、ダーリン♡」
ダーリンかい。ハート飛びまくりかよ、おいっ。
むしろ自分の腹の立ち方に驚いてしまっているわよ。
どうすりゃいいのよ!?
これっていわば、修羅場だよ?
人生で初めての修羅場なんだよ?
どうやってのりこえればいいのよ!?
いや。
あ、そうだっ!!
「カレンさん。鏡って持ってますか?」
はぁ? とでも言いたげに、カレンさんがもちろんよ、と答えてくれた。
よしよし。カレンさんの態度はおそろしいままだけども、鏡さえあればのりこえられそうだわ。
しかもちょうと、シフォンケーキを食べ終わったところだし。
「カレンさん、鏡でお口の中を見てくれませんか? 特に舌を」
「え? なんでですか? ノゾミ様。あたらしい嫌がらせですの?」
……それはあなたです。
なんて言えないから、うっすら笑いを浮かべることしかできない。
しかも、敵もさることながら。食べた後にレモンスカッシュをがぶ飲みしている。
おのれ、これでは策が成功しないてはないかっ。
しかも、男性陣の前では決して見せない不機嫌さをまっっったく隠そうともしない。
で、ようやく鏡で口の中を見回す。
「あら、嫌だ」
そうそう、そのリアクションを待っていました。
お抹茶のシフォンケーキといえば、舌がお抹茶色に染まる確率がそこそこ高い。
ってなわけで、カレンさんはますます不機嫌に。
うぉっ。そんなつもりではなく、笑わせようとしただけなのにっ。
「ふぅ~ん? 楽しいことをお考えですのね、ノゾミ様は」
こわい、こわいよぅ。
誰か、もういっそディール様でいいからたすけてっ!!
「あ、そだ。マカロンってお好きですか? カレンさん」
「好きですけど、今はマカロンの話をしたい気分ではありませんわ」
くそぅ。話をそらせないのかぁ~っ。
そんなわけで、蛇に睨まれた蛙のごとし。
視線すら外すことができない。
「こうなってしまった以上、ノゾミ様としっかり話し合いたいのですが、よろしいですか?」
ため息交じりから始まったカレンさんの言葉が、やけに頭の中に響いてくる。
「ノゾミ様は本当にディール様がお好きなのですか? それとも、幼馴染みのゾーイのことをいまだに好きなのか? はたまた意表をついてギュル様がお好きなのか?」
すごいな。これだけのことをたった一息でまくし立てられるとは。
「さぁ、白状してもらおうじゃありませんか?」
あ~っと、そのぉ~。
めちゃくちゃこわいよぅ!!!
つづく




