二十八話 スライムの秘密
「み、緑色?」
全員の頭の中がはてなマークでいっぱいな中、ただ一人冷静なのは、抹茶味のシフォンケーキを頬張った状態のギュルディーノ様。
「そ、そのスライムは死んでいるのですか? ギュル兄様。それとも、解凍したら復活する、とか?」
おそるおそるといった様子のディール様は、あたしの背中にかくれて小声で聞いた。
「それか、カビとかです?」
なんてゾーイがとどめを刺したものだから、ディール様がまたぴぃぃっと悲鳴をあげる。
それなのに、だ。この状態でただ一人冷静にお抹茶色のシフォンケーキをむさぼるように食べつづけるギュルディーノ様の神経が読めない。
おなじ色のスライムを前にして、気持ち悪くならないのかしら?
「案ずるな。これはカビではないし、解凍する必要もない。コレはもう、死んでいるのだ」
え?
死んでるの?
スライムが?
凍らせただけで!?
あのしつこいブニプニがっ!?
ますます頭の中がはてなでいっぱいになる。
「なんとこのスライムは、鉱石と吸着することで水の毒素をこすような性質を持っていたのだ。それゆえ、鉱石と離したり、凍結させるとすぐに死んでしまう。しかも、だ」
まだ口をもぐもぐさせていらっしゃる魔王様、ギュルディーノ様は、おもむろにゾーイにスライムを床に叩きつけるように命令した。
「こう、ですか? えいっ!」
すると、どうだろう。お抹茶色のスライムが、ばらばらに砕け散った。
それはまるで、金属製のようであり、このスライムが本来は金色だったことの証明でもあるように思えた。
「綺麗……」
そのカケラを目ざとくかけより、つかみ上げたのは、やっぱりというべきか、カレンさん。
侍女長って、なんだかストレスの多いお仕事なんだろうか、と、ふいに心配になってきた。
それにならって、ゾーイもカケラの一つをカレンさんから受け取った。
「重さはスライムではなく、金属そのものですね。たたきつける前よりずっと重く感じます。すると、生きている状態ではかなりの重量があるってことですか? しかも、鉱石と生存共生しているなんて、聞いたこともないですね」
そこはさすが、スライム退治で名を馳せたゾーイだけあって、適切な説明だ。
スライムを食べたりこねたりはしたけど、金属製のスライムは、さすがのあたしもさわる気にはならない。
あたしの背中で小刻みに震えているディール様も絶対におなじだと思う。
「このスライムと鉱石を研究したら、水が元となっている疫病の治療法と、水の浄化法が見つかりそうな気がするのだ」
な、なるほど。さすがはギュルディーノ様。しっかりと先を見こしていらっしゃるのですね。
だって、疫病が治らなかったら、奥様は凍結されたままになってしまいますものね。
直接会ったことがないけど、あたしのお菓子をよろこんで食べてくださったヒトミ様には、感謝しかないから、ご病気がよくなられたら、すぐにでもあいさつにうかがいたいな。
「ギュル兄様がそうおっしゃるのでしたら、ボクも研究におつきあいしますよ」
「ああ、それと。ディール、これを彼女につけてやれ」
ギュルディーノ様が取り出したのは、金色に輝くまばゆい指輪。
彼女、というのは、どうやらあたしのことらしい。
「え? 兄様、これはどういう?」
「結婚を前提におつきあいをしているのだろう? いつまでもカレンに横恋慕を抱いているのではないかと心配していたところだ。いたらない弟だが、これからもよろしく頼む」
……待って。偽装なんです。偽装、なんです。
そして、カレンさんの目がおそろしくこわいのだ。まるで、なんであたしにだけ、この指輪をくれるのか、とでも言いたげだ。
「ノゾミには守護の魔法は使えないのだろう? これは我が守護を込めたものだ。カレンには必要なかろう?」
すっかりギュルディーノ様に見透かされていたカレンさんは、ふん、と鼻を鳴らすのだった。
つづく




