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二十四話 養鶏場の娘

 ゾーイはあたしの初恋の人だ。近ごろになって、ようやくそのことを自覚している。


 うっかりすると、それ以来恋をしてこなかったような気さえするからおそろしい。


 あれは、あたしがまだ七つか八つの頃だった。


 自宅が養鶏場なことを、男の子たちにからかわれていた時だった。


「なに? あんたら、卵も鶏肉も食わないつもり? そいつぁご立派な考えですな」


 まさかの同じ年だとは知らなかった。その頃からすでに、お婆さんにお菓子の本を買ってもらっていたあたしは、お菓子づくりのシュミレーションを毎日毎日脳内で繰り返していた。


 だから、一見すると暴れん坊に見えたゾーイが、案外繊細な思考をしているところに痺れた。


 そして、好きになったんだ。


 人を好きになるきっかけなんて、それこそ千差万別なんだけど。 


 そんな風にかばってくれたゾーイに、やっとの思いで作ったレモンケーキを渡しながら『好き』なんて告白したのに。


「わるいがオレは、あんたを好きになれる自信がない。ほかをあたってくれないか? ただ、オレはあんたの作る菓子は好きだ。できればこれからも試食させてくれないか?」


 という、微妙な返事をもらったのだった。


 そんな話をディール様にしながら、お針子に没頭する。


 失恋した者同士、なんとかお互いの想いを届けよう作戦と題して、偽物の恋人同士を演じることになった。


 それならば、とお互いがどれくらい相手のことを好きになったのかを話しているわけだ。


「でも、それはゾーイが恥ずかしかっただけかもしれないけど、違うのかな?」

「そう、なんですか? だって、お菓子しか褒めてくれない上に、あたしより綺麗なカレンさんを選んだし。なにより今まで、お菓子を食べかけで放置したことなんてなかったのに」


 思い出しただけで胸がムカついてくる。


 ゾーイのために、ここまで自分が本気になるなんて、思ってもみなかった。


「まぁ、そうあわてて結論を出さなくてもいいのではないかな? それよりそのレモンケーキって、おいしいのかい?」

「はい。コーヒーや紅茶とはよく合いますよ。シンプルだけど、好きな人はとことん好きです」

「だったらボクも食べてみたいな。かまわないかな?」

「え?」


 なに? この急な乙女ゲーム的なフラグ? は。


「かまいません、けど。そんなのでもいいのですか?」

「ああ。今度はボクたちが二人の前で食べさせあいを見せつけてあげようじゃないか?」


 それはぁ~。さすがにぃ~。恥ずかしいのですがぁ~。


「どうして? カレンはきみに対して意地悪をしたんだよ? わかるでしょう?」


 わざと見せつけた、ってこと? まさか。だってカレンさん、あんなに綺麗なのに。あたしなんかをけん制する必要なんてどこにもないのに。


「それは、きみがまだ本当の恋を知らないからかもしれないよ? 恋って、人を美しくも変えるけれど、どちらかと言えば醜く変えてしまうものだから」


 それは、ディール様のこころが醜くなってしまったってこと?


 ディール様は、これまで少なくとも三回はカレンさんの結婚で絶望を感じたはず。


 だから、その三回とも、こころが醜くゆがんでしまったのだろうか?


「もしボクがきみだったら。かまわずゾーイにくちづけていたのだけどね」

「なっ!?」


 いやいやいやいやいやいやっ!!


 さすがにそれはありませんってっ。


 つづく





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