第二十三話『先手』
敵の放った航空機、その数百十機。
これが露払いとして、艦隊の進路の安全を確保するというのだから、帝国側の本気度というか、惑星Gの重要度というものがうかがえる。
なにしろこの星は帝国本星スカルに近く、乙姫の解説では資源となる鉱石も豊富であり、両軍どちらにとっても重要拠点なのだそうだ。
それは本気にならざるを得ないだろう。
そして航空機に続いて電探が探知したのは、四隻の航空母艦であった。
大型空母ニ、軽空母ニという編制である。
「それだけじゃないよ、艦長! 輸送艦隊なんて五十杯もいるんだから!」
「取り放題のやり放題だね。水雷戦隊が応援に来てくれてよかったよ」
そうでなければ魚雷の数が足りないところだった。
そうなるとだ。
「ねぇ、乙姫。いつもなら乙姫が追い立て役で桜姫が仕留め役だったけど、今回は仕留め役を水雷戦隊にまかせてみようか?」
「そうですね、先制魚雷は数が多ければ多いほど、追い立てに成功しやすいですから」
ということで、桜姫には乙姫のそばについてもらって、一緒に追い立て役と防空任務を果たしてもらうことにする。
「そんな感じですけど、準備はいいですか、水雷戦隊司令?」
もちろん暗号文の無線だ。
「こっちはいつでもいいぜ。輸送艦なんざ一隻たりとも惑星Gには行かせねぇからな!」
もちろん暗号文の返信だ。
「間もなく、敵航空部隊。主砲の射程距離に入ります!」
「電探で敵の位置はバッチリ見えてんだ。みんな、外すなよ!」
砲雷長が檄を飛ばす。
「有効射程、入りました」
「撃ち方始め!」
砲雷長の号令よりはやく、桜姫の方が撃ち始めた。
弾が飛ぶ。
そこへ敵機が飛び込んでくる。
命中したその場所が、ギリギリ有効射程距離ということなのだろう。
さすが自信満々なライゾウだ。
そして僕の期待通り、桜姫の砲弾は一瞬で五機の飛行機を消滅させた。
遅れて乙姫の砲弾もすべて命中。
それを確認することもなく、桜姫は毎秒一回の斉射を繰り返す。
まるで「命中して当然」とか、「確認する必要も無い」というような連続射撃である。
ヘルメットのバイザーに映し出された映像を見ていると、桜姫の主砲は一発撃つとすぐに細かく調整を入れて、次の射撃に移っていた。
これがライゾウの射撃能力なのだろう。
乙姫も負けないように撃ってはいるが、弾幕の濃度には明確な差が出ていた。
桜姫六割、乙姫四割といったところか。それもジリジリ押されている。
敵をすべて撃ち落としたら、7:3になっているかもしれない。
だけど。
「ねぇ、乙姫。これだけ派手にやらかしてたら、輸送艦隊は逃げ出すんじゃないんだろうか?」
「本来ならばそれが正解なんですけど……まったく進路を変える気配がありませんね」
確かに、電探がとらえたら敵をCG化して映し出してもらってるんだけど、敵の補給艦隊はいまだ進路を変更していない。まっすぐにこちらへ突っ込んでくる。
「もしかして護衛機動部隊に、絶対の自信があるんじゃないのかな?」
「負けるはずの無い機動部隊ですか……? ちょっと能天気すぎますけど、調べてみますね」
たしかにこの界隈は敵の領海だ。
だけどそれは惑星Gの飛行場が機能していれば、の話だ。
駆逐艦ひとつ浮かべていない慢心しきった海域で、航空部隊が全滅していたら、どうなることか?
それは応援の水雷戦隊がすでに侵入して来ていることで答えが出ている。
この海は、すでにアルファ軍の海なのだ。
もう、君たちのものではない。
たったそれだけの、簡単な解を出すために、帝国軍は航空機という代償を支払っている。
愚かなと嘲るなかれ。
情報が入ってこないというのは、そういうことなのだ。
それにしても砲弾で歓迎されていれば、惑星Gの帝国軍が全滅していることに気づきそうなんだけど。
それこそ、「まさか」という事態なのかもしれない。
主計長の話では、大量に人員と物資を投入され続けたおかげで、惑星Gのアルファ軍は危機的状況。
あとひと押しふた押しで全滅というところまで追い詰められていたそうだ。
そりゃあ帝国軍があっさりウッチャリを食らうような全滅をしていようなどとは、想像もしていないだろう。
「敵空母、第二次攻撃隊を発艦させました!」
「よし、桜姫につないで」
僕は無線のマイクを手にした。
「ライゾウ、第一次攻撃隊の残りはまかせていいかな?」
「もちろんだよ、乙姫はどうするんだい?」
「敵の空母が第二次攻撃隊を出したんだ。そっちを狙うよ」
「すぐ終わらせるから、オイラの分もとっといてね」
乙姫クリューは必死で撃墜稼いでるのに、ライゾウのヤツはまったくの余裕みたいだ。
そこに水雷戦隊司令官が割り込んでくる。
「おいおい、あんまり派手にやって輸送部隊を逃さないでくれよ?」
「そのときは脚の速さがモノ言う水雷戦隊。オオカミみたいにどこまでも追いかけていって、仕留めるんでしょ?」
それこそが水雷戦隊の本領なのだから。
そして敵の第二次攻撃隊が射程距離に入った。
またもや桜姫の主砲が先に火を吹く。
すでに第一次攻撃隊は桜姫の猛攻に逢って消滅していた。
航空部隊の後ろには敵の空母。
そしてその向こうには敵の大輸送船団。
いよいよ本命が迫っていた。




