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ゆるふわ怪奇譚  作者: 灰猫と雲
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其の五「イタコ」

全てのホラーが怖いなんて思うなよっ!

神八代 祝人は辟易していた。

平日休みの今日、朝起きてすぐに出かける準備をし車に乗り込んだ。家から車で30分ほどのところにあるずっと気になっていたラーメン屋に向かうためだった。多少なら並ぶ覚悟はあった。しかし予想に反して開店時間より少し前に到着したにも関わらず誰1人並んでいなかったのである。これはとても幸運だとニコニコ顔で店の入り口前に並ぼうとすると、シャッターに一枚の張り紙が貼ってあった。


「店主骨折のため1ヶ月休業します」


自分の運のなさを呪った。

車に戻りブックマークしていたマイページを開き、見事なフリックで文章を書き込んでいった。

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『イタコ』

俺の父は有名な盲目の三味線弾きと親交があった。その三味線弾きの妻は、その当時でも珍しい正統派イタコの生き残りだった。無論正統派なので妻の方も目が見えていなかった。

その夫婦が我が家に遊びに来た時に、イタコの妻は

「ここはずいぶん騒がしいねぇ。人の声が聞き取りづらい」

と言っていたそうだ。本物が言うのだから我が家も相当なモノだったのだろうと想像できた。

そのイタコは隣の部屋で泣く生まれたばかりの俺の声を聞き、母に連れてくるように言った。母は俺を抱いてイタコの前に座ると突然大きな数珠を出して念仏を唱え出した。

「その子の手を開いてみなさい」

言われた通りに俺の小さな手を開くと、そこには父も母も覚えのない一枚の白い紙を俺は握っていた。母がその小さな紙に書かれた文字を読もうとする前に

「見てはいけない。それは寿命を縮めるよ」

と制したと言う。イタコが手を差し出したので母はその白い紙を手渡した。イタコはその紙を握り額に拳を当てると

「可哀想な子」

と言った。

「この子は3人分の人生を背負って生きていくよ。1人は自分。1人は上の。1人は下の」

俺と姉の真ん中には流産した子がいた。

「男の子だったよ」

とイタコは言った。

「この子のことを想うなら、もう子どもはこさえない方がいい。その女の子は生まれることはない」

と父と母に告げた。事実、俺の下にできた子は生まれる前に母の体の中で死んだ。

「上のは生まれたかったんだろうねぇ。この子の中で生きる真似事をしてる。良いことは1人分、悪いことは3人分を背負って生きる可哀想な子だ」

そう言って握り締めていた紙を懐に入れ、もう一度俺に念仏を唱えたそうだ。


この話を初めて母から聞いた時、ゾワっともしたが「やっぱりか」という納得の方が強かった。小さい時からなんとなくそんな気がしていた。これはとても説明しづらいことだが、なんとなく俺には誰か中にいるような気がしていた。どんな時も常に逆の考え方をする自分がいたり、どんなに熱くなっている時も俯瞰で見ている自分がいた。それが俺は不思議でならず、母の話を聞いて合点がいった。俺は3人分生きている。うちの2人は生きる真似事をしている。


「良いことは1人分、悪いことは3人分。可哀想な子」


俺は3人分生きていかなきゃならない。

1人分じゃ足りない。

俺の兄と妹は俺の中で生きる真似事をしている。

1人分だけじゃ、2人は真似事すらできない。

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神八代 祝人は静かに投稿のボタンを押した。

この運の悪さも3人分の成せる技なのだろうか?

悪いことばかりで良いことが何もないなら、とてもしんどいような気がしてきた。

せめて守護霊とかなら良かったのに、と若干の苛立ちもある。

けれど兄妹だから諦められるところもある。

妹…。もし妹がいたら可愛がっていただろうか?



「もう。仕方ないなあ、お兄ちゃんは。よしよし、怖かったんだねぇ」(阿良々木月火)


そんなことを言ってくれる妹が俺は欲しかった。

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ひとつ大きなため息をついて静かに投稿と書かれているところを人差し指でタップした。

ヤンデレでもなんでも、兄と一緒にお風呂に入ったり、家では丈の短い着物を着崩してダラダラしている妹が欲しいと神八代 祝人は思った。

それもまた自分ではなくもう1人の誰かの思考なのかと思うと、じゃあ一体どれが本物の自分なのかわからなくてゾワっと背中に寒気を覚えた。

「いや、これは本当の俺」

車のダッシュボードに置かれたジャングルジムに登ってこちらに振り返っている着物の少女のフィギュアを見て、神八代 祝人はそう思い込もうとした。


この話を聞いた当時、そんな事を言われても子どもを作った父母に対し、「あぁ、この親はバカなんだな」と思いました。

それからお気付きでしょうけど、私は月火ちゃんラブです。

ただし千石撫子は俺の嫁です笑。

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