5日目:モデル業はじめました
まずモデルとは言っても
エナは妖精なので普通の人間には姿が見えない。
だが、何故か写真だと映せるので
UNHEM店舗内にあるモニターの画像や
オフィシャルHPの専属モデル、広告用のポスター、チラシ、雑誌掲載用の写真撮影などを専門に活動させる事にした。
地方のテレビCMの案件も来てたので、動画CM制作はうちのスタジオでやって
納品物の内容が良ければ撮影手段は問わないとの事だったのでこれもクリア。
エナはCMデビューも果たす事となった。
内容的にはいきなり結構なハードスケジュールだが
「UNHEMの魅力をみんなに伝えたい」と
モデル業内容も把握できているエナには
積極的に活動してもらう事にした。
UNHEM MINIというラインは
XS以下の小さいサイズ(XXS / XXXS)を必要としているお客さんがターゲット。
標準サイズより細身に作ってある。
152cm・40kgの華奢で細身のエナにはドンピシャだった。
「出来ない事を探すより、出来る事を見つけよう」
そうエナが言った。
おおっ!英語だと「Find the possible」だな?
これMINIのテーマにしよう!とオレも珍しくテンションが上がり声を張り上げた。
エナは前を向く事に慣れている子だなと思った。
失敗したらどうしようとか
望まない結果になったらなどは考えない。
正確にはネガティブな思考を手放す事に慣れている。
思ったとしてもすぐに流す。
500年も過酷な環境の中で生きてきた妖精だけあって
環境の変化に適応する力も秀逸。レベチ。
ほんの数日で人間界に片足どころか
もう両足突っ込んでうたた寝してるレベル(笑)
この子は強い。
エナの生き方に惹かれている自分に気づいたのもこの頃だったと思う。
話をモデル業に戻そう。
まずは出来る事その1。企画しているMINIの試作品の服を片っ端から試着してもらう。
笑けてくるほど似合う。これはヤバイ。。。
ちょっと待って!これも着て!それとこれも!と心が躍るオレ。
何がすごいって?
服を変えるたびにブランドの世界観が広がっていくのが目に見えてわかるのがすごい。
エナが服を選んでるんじゃなく
服がエナを選んでる感じなのだ。
だからと言ってエナの容姿が前に主張しすぎる事もない。
完全にブランドアピールに特化されたかのようなエナの容姿は
オレの作品ひとつひとつに込められた想いを代弁してくれているような感じだった。
それにしてもこの子はよく働く。
朝から立ちっぱなしで着替えもコーデも
数えきれないほど行っているのに
愚痴ひとつ言わないどころか
笑顔で休憩時間中にもオレと会話が楽しく続く。
少ししっかり休んでもらおうと思い差し入れのドーナツを出すと
不思議そうに真ん中の穴を何度も覗き込んでいるエナ(笑)
ドーナツの穴にはちゃんと意味があって
穴を空ける事で熱が伝わりやすくなって外も中も均等に焼け、生焼けを防ぐ事ができる・・・などと言う説明をしても意味はなさそうなので放置(笑)
これがエナと後に頻出するGRIGRIドーナツとの出会いとなった。
オレが口にするとエナも同じ様に揚げドーナツをひと口だけパクリ。
こっちをなんかものすごい泣きそうな顔で見つめている(笑)
なんだ?美味すぎて泣きそうなのか?と聞くと
無言で何度も頷き言葉にできないほどご満悦の様子。
美味いだろ?ここのドーナツ。一度食べさせてあげたかったんだよね。
妖精界にはスイーツやお菓子ってないの?と聞いてみたが
他国の商人や使者が稀に妖精王様への献上品として持ってくる事はあったけど私たちが口にする事はなかったな。
独り占めしてやがったなあのジジイ(←妖精王)
と笑い転げるエナ(笑)
この子と話していると本当に世界が滅びたのかどうか疑ってしまうほど底抜けに明るい。
何はともあれ、これがエナにとっての初めてのドーナツでありGRIGRIと赤い糸で結ばれた瞬間だった。
ドーナツを堪能したあと、GRIGRIオリジナルブレンドの珈琲で仕事モードに切り替える。
ここのは珈琲まで美味しい。
店舗用ポスターの撮影までで今日は一区切り。
そして今日の日給をエナに渡す。
最初はお金がないといろいろ不便だろ。来月から月給制に切り替えてまとめて渡す。一気に全部使っちゃだめだぞ?家賃・スマホ代・食費・光熱費・・・と全部お金で支払うんだ。ちゃんと足りるように使うんだぞ?
お金の支払い方は前に教えた通り。あとわからない事あったら何でも聞いてくれ。電話でも良いし。
ところであの大事そうに持ってたトランクケース、あれ何が入ってるの?洋服や靴を入れるには小さすぎるし、何か大事なもの?とちょっと踏み込んで聞いてみたがエナもわからない様子。
妖精王様は困った時に使えって言ってたからいつか開ける~と脳天気な様子のエナ。
ひとまず今日人間界ではじめてのお仕事、お疲れ様でしたと頭を下げるオレ。エナも頭を下げたままずっと顔をあげなかった。
よし!今日の仕事も終わったし!帰ろう!とオレが言うとようやく顔を上げるエナ。まだ人間界に来て数日。オレの助けがなければどうなっていたかわからない。うまく感謝を言葉にできなかったエナは、代わりに深々と頭を下げた――と日誌に綴られていた。
衣食住に加えてお仕事(+GRIGRIのドーナツ)までもらって本当にありがとうと言う心からの感謝の気持ちが書かれてあった。日誌を読みながら複雑な気持ちになり、オレは先へ進めなかった。それから少し時間が経ち、仕事後の時間を思い出していた。
このモデルのお仕事楽しいよ、レン!ちょっぴり疲れはしたけど心地よい疲れ!・・・とエナから電話が入る。まだまだ元気そうだ。声でわかる。服はまだまだ増える。モデルと仕事は揃った。あとはオレの撮影技術の問題だけ。これはまだ時間がかかるけど、頑張らないとな!
完璧になってから始めてたら、いつまで経ってもスタート地点には立てない。未熟でも荒削りの状態でも良い。今からが一番伸びる時期だ。
エナもオレの言葉に続く。わたしも今日がモデル1日目。もっとUNHEM MINIの魅力が伝わるように勉強していくね!
前へ ♪ 前へ ♪
仲間のその頼もしい言葉に一瞬心が緩んだのか、危うく電話越しに泣いてしまうところだったので適当に理由つけて電話を切った。エナとオレの新たな挑戦は次回へと続く。




