第12話 霧島との会話
「おっす!」
登校した俺を笑顔で迎えたのは霧島怜央だった。
こいつは二学期になってから最も積極的に声を掛けてきた相手であり、初日以降も付きまとっている。休み時間の度に近づいては話そうとしてくる。俺と仲良くしたいのは明らかだった。
今までは理由がわからなかった。
しかし、今は推測できる。
恐らくこいつは俺と仲良しだったのだろう。
記憶がないので全然わからないが、親しい間柄だったと思う。思い返してみれば二学期初日の第一声は「おはよう親友」だった。あれは嘘でも何でもなかった。
「おはよう。何か用か?」
「おうよ、親友」
「……」
親友ではない。
でも、俺と霧島の関係はそういうことなのだろう。記憶を失う以前は親友同士だったのかもしれない。
最近では親友とか兄弟と言われる度にもやもやするようになっていた。
気持ち悪いって感情よりは申し訳ない気持ちになる。二学期が始まった当初こそ鬱陶しい奴だと気にしなかったけど、徐々に事情を理解してくるといたたまれない気持ちになった。
申し訳ない気持ちにはなるけど、思い出せないものは仕方ない。
こっちから俺からしたらチャラい男子くらいの印象しかない。好きかどうか問われたら別に好きじゃない。記憶がないのだからそうとしか思えない。
「おい、黙るなよ。何か反応してくれないと寂しいだろ」
「悪い。それで、どうした?」
「前に頼まれた話だよ」
頼まれた話?
「ほら、彼女が欲しいって言ってただろ」
「え、ああ」
そういえば、言っていたな。
あの時は好意的なクラスメイトが意味不明で、霧島を苦しめる目的で言った。すっかり忘れていた。
「良い人を知っていたら紹介してくれ、だったろ。俺の方で調査をして、彼女候補を見繕ったぜ。といっても、数が多いけどな」
数が多い?
何を言っているのだろう。俺と付き合いたい女とかいないだろ。
……いや、待てよ。
もしかしたら失った記憶関係でそういった話が出たのかもしれない。女神様とか魔物が飛び出したくらいだしな。否定は簡単にできるが、ひとまず聞いてみよう。
「まず、仮に龍崎が告った場合の話をしよう。成功確実なのはクラスの女子ほぼ全員だ。これは間違いなく成功する」
「……」
「言いたいことはわかる。ほぼ全員ってのはどういう意味かって話だろ。それについてはこれからゆっくり説明するぜ」
こいつはアホなのか。
成功するはずないだろ。大体、その話を大音量でするなよ。クラスの女子からボコボコにされても文句言えないぞ。
「待て。彼氏がいる奴も何人かいたはずだろ」
「良いところに気付いたな。実はほぼ全員ってのはその件だ」
「えっ――」
「この夏休みで随分と状況が変わったんだ。あれだけの経験をしたからさすがに子供っぽいっていうか、価値観が変わったみたいでな。夏休み前に他のクラスや他の学校の奴と付き合ってた女子は全員別れたよ」
マジか?
何人か他のクラスやら他の学校の男子と付き合っていた女子がいたはずだ。それが全員別れたってのか。
「ほぼ全員ってのは、新しくカップルになった奴が無理って話だ」
「新しくカップルね」
カップルになったクラスメイトが何人かいた。
意外な組み合わせが多かった。
外見的に釣り合っていないようなカップルもいた。まあ、当人が納得していれば別に問題ないだろうけど。
「そこさえ避ければ基本的に誰とでも付き合える。ただ、他のクラスの奴等は止めた方がいい。調べたところ失敗する可能性が高い。それに、他のクラスの女子を選ぶと様々な問題が発生する」
「……」
含みのある言い方だな。
このクラスの女子は俺が望めばほぼ全員彼女にできる?
他のクラスの女子は無理?
数字なら「0」か「100」みたいなことを言う。
「ただ、クラスメイトでもおすすめできない奴もいるから気を付けてくれ。意外と性格に難があるっていうか、そういう感じだ。龍崎にはふさわしくない」
「……女子の性格まで知ってるのか?」
「クラスメイトなら全員詳しいぞ。緊急時にどういう動きをするのかも良くわかってるからな」
友達が多い奴だろうと思っていたが、想像を遥かに超えていた。
クラス全員をそこまで把握しているとは恐れ入った。
「個人的なおすすめは無難だけど、ヒロイン組だ」
「ヒロイン組?」
前にも出た名前だな。
「えっ……ああ、この言い方だと伝わらないか。ヒロイン組ってのは御堂柚希と仲町穂香、そして天城ハンナのことだ」
奇しくも俺にトラウマを植え付けてきた相手ばかりだな。
今となっては天城ハンナ以外にそこまでマイナス感情はないが、彼女にしたいのかと問われたら首を振る。
「この三人は全員性格が良い」
「……」
どこがだよ。性格に難しかないだろ。
ヒロインどころか悪役令嬢っぽい存在だと思うけどな。ヒロインってのは素直で可愛くて、そして主人公の力になってくれる存在のはずだ。俺は基本的に素直で主人公全肯定のヒロインが好きだ。
だが、霧島の話を聞いているとわかる。
霧島も俺の記憶について詳しそうだ。そして多分、俺の記憶を戻したい派だ。ちょいちょいヒントを与えるような言葉選びをしているような気がする。まあ、単純にこいつがポンコツの可能性もあるけど。
「というわけで、一人ずつ魅力を紹介していくぞ」
「お、おう」
「御堂柚希は知っての通り、龍崎の幼馴染だな」
「えっ――」
どうしておまえが知っている。
大体、幼馴染は幼い頃に仲良しだった関係の場合だろ。俺と柚希は幼馴染と呼べるか微妙なところだぞ。
「御堂は面倒見が良くて、優しくて、聖女みたいな性格をしている。彼女にしたら間違いなく尽くしてくれるタイプだな。近くにいたら癒されるし、付き合ったら怪我とか絶対にしないと断言しておく」
面倒見は悪くないのかもしれない。
お見舞いとか来てくれたから。
柚希の方を見ると、目が合った。俺に向かって手を振っていた。これ、霧島は買収されてないか?
「次に仲町穂香だ。龍崎とは同じ中学だったな」
「……」
何故知っているのか聞きたいが、そういうことだろう。
「見た目と口調はお嬢様っぽいが、実はフランクな性格だ。意外とイケイケで、彼女にしたら引っ張ってくれるだろう。ただ、少し好戦的なのがネックだ。彼女にしたら悪党は全員仕留めてくれる」
好戦的ね。
これも霧島からのメッセージだろうか。姉からいじめられていたという事実が判明したし、今ではその姉を打倒したらしい。そして魔法を使える。
仲町と目が合う。俺に笑顔を向けた。
「で、最後に天城ハンナだ。個人的には一番おすすめだな」
「えっ――」
「龍崎とは高校からの付き合いだ。去年は同じクラスだった」
その通りだ。
「明るくて可愛いクラスのムードメーカーだな。実はゲームが大好きで、龍崎とも話が合う。彼女にしたら楽しく過ごせるのは間違いない。話してみるとかなり気が合うことは保証するよ」
話が合う、ね。
見てきたように言ってくれる。
「一応言っておくが、他の女子も魅力的なのが多いぞ」
「……そうか」
「天城ハンナをおすすめと言ったが、俺にとっては龍崎が一番だ。誰を彼女にするでも全力で手伝うぜ!」
「どうしてそんなに協力的なんだ?」
質問に返ってきたの最高の笑顔だった。
「親友だからだ。それに、返しきれない恩もある」
「……」
ダメだ、何もした記憶がない。過去の俺はどうしたらここまで協力的な友人を手に入れられたのだろう。
「まあ、すぐに決めなくても――」
その時、騒ぎが起こった。
何事かと視線を向けると、柚希と仲町がケンカしていた。




