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2.クロのやらかし

千里眼で私は人間界の様子を確認する。

ふむ、ほとんどの建物がそんなに損壊してないな。さっき『赴かねばならない』とかかっこよく言ってみたけど行く必要ないかもしれないな。


“あんたのその目はお飾りですか。どこを見ても瓦礫だらけじゃないですか!”


【こればっかりは私もクロと同じ意見です。どこをどう見たらそんなふうに見えるのでしょうか…】


能力に言われ放題されて、黙っていられるほど私もお人好しじゃない。と言いたいところだが、今回ばかりは私が悪いので何も言えない。


確かに良く見ると瓦礫しかないな。やらかしちゃったなー……。


“まあ、一概に貴方だけが悪いとは言えないんですけどね。仲間を侮辱されて怒りたくなる気持ちはわかりますし”


【ヴァンパイアもある意味すごいですよね。貴方のいる悪魔族に喧嘩を売るなんて】


すごいよなヴァンパイア。力は全然大したことないのに、自信だけは一丁前だ。


【でもですよ、そんな大したことのないヴァンパイアの挑発に怒ってどデカい雷を人間界に落としちゃったのは、確実に貴方が悪いですよ。人間は何もしてないんですから】


それは私が悪いんだけど…でもほら、人間を殺したわけじゃないし…。


【え? 一度殺してますよね? 私の力で生き返らせただけですよね?】


………。

その通りなので言い返せずにいると、クロが口を挟んできた。


“でも、流石に人間って弱っちすぎません? あんな雷じゃ、天使や悪魔はもちろん、ヴァンパイアとか鬼とか妖精とかだって死にませんよ。と言うことで私、『ジュリ』が生き返らせた人間たちに、ちょっとした力を与えてあげました!”


『ジュリ』とは、寿命管理の最初と最後の文字をとった、あだ名である。

……ん? ちょっと待て、人間に力を与えただと?


“え、はい。ダメでした?”


ダメに決まってるだろ!

ウッ、頭痛くなってきたかも…ほんとにクロ、お前何してくれてんだよ……!


“えっえっえっ? そんなにダメだったんですか? え、ごめんなさい……”


ここで素直に謝れるクロは偉い。

偉いのだが、クロがやらかしたことを思うと褒める気にはなれなかった。


【いいですか、クロ。貴方がやったことは、人間界のルールを乱す行為に当たります。今まで人間は、単体では何の力も持ちませんでした。ですが、優れた頭脳を持つ彼らは、銃などの武器を開発し、食物連鎖においての頂点を取りました。ここまではいいですね?】


“は、はい……”


【そんな人間が新たな力を持ってしまうと、今まで絶妙なバランスで成り立っていた人間界が壊れてしまいます。すなわち、時空に歪みが生じるのです。そして、歪んだ時空はときに世界と世界を繋いでしまうことがあります。今まで人間界と何の接触も持たなかった魔界や天界への『(みち)』が作られてしまう可能性があるのです】


“………!!”


ここまで説明されて、ようやくクロも理解した様子だ。


“ごめんなさい! まさか私のしたことがこんな、こんな事態を引き起こしてしまうなんて…”


ん〜、ちょっと可哀想だな。責めすぎてしまったか。


クロ、そう落ち込むな。

さっきは驚いて責めてしまったが、まだ『路』が作られると決まったわけじゃないのだから。

お前は落ち込んでるよりちょっと生意気な方が可愛げがあると思うぞ。


“へ、へぇ、そうですかそうですか! まだ確定していないのなら、人間界に雷を落とした誰かさんの失敗よりはいいかもしれませんね!”


…やっぱりお前落ち込んでる時の方が可愛げあるわ。

生意気すぎるだろ普段が。


【まあ一度それは置いておくとして、これから何をするんですか? わざわざ人間界に赴いたと言うことは、なんらかの目的があると言う事ですよね?】


あー、それに関して何だが、別になんか目的があってとかじゃないんだよな。

クロが都市を直すのは面倒くさいから嫌だって駄々こねたから、とりあえず人間界に来て、雷を落としちゃったお詫びになんかしようと思ったんだが、何をやるのかはまだ考えてないって言うか…。

クロが都市を直してさえくれるとめっちゃ有難いんだけどなー。


【………】


…………。


“……わ、わかりました、やりますよ! だからそんな無言で圧をかけてくるのはやめてください!”


お、さっすがクロ〜。


【でも当然ですよね、勝手な行動の罰代わりです】


“それを言われちゃあ何にも言えないんですよ……。とりあえず今から建物直すので、声かけないでください”


どうやって直すのか、ちょっと興味あるな。見てみるか。


パチリと指を鳴らすと、光り輝く扉が目の前に現れた。

ドアノブに手をかける。


人間界に行くのは初めてだし、ちょっと緊張するな…。


【早く開けてください! 私も人間界見たことないので、とても興味があります】


ジュリが急かしてくるので、勿体ぶるのはやめて一気に扉を開く。

ぶわっと風が私を包み込んだ。


「これが……人間界か!」

眼下には美しい都市が広がっていた。


先ほど千里眼で見た景色は、瓦礫の山だったはずだが、もうクロは直してしまったのか!

仕事が早いな。


“まあ私、『黒き血の契約』ですから。いつもだったら対価を要求するところですが、これは私のミスの謝罪代わりなので、今回は対価は要求しません”


【当たり前ですよ。でも、ちょっと建物を直していく様子は見たかったですね】


あ、じゃあもう一回雷を落として都市をぶっ壊して、クロにまた修復してもらうか?


“か、勘弁してください…あ、ところで誰か来ましたね”


ん? ああそうだな、この気配はアンか。


そう思った瞬間、突然部屋の扉が乱暴に開かれる。

「リリー様! 何をやってるのですか?」


「何をやってるのかと聞かれたら、人間界に行こうとしてるところとしか答えられないんだけど」


「……おっしゃる意味がわかりません。そもそも、貴方様がこの場を離れたら、溜まりに溜まった仕事はどうなるのですか!」


アンの美しい純白の翼がバサバサと怒ったように揺れる。


別に私の仕事ぐらい他の奴らでもできるはずなんだがな。


「アンがやっといてよ。いい機会なんだよ。私人間界行ったことなかったし、興味あるし!」


「む、無理ですよ! 貴方様のお仕事は貴方様にしかできないことなのです!」


【こんなところで言い争いしてても時間の無駄ですよ、さっさと人間界に行きましょう!】


“そうですよ、行きましょう!”


そうだな、行くか!


「じゃあ頼むよ、アン!」


そう言って私はひらりと人間界に飛び降りる。


「あっお待ちください! リリー様!」


慌ててアンが扉に駆け寄り、人間界に自分も行こうとするが、バチンッと見えない壁に阻まれてしまう。

勢いで後ろに飛ばされたアンの前で、扉は無情に閉まり、そのまま消えてしまった。


それもそのはず。

複数の世界を行き来することができるのは、権限を持つ者のみだ。

そしてその権限を持つのは、種の長であるものだけ。

一天使のアンが持つような権限ではなかった。


[み、皆さん! 大変です!]

アンは急いで全ての天使と悪魔にテレパシーを送る。


[そんなに焦ってどうしたの? アン]

[らしくないぞ]

[……種族全体にテレパシー送っといて、くだらない要件だったら怒るからな。早く要件を言え]


[リ、リリー様が……]


[えっ! リリー様がどうしたのっ?]

[リリー様だと! どうしたんだ、何か重要なお知らせか?]

[それを早く言え! リリー様からの伝言であれば我はいつだってウェルカムだ!]


リリー様。

その言葉を聞いて、天使や悪魔たちのテンションが一気に上がる。

思い思いにテレパシーを送り合うせいで、うるさくてたまらない。


アンは一呼吸おいて、全身全霊の想いで叫ぶ。


[リリー様が、人間界に行ってしまわれました!!]


[[[………はっ??]]]

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