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第108話 清浄なる新世界のために。アヴァロンの女王と動き出した惑星企業連合

【視点:ルーナ・ルビントン】

銀河の経済を裏から支配し、星々の命脈を握る惑星企業連合の心臓部。


秘密コスモコロニー『アヴァロン』。


その冷たく巨大な胎内に抱かれた広大な宇宙ドックには、星々の光さえも霞ませるほどの最新鋭にして最大級の宇宙戦艦たちが、まるで眠れる鋼鉄の獣のように鋭い牙を磨きながら、わたしの下知を待っていた。


金属と高純度エネルギーの匂いが、無機質で心地よい静寂の中に漂っている。


その中でもひときわ異彩を放ち、見る者の魂を震わせるほどの流麗にして妖艶なオーラを纏う漆黒の巨大戦艦が、女王のように鎮座していた。


その名は、クオン。


惑星企業連合がその技術力と資金の粋を集めて建造した、最高傑作にして最強の旗艦。


その戦艦クオンの内部。


豪奢を極め、冷たい静寂に包まれた私室で、わたしは、窓の外に広がるアヴァロン内部の完璧に統制された無機質な光景を眺めながら、クリスタルグラスをゆっくりと傾けていた。


深紅のワインが、わたしの血のように赤い唇を濡らす。


だが、意識は今、この部屋にはなかった。


ああ……聴こえます。


フォワードの力を極限まで高め、宇宙の深淵に存在する謎めいた「何か」――わたしが『X』と呼ぶ絶対的な存在からの、「神託」とも言うべきフォワードの交信を受け取っていた。


その交信は、魂に直接、凍てつくような冷たい光と絶対的な命令を注ぎ込んでくる。


その感覚は、背筋が凍るほど恐ろしく、そして甘美だった。


「ええ、ええ。分かっていますわ」


虚空に向かって、氷のように冷たい声で囁いた。


「あの愚かなアルベルト王子は、予定通り『星の遺産』を起動させるでしょう。哀れな操り人形が、自分の意志で踊っていると錯覚しながらね。……ええ、舞台は整いましたわ」


あの王子は、死んだ姉を蘇らせるという幼稚な妄執に囚われている。


その妄執を利用して資金と技術を与え、ここまで育て上げた。


「ええ。『星の遺産』の真のアクセスキーは、このわたしが必ずや手に入れてみせます。アルベルト王子も、その門を開くという役目を終えれば、利用価値はもはやありません。必要であれば……役目を終えた駒は、盤上から速やかに排除いたします。そう、わたしの計画を、そして、あなたの計画を邪魔する者は、全て塵芥(ちりあくた)と化すのです……」


どこか背徳的な愉悦に満ちた笑みが浮かぶ。


「ええ。全ては、あなたのご指示通りに。このルーナ・ルビントン、必ずやこの大いなる使命を果たしてごらんにいれますわ。この醜く、不規則で、腐敗しきった銀河に……真の絶対的な『秩序』をもたらすために」


そう言うと、深い恭順の意を込めて、静かにフォワードの交信を閉じた。


「フフフ。ようやく、待ち望んだ収穫の時が来たようね」


グラスに残った赤ワインを一息に飲み干し、唇に妖艶で残酷な笑みを浮かべた。


「もうすぐ、全てが終わる。そして、全てが始まる。わたしが心の底から望む、汚れのない、清浄なる新しい世界の秩序が……!」


瞳が、飛び散る彗星のように鋭い輝きを放つ。


「清浄なる世界でなら、やっと、あなたを迎え入れることができる! ふふふ、アハハハハハ!」


甲高く、どこか空虚な高笑いが、豪華で冷たいわたし室に虚しく響き渡った。


……ええ。雑音だらけのこの宇宙(そら)を、わたしが美しい静寂の箱庭に作り変えてみせる。


わたしはワイングラスをテーブルに置くと、優雅な足取りで立ち上がり、わたし室を後にした。


向かうのは、巨大戦艦クオンの神経中枢たるメインブリッジ。


「カミーラ」


ブリッジに足を踏み入れたわたしは、忠実なる側近の名を呼んだ。


「はい、ルーナ様」


銀髪の、氷のように美しい秘書カミーラが、音もなくわたしの前に(ひざまず)いた。


その青い切れ長の瞳には、わたしへの絶対的な忠誠の色だけが宿っている。


「出港の準備を急がせなさい」


冷徹な声で指示を出す。


「これより、戦艦クオンは抜錨(ばつびょう)し、コンドル本星へと向かうわよ。目的は、『星の遺産』のアクセスキーの確保」


声が、さらに絶対零度へと冷え込んだ。


「そして、我々の計画の邪魔をする者は全て、排除する。それが、たとえ誰であろうとも」


少しだけ目を細め、付け加えた。


「それと、わたしの『レクイエム・ノワール』を、いつでも出撃可能な状態に調整しておきなさい」

「御意に」


カミーラは深く頷いた。


「『ブラック・スター』の傭兵どもにも、出撃命令を発令いたしますか?」


「そうね。念のため、コンドル星系に展開可能な動けるメンバーには連絡を入れておきなさい。大した戦力は必要ないでしょうけれど……盤上を引っ掻き回す『ネズミ』が紛れ込んでいる万が一ということもあるわ」


「承知いたしました、ルーナ様」


カミーラは再び深く一礼すると、影のようにわたしの前から姿を消した。


わたしは一人、ブリッジの巨大なメインウィンドウの前に立ち、ゆっくりと回転を始めるアヴァロンの人工的な星々の光景を見つめた。


そのサファイアブルーの瞳には、冷たく、そして全てを焼き尽くすような決意の炎が宿っている。


わたしは、もう止まらない。


そして、後戻りすることも決してできない。


この宇宙(そら)が美しく生まれ変わるその日まで。


「さあ、始めましょうか。壮大な大掃除を」

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