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【第1章完結】落ちこぼれ騎士の「花嫁騎士団《ブライド・ナイツ》」  作者: 茶毛
2章:「フィデリアの鬼退治」

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2章:27話「少女たちの逆襲Ⅰ【魔族の軍勢】」


 潮風が香る草原に、多数の馬の駆ける足音が響き渡る。


 

「――エリザさん! こちらの方向で間違いないですか!?」

「ああ! 大丈夫だ! このまま真っ直ぐ向かってくれ!!」



 先頭を走る馬上に、二人の少女が乗っている。

 一人は黒の軍勢(フェケテ・シェレグ)の騎馬兵、もう一人は燻んだ金髪をポニーテールにした少女――エリザであった。

 その彼女たちに付いていくように走る多数の騎馬兵。レオンの指示に従い、エリザ、ルナ、ノエルの三人は黒の軍勢(フェケテ・シェレグ)の騎馬に同乗し、砦へと向かっていた。

 


「⋯⋯レオン⋯⋯。早く、会いたいよ⋯⋯!」



 ――普段のノエルであれば、馬上はさぞスリリングで楽しい事であろう。それでも大騒ぎする事なく、騎手の体をがっしりと掴んだ彼女の姿は弱々しく見えた。



「⋯⋯レオン。⋯⋯レオン⋯⋯!」



 同様に、ルナもまた騎手の体にしがみついている。その貌にこれといった表情は浮かべていないが、彼女も元気がないように見える。

 ――蒼穹の盾(アズール・シルト)の制服の隙間から覗かせるルナの柔肌は、未だ充血しているように赤く染まっていた。


 二人の少女は譫言(うわごと)のように愛する少年の名前を呟いている。――悍ましい“腕“に掴まれた忌々しい感覚を、早く少年の全てで塗りつぶしたいように。


 そして、それはエリザも同様であった。指揮する立場である彼女は口にさえ出さなかったが、その脳裏には金髪を三つ編みにした少年の姿がずっと映っている。

 三人の少女たちの弱々しい力を感じていた黒の軍勢(フェケテ・シェレグ)の少女たちは、本当に大丈夫なのだろうかと心配していた――



「――エリザ! 止まってください!!」

「!! みんな! 止まってくれ!!」



 ――が、突如として体を震わせたルナから放たれた言葉で、騎馬兵全員が停止し、その場で戦闘体制に入る。

 位置としては、森の隙間から砦が除く場所。砦から敵が出てきても、草原まで誘い出せれば有利に戦えるような、そんな平地で。



「ど、どうしたんですか!?」



 黒の軍勢(フェケテ・シェレグ)の団員は、自身の体にしがみつくルナへと声をかける。

 その声に返すように、ルナは震えた声を漏らした。



「――何か、います。⋯⋯でも、さっきの奴らじゃない。もっと、濃厚な⋯⋯底知れぬ“害意“のような、ものが⋯⋯!」

「!! 敵の、増援ですか!?」

「おそらく。⋯⋯ですが、さっきの“人“でも、そもそも“人“ですらありません。とても、不快な感覚――」


「――ねえ!! あれ、何!?」



 今度はノエルが焦ったように声を上げる。彼女の視線は砦の方角へと真っ直ぐに向けられている。

 その言葉で再び砦を見据えるエリザは、森の中で大量の“何か“が蠢いているのを見たのだ。

 ――再び震える、エリザの長い四肢。その恐怖を押し殺すように自身の手で自らの左頬を張ると、その鋭い目をさらに細くして敵の正体を暴こうとしたその時――



 


「「「――ギギ!! ギギギー!!」」」



 


 ――不快な。掠れた金切り声が草原に響き渡るのと同時に。


 森から、大量の緑色の“怪物“が現れたのだ。



「――全軍! 一時退却!!」



 エリザが声を上げる前に、エリザを乗せる黒の軍勢(フェケテ・シェレグ)の団員が声を張り上げた。

 彼女の指示が少しでも遅れれば、黒の軍勢(フェケテ・シェレグ)はすぐにでも呑み込まれるほどの数であったのだ。

 団員の早急な判断の元、馬を転回させて戻ろうとする黒の軍勢(フェケテ・シェレグ)


 ――その馬上から、一人の少女が飛び上がった。



「――秘剣『飛英(ひえい)』!!」



 濡れ羽色の髪を靡かせながら、ルナは空中で大太刀を薙ぎ払う。暫しの遅れの後、先頭を走っていた怪物たちが上下に両断されたのだ。

 ――天翔ける不可視の斬撃。ルナの大太刀の一振りは、まるで斬撃そのものを飛ばしたかのように、遠く離れた怪物たちを真っ二つにしていった。


 圧倒的なまでの大戦果。だが、ルナは眉一つ動かす事なく、戦果よりもその“死体“の方に目を向けていた。


 ――両断され、胴と足が別れた怪物の死骸。それは反射のように一瞬動くことはあれど、やがて時間が止まるように活動を止める。



「――ノエル! エリザ! “殺せます“!!」


「「――!!」」



 ルナが確信に満ちた声を上げる。先ほどの“斬っても動く死体“という理不尽な悪夢を拭い去るような、明快な事実。

 

 その声を聞いたノエルとエリザは、その瞳に滲んでいた恐怖の影が消え失せ、ルナに続くように馬上から飛び降りる。



「――ちょっと! 皆さん!!」



 退却を続けていた黒の軍勢(フェケテ・シェレグ)の団員が叫ぶ。


  

「前衛は私たちに任せろ! 君たちは討ち漏らしを頼む!!」

 


 ――が、その声を受けたエリザは自信に満ちた表情で返した。


 後退して行く騎馬隊を見送るエリザの元に、ルナとノエルが横一列に並び、襲い来る“緑色の怪物たち“を迎え討とうと武器を構える。



「なんと、面妖な。⋯⋯エリザ。先ほどと同じように、足場を崩せますか?」

「任せろ、ルナ。二人はトドメを頼む。⋯⋯ノエル、いけるか?」

「⋯⋯わかった、エリザ。――『魔法剣の指揮者アウロリエ・レクトール四重奏(カルテット)』」



 エリザの問いにノエルが静かに返すと、彼女は自らの周囲に四本の光剣を顕現させた。

 ノエルの右手に握られた真っ直ぐな短剣――指揮棒のようにも見えるそれを振るうと、それに従うように彼女の周囲の光剣が美しく舞い始める。

 それを見ていたエリザが、呆れたように溢す。



「全く。⋯⋯ルナもそうだが、君たちにはいつも驚かされるな。一体、どこまで強くなるつもりなんだ?」

「無論、レオンを守り切れるまで、です。つまり、一生です」



 エリザの問いに、ルナが眉一つ動かさずに豊かな胸を張りながら答える。――その瞬間、身につけた制服のボタンが二つ、弾け飛んだ。

 その様子を目撃した後、自らの胸元を見て肩を落とすエリザ。――だが、ノエルはそんな二人の様子にさえ気が付かないように一人静かに溢した。

 

 

「⋯⋯ゆるさない」

 

「⋯⋯うん?」



 ノエルの呟きを聞き返すように、エリザが聞き返す。しかし、ノエルはそれさえ聞いていないのか、いつも明るく元気で快活な彼女からは想像も出来ないほど眉間にシワを寄せて、声を張り上げたのだ。



 


「――絶対にゆるさないんだから!! 私を触っていいのは、レオンだけなのに!! あの服だって! お気に入りだったのにー!!」





 ノエルはそう叫ぶと、黄金の風となって恐れもせずに真っ直ぐに“緑色の軍勢“へと駆け出していった。



「――同感です、ノエル。ルナも、参ります⋯⋯!」



 ルナはもう彼方まで駆け出していったノエルに小さく返すと、彼女も同様に黒い疾風となって軍勢へと突っ込んでいく。

 そんな二人の様子をエリザが微笑みながら見送ると、表情を引き締め直し、エリザは斧槍(ハルバード)を抱え上げながら叫んだ。



「私だって同じだ⋯⋯! 二人とも、やるぞ! 飛べ!!」


「――はい!」

「――それー!!」



 彼女の号令で、二人の少女は空へ飛ぶ。同時に、エリザのハルバードが大地へと振り下ろされ、


 ――先ほど以上の亀裂で、大地を崩壊させたのだった。



 +



「――!!」

「どうしたのぉ?」



 ヒルダの肉感的な四肢が、僅かに揺れる。

 拠点に置かれた椅子に、弱々しく膝を抱えて座っていた少女の姿を見ていたクラリスは、その恍惚に染まっていた瞳を引き締め直し、ヒルダに向けて投げかけた。



「⋯⋯この気配は⋯⋯!」


 

 膝を抱えていたヒルダはその顔を僅かに上げると、クラリスに言葉を返すことなく淫靡な髪の隙間から驚愕に見開いた瞳を覗かせた。

 ――そして、その目は動揺から徐々に凶暴な色を滲ませて行き、膝で隠れた口元を歪めていく。勿論、ヒルダ以外は気が付いていない。

 そしてヒルダはその官能的な足を床へと降ろし、立ち上がる。――その貌に、今までのような女王の如き自信を溢れさせて。



「⋯⋯私も行くわ。エリザたちが、心配だもの」


「そんな⋯⋯ヒルダさん!」

「お、おい! 待てって! レオンに動くなって言われたの、忘れたのか!?」



 その顔を自信に漲らせながらも、その足取りはふらつき、たどたどしい。そんな彼女を抑えようと、ミーナとカルが彼女の元へと集う。



「御免なさいね、ミーナ、そしてカル。⋯⋯でも、私は大丈夫よ。任せて頂戴」

「だめですよぉ? “団長“のご命令、しっかりと守りませんとぉ」



 ヒルダのふらついた体を抱えるようにミーナとカルは横に並び立つ。その状態でクラリスから受けた言葉に、ヒルダは短く返した。

 


「――その約束を、守る為よ。このままほっといたら。⋯⋯あの子たち、死ぬわ」


「「――!!」」



 ヒルダの短い言葉に、ミーナとカルは目を見開く。

 彼女の指す“あの子たち“――エリザ、ルナ、ノエルが死ぬと、彼女は言い放ったのだ。

 ――怪訝な様子のクラリスは、まるで交渉を打ち切るようにヒルダへと言葉を投げ掛ける。



「⋯⋯“団長“とのお約束を守らないとですし、馬はお貸ししませんよぉ?」

「⋯⋯いらないわ。一人で行けるもの」

「へえ。そのふらふらな身体で、どのように?」

「――こうするのよ」



 そうヒルダが言い放った瞬間、彼女の妖艶な指先から“赤い糸“が外へと伸びていく。

 ――その糸は、ヒルダを“引っ張る“ように、彼女の大きな身体を空へと疾らせた。



「――ヒルダさん!!」

「おい! ヒルダ!!」



 赤い糸に引かれて宙を駆けるヒルダは、瞬く間に小さくなっていく二人の姿を最後まで捉えていた。



「⋯⋯心配かけて、御免なさいね、二人とも。⋯⋯でも、これが“一番の方法“なのよ」



 ――拠点が小さくなっていく。二人の姿は、もう見えない。


 ヒルダは、拠点のあった方向から視線を外すと――


 ――エリザ、ルナ、ノエル。

 自分に負けないくらいレオンの事が大好きで、その少年からも愛される少女たちの元へと疾っていくのであった。


 

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