勇者一行、学校に潜入する。(2)
学校潜入編、そこそこ長くなりそうです。
魔法を行使すると、『魔素』と呼ばれる魔力の残滓が発生する。魔素自体は大気に溶け込むようにどこにでも存在しているが、極端に増えすぎると人々の負の感情と溶け合って人々に害を為す『魔障』へと変化してしまうのだ。
「私たちの世界なら日常的に発生するものだし、一般人でもある程度の耐性はあるわ。けれど、日頃魔法に触れていない此方側の世界の人々にはそれが無い。そりゃあ体調不良にもなるでしょうねぇ。ツトムはエリザベス様から魔法を教わっていたから耐性あるみたいだけど。」
「加えて此処は環境が悪いですね。ただでさえ人々が多く集まる場所は魔障が発生しやすいのに、変な噂が流れていたせいでより濃くなっています。……既に『魔核』が出来てしまっているかもしれません。」
ツトムはイザベラとノアの説明を受け、改めて旧校舎を見上げる。
「(……言われて初めて魔障の存在に気付いた。ずっと校内にいたのに気付かなかったなんて。)」
「ツトム、あなたが気が付かなかったのは無理ないわよぉ。校内の人間が違和感を感じないように暗示魔法が掛けられていたもの。」
「魔力探知に長けたノアだからこそ、あの小さな綻びに気が付くことができただけだ。」
「……そうかもしれないけど。」
自身の無力さを痛感してツトムは俯いた。勇者一行に比べたら、戦闘経験皆無の自分が1番足を引っ張ることは分かっている。それでも、魔法を教わっている身でありながら、暗示を掛けられていたことにすら気付かなかったという事実が重くのしかかった。
「ま、こればっかりは慣れしかねぇからな!気にすんな、ツトム!大体此処から先はお前に案内してもらわねぇと俺たちまたやらかしそうだし。」
「それはそうだな。どこまで周辺を破壊して良いのか私たちでは判別がつかん。」
「いや全部壊すな。」
……確かに自分が居ないと、旧校舎が全壊しそうである。彼等なりに励ましてくれていることに「ありがとう」と小さく礼を言うと、ツトムは前を向いた。
「行こう。……絶対校舎に傷つけるなよ!」
勇者一行とツトムは旧校舎に足を踏み入れた。
「ツトムたち、大丈夫かなぁ。」
スマホの画面を見ながら、杏は呟いた。モバイルメッセンジャーアプリケーション『BOND』には、これから旧校舎に行くというメッセージが残されている。
「(あの周辺、ずっと靄がかかっているように見えるんだよねぇ。)」
まるで何かを隠すような。そしてその奥に潜む命を刈り取ろうとする気配。杏はツトムのように魔法に詳しいわけではないが、それが恐ろしいものであると直感していた。
「みんなが無事に帰って来られますように。」
杏は無意識に手を組んで、静かに祈りを捧げる。
この時杏は気が付かなかった。
その祈りの姿勢が、彼方側の世界の神に捧げるものであったことに。
そしてこの瞬間、
新たな聖女が誕生したことに。
ギャグがずっとお休み中ですみません。シリアス続きます。