アレックスと莉花、デートする。(前編)
デートスタートです(ギャグ)
「メフィスト!アステル!私、変じゃない!?」
あっという間に時間は流れてデート当日。この日の為に莉花は万全の準備を整えていたのだが、初めてのデートというのはやはり不安になるものである。そんな彼女を見て、アステルたちは励ましの言葉を掛けた。
「大丈夫だぞ、莉花。今日は一段と可愛い。」
『昨日何時間も掛けて選んだ服だろうが!自信持ってアレックスを堕としてこい!』
「う、うん……ッ!」
鈴木莉花という人間は、見た目はギャルであるが中身は真面目の権化である。デート中の不測の事態に備えてマニュアルを作成し何十回と読み込み、戦装束については1週間近く掛けて検討を重ね、前日は目覚まし時計を5個と使い魔たちにモーニングコールを頼んで早々に就寝したのだ。
「そ、そうだよね。大丈夫、対策はバッチリしたもの!恐れるものは何もない……ッ!」
「『(戦いにでも行くのか……?)』」
最早デートではなく勇者討伐に行くかのような用意周到ぶりであった。
『ったく、気合い入れんのは悪かァねぇけどさ。そろそろ出ねぇとマズいんじゃねえか?』
そんな莉花に呆れながら、メフィストは時計を指差す。余裕を持って準備をしていた筈だが、思った以上に時間を食っていたらしい。彼の指摘通り、そろそろ家を出なければ集合時間に間に合わない時刻となっていた。
「え……ってうわぁ!もうこんな時間!それじゃあ2人共、行ってきまーす!」
「ああ、気を付けてな。」
『遅くなりそうなら連絡しろよー!』
「はーい!」
小さくなっていく莉花の背中を眺めながら、メフィストたちは彼女のデートの成功を願うのだった。
「(あ、アレックス。もう来てたんだ。)」
待ち合わせ場所の改札にアレックスは居た。黒髪とはいえ、翠色の瞳と彫りの深い顔立ちは明らかに日本人ではない。夏休み中ということもあってそれなりに人で賑わっている中、アレックスは1人目立っていた。好奇の目に晒されるのは彼も嫌だろう。莉花はすぐさま声を掛けようとしたが……
「おーい、アレック……」
「ねぇねぇあの人、外国人かな?格好良くない!?」
「ッ!?」
何かと思えば、近くに居た女子の集団がアレックスを見て黄色い声を上げている。中には頬を赤く染めている少女まで居た。
「(アレックスが、格好良い……?)」
その言葉に莉花は首を傾げた。いや、格好良いのは間違いないのだ。正義感が強くて真っ直ぐで、誰かの為に戦うことができる優しい人間がアレックスだ。
「うわ、確かに!よく見たらイケメンじゃん!」
「(イケメン!?)」
ただ、容姿についてはあまり意識したことがなかった。アレックスと出会った頃は魔王に敵対する勇者として警戒していたし、実際に交流してみて中身は年相応の何処にでも居る男の子だと分かった。告白されてからはそれどころではなかったし、何より彼が纏う雰囲気があまりにも普通なのだ。
――アレックスってさ、多分異性として意識されないタイプだよね。
ふと、ある時クラスでふざけている彼を見た親友の言葉が頭を過ぎる。彼女たちが指摘する通り、確かによく見れば顔立ちは整っている。だが普段の立ち振る舞いとその顔立ちの良さを霞ませる普通オーラが彼にはあった。
「(……いや、顔関係なくアレックスは格好良いんですけど!)」
彼の本当の良さは見ただけでは分からないのだ。表面しか見ていない彼女たちに若干苛つきながら、莉花はズカズカとアレックスの前に出た。
「お、お待たせ!アレックス!」
魔力探知が苦手な彼は、莉花が近くで固まっていたことには気付かなかったらしい。声を掛けられて漸く彼女の存在に気付いたのか、アレックスはゆっくりと顔を上げた。
「お、鈴木。おは……ッ!?」
「……アレックス?おーい!え、どうしたの!?」
アレックスは、莉花の姿を見て突然石化状態になってしまった。まさか無意識に呪ってた!?と解呪魔法を掛けようとするが、その前にアレックスは元に戻ったようで両手を前に突き出し大丈夫だと声を上げる。何とかして慌てる莉花を宥めると、アレックスは右手で顔を抑えながら唸るように呟いた。
「わ、悪い。いつも可愛いけど、何か今日はとびきり可愛くて……その、びっくりした。」
「?????????」
アレックスの右手から覗く顔は真っ赤で、その姿を見られたくないのか必死に顔を逸らしている。彼の言葉、そして行動から誉められていることは分かった。分かったのだが……
「(ごめん、メフィスト。堕とす前に堕とされそうです……。)」
「え、鈴木!?しっかりしろ、鈴木ィィィ!?」
――ヤバイ。勇者に浄化される……ッ!
真っ直ぐな好意は呪術師には劇薬過ぎた。既に手遅れだろ、というメフィストのツッコミが聞こえてきた気がするが、それを理解する前に莉花は意識を手放したのだった。
「本当にごめんね。」
「いや、こっちこそ……。」
「「……。」」
ガタンゴトンと電車に揺られながら、2人は沈黙する。ウブな癖に互いにクリティカルを繰り出した2人は当初の予定より30分ほど遅れて電車に乗った。
「「(口開いたらまた恥ずか死ぬ……ッ!)」」
初デートである。緊張するのも無理はない。顔を真っ赤にして仲良く座る2人のせいで車内は初々しいと見守る面々とリア充爆発しろと呪詛を吐く者たちで二分されていたのだが、そんなことに彼らが気付くはずもなく。桃色の雰囲気の電車は、真っ直ぐに目的地へと向かっていった。
「よし、此処だな!」
「う、うん……ッ!」
最寄りの駅から徒歩10分、そこには埼玉県が誇るハイブリッドレジャーランドがある。遊園地や動物園にプール、庭園まで備えた複合施設で、大人から子供まで楽しめる人気スポットだ。
「知識としては知ってたけど、何かスゲェな。」
「ふふ、そうだね。私も初めて来たからびっくり。」
全てのエリアを回るのは難しいので、今回行くのは遊園地エリアと動物園エリアが中心だ。特に動物園エリアでは有名なホワイトタイガーの赤ちゃんが近頃生まれたそうで、それ目当てで来る客も多い。入り口から近いのは遊園地エリアだったが、まずは混み合うであろう動物園エリアを見てから遊園地エリアへ行くことになった。
「改めてこっちの世界の奴らってすげぇこと考えるよなぁ。」
「そう?」
「動物園とか遊園地とかもそうだけどさ、あっちにはこういう……娯楽施設?みてぇなのはあんまりねぇから。」
「そうなんだ。」
辺りを見渡しながら2人は遊園地エリアを歩く。メフィストやアステルから彼方側の世界の話は聞いていたが、やはり此方側とは大分違うのだと驚かされる。
「こっちには魔物出ねぇもんな。平和じゃなきゃこんなことはできねぇ。こうやって遊べるってすげぇことだと思うよ。」
「……。」
目を細めながらアトラクションを眺めるアレックスを見て、やはり彼は勇者なのだと莉花は実感した。元の世界で平和の為に戦った彼にとって、この世界は眩しく映っているのだろうか。
「って、悪りぃな!なんか辛気クセェ話になっちまった!」
「ううん、大丈夫。私、もっとアレックスの話聞きたいな。あっちの世界のこととか、沢山。」
デートはまだ始まったばかり。今日はアレックスのことをもっと知りたい。だってもう……
「(……もう?)」
自分の心の声に莉花は疑問を覚える。だが自分が何を言おうとしたのか考えるのを莉花は避けることにした。折角のデートに変な空気を持ち込みたくない。
「アレックス、今日はいっぱい遊ぶんだからね!」
「おう!」
アレックスの手を引き、莉花は動物園エリアへと進んでいく。今日この瞬間を忘れない為に、彼女はその手を強く握った。
そして目的の動物エリアへ到着したアレックスたちだったが、此処で想定外の事態が起こった。
「鈴木、ごめんな……俺のせいでホワイトタイガーの赤ちゃん見れなくて……」
「う、ふふッ、うん……ッ!仕方、なッ、ふふッ!」
「笑うなよぉ……」
結論として言うと、アレックスたちはお目当てのホワイトタイガーの赤ちゃんを見ることができなかった。否、ホワイトタイガーだけではない。
ほぼ全ての動物たちをまともに見られなかった。
原因はアレックスである。そもそも彼の世界に動物園がない時点で察するべきだった。彼方側の世界において、魔獣と動物の境目は曖昧なのだと。
名物のホワイトタイガーが居るコーナーは、遊園地エリアからすぐの所にある。既に大勢の見物人で溢れていたが、何とか列に並ぶことが出来た。そして遂にその順番が回ってきたのだが……
「グルルルル……ッ!」
「「え?」」
アレックスが前に出た瞬間、それまで穏やかにちびトラたちをあやしていた母タイガーの態度が一変。歯を剥き出しにし、子供たちを守るように威嚇を始めたのである。
「おい待て、俺は敵じゃねぇけど!?」
「ガウッ!」
「赤ちゃん見に来ただけなんですが!?」
当然こうなってしまったら展示も終了である。自分たちが最後だったのが不幸中の幸いだろうか。飼育員さんに謝られながら2人はホワイトタイガー舎を後にした。
「ど、どんまい!ほら、他の動物見に行こう!」
「そ、そうだな!」
「あれ、此処リスが居るんだよな……?」
「か、隠れてる……」
「キィィィィィ!」
「キィキィ!」
「俺猿たちに何かした!?」
「めちゃくちゃ威嚇されてるね……」
「ウホ。」
「やっと、やっとまともに見られる奴が……」
「(もしやゴリラだと思われてる……?)」
……とまぁ、こんな感じである。落ち込むアレックスを励ましながら莉花はある可能性を思い浮かべていた。
「動物たち、アレックスの強さに気付いたのかもね。」
「え?」
「あっちでは魔獣とかも相手にしてたんでしょ?無意識にオーラみたいなの出してたんじゃない?」
「……あー、かもしれねぇ。」
頭を掻きながらアレックスは教えてくれた。彼方側の世界では動物も魔法を使えるので魔獣と動物の違いは然程ない。違いは魔障に冒されているか否か。魔獣の方が凶暴さは格段に上だが、人的被害を出しているのは実は動物の方が多いとされている。
「旅してる時は魔物だけじゃなくて動物にも襲われたよ。まぁアイツらは理性がある分、俺たちの方が強いって分かれば攻撃してこねぇけど。そう考えると、こっちの動物たちは可愛いもんかもなぁ。悪いことしちまった。」
「旅してるうちに身についちゃったんだね……」
ライオンを猫のように扱っていたアレックスを思い出しながら莉花は笑う。動物を見られなかったのは残念だったが、色々と規格外な彼との話はいつにも増して楽しかった。
「で、これがヤバイジェットコースター?」
「そ!この遊園地エリアの目玉、『バシリッサ2』だよ。」
遊園地エリアへと戻ってきた2人は、人生初のジェットコースターに挑戦しようとしていた。他のアトラクションと比べても明らかに規模が大きいので、アレックスは思わず息を呑む。そんな姿を見て、莉花は少しばかり彼に意地悪をしたくなった。
「おやおや?アレックス君、ひょっとして絶叫系は苦手かな?」
「……!」
その言葉にアレックスはビクリと反応を示す。だが、彼にもプライドはある。すぐさま体勢を立て直すと、莉花に向かって自信たっぷりに言い返した。
「おいおい鈴木ィ。お前こそ随分と余裕そうだが大丈夫か?何なら手ェ繋いでやっても良いぜ?」
「なっ!」
再度述べるが、2人共ジェットコースターに乗るのは初めてである。
「怖くて泣いちゃったらヨシヨシしてあげても良いよ?」
「お前こそ、腰抜かして歩けなくなったら俺におんぶされちまうから覚悟しとけよ!」
罵倒してるのかイチャついてるのかよく分からない言い争いを繰り広げながら2人はジェットコースターに乗り込む。ゆっくり、ゆっくりとジェットコースターは登っていき、そして……
「「(まぁ、そんな強気でいられるのも今のう……)」」
「「ギャアアアアアアアアア!」」
「(は!?え!?何!?何でこっちの世界の奴らこんなの作ったの!?頭イカれてんのか!?)」
アレックスは舐めていた。飛竜に乗って飛び回ったり、トロッコでダンジョン内を駆け回ったり。魔王討伐の中で大抵の乗り物は乗りこなせていたので今回も大丈夫だと思っていたのだ。
「(死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬゥゥゥッ!?)」
莉花も正直言って舐めていた。遊園地など行ったこともない彼女は、事前に親友からジェットコースターという乗り物について聞いていたからだ。
――え、ジェットコースター?なんていうか……ソロソロソロ〜からのドゴーン!って感じ!風を感じられて楽しいよ。怖くなんかないって〜!
……どうやら聞く相手を間違えたようだった。
そのまま2人は絶叫しながらジェットコースターをとことん堪能し、終わった頃には魔王戦の時よりも疲弊し切っていたのである。
「……鈴木。お、おぶってやろ……か……?」
「アレックスこそ……ヨシヨシしてあげるよ?」
「「……。」」
「……スミマセン。強ガリマシタ、オンブ無理デス。ヨシヨシシテクダサイ。」
「私もごめんなさい。むしろ私がヨシヨシしてほしい……」
「「ブッ!アハハハハ!」」
憔悴し切った顔でお互いを見つめ合うと、2人は吹き出した。こんな風に巫山戯るのは随分と久しい気がする。呼吸困難に陥りそうなところを何とか踏ん張り、アレックスは提案した。
「ハハ、飯の前にジェットコースター乗って正解だったな!暫くまともに動けそうにねぇし、休憩がてら飯にしようぜ!」
そう言ってアレックスは手を差し出し、眩しいくらいの笑みを浮かべる。
「そうだね。次は激しくないアトラクションにしよっか。」
「マジそれな。」
アレックスの手を取り、莉花も笑う。まだまだ時間は沢山ある。この後の予定を考えながら2人は歩き出した。
アレックスも莉花も絶叫系は苦手なようです。逆に杏は平気……というより、三半規管がイカれているので大好物レベルです。莉花は聞く相手を間違えました。




