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【完結済】異世界生活は難しい。〜勇者一行、現代日本に転移する〜  作者: 松竹紅葉
第4章 勇者一行、決戦へ。
73/86

勇者一行とその仲間たち、因縁を終わらせる。(後編)

魔人をどうやって倒すのか考えるのがすごーく大変でした。

『全てを゙道連れ゙に゙破滅してや゙る゙ッ゙!』

『なっ、おまっ!やめ』




『《誘い゙の゙死沼》ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ッ゙!』

「「「「ッ!」」」」




 欠片に残されていた魔力が急激に高まり、辺り一帯を毒沼へと変えていく。欠片は自ら毒沼に飛びこむと、そこから泥を纏ったような大きな影が這い出してきた。


「な、何よアレ……!」


 その姿を見たイザベラは思わず顔を顰める。他の者も突如として現れたソレに不快感を示した。


「ヴォォォォォォォォォォッ!」


 異臭を放つソレは人の姿をしていた――否、人型のナニカだった。身体を構成するのは這い出してきた毒沼の泥で、核となった魔人同様身体中から無数の目と口を覗かせている。二足歩行はできないのか四つん這いになって呻いているので、獣と言った方が良いかもしれない。そもそも人と括るのにソレは大き過ぎた。

 

「ヴゥゥゥゥゥゥッ!」


 大地が震えるような大声で叫んだ化け物は、ターゲットを未だ意識のない聖女()にしたらしい。その巨体からは想像もつかないスピードでツトムたちの方へと向かっていく。


「ハァ!?その図体でスピード出んのかよ!」

「そんなこと言っている場あ……くそ、魔力がッ!ツトム、杏!逃げろ!」


 途中飛び散る沼の泥は、地に落ちるたびに周囲を荒れ果てさせる毒だった。魔力が尽きて動けなくなったシャーロットの叫びに、杏は皆を守るように前へ出る。


「《女神の聖域》!」


 化け物が振り下ろした泥の腕は、聖なる結界によって弾かれた。しかしそれに対して特に反応はせず、知能が低いのか策を練るわけでもなく結界を殴り続ける。


「チッ!そこから離れろやクソジジイ!《摩天……ッ!?」


 追い付いたアレックスが化け物に斬りかかろうとするが、その剣の先は寸前で背後に向けられた。


「ヴォォォォォッ!」

「ハァ!?急に手ェ生やすんじゃねぇ!」


 化け物は新たな腕を生やし、背後からアレックスに襲いかかったのだ。直前に気付いて攻撃を逸らすことはできたが、勢いを殺しきれずにアレックスは吹き飛ばされる。


「アル!《生命の揺籠》!」


 ノアは植物の蔓のネットを創り出してアレックスを受け止める。同時に回復魔法をかけながら、ノアは目の前の化け物を冷静に観察していた。


「(これが魔人の本来の姿……?いや、それにしては魔力の質が違う。何より魔人の魔力が全く感じられない。一体どうなっているんだ?)」

「ちょっとノア!アレは何!?魔人が変身したにしてはあのおじいちゃんの魔力一切感じないんだけど!?」

「ぼ、僕にも分かりませんよ!分析中です!」


 化け物の狙いは聖のみのようで、アレックスたちへ追撃を掛ける様子は見られない。杏の結界を壊そうとひたすら拳を打ちつける姿は一種の狂気すら感じる。


「絶対に皆は私が守る……ッ!」

 

 杏は更に魔力を放出し、結界をより強固なものへと変える。これまでの戦いで杏は然程消耗していない。元々の魔力量が多いことに加え、聖の回復によって身体の傷も全快した。全力で結界を展開しても問題ないだろう。


 一方で迫り来る化け物を凝視しながら莉花は魔法の解析を急いでいた。呪術師(シャーマン)らしく呪いを得意とする莉花は、呪い返しや解呪にも長けている。これらは複雑に組み合わされた魔法を分解し、基となる要素を抜き出すことで初めて成せる技だ。


その中で、莉花はある事に気がついた。


「これ、多分召喚魔法の類だ。でもあの欠片じゃこんなの呼べる筈が……って杏、結界の維持はできそう!?」

「魔力はまだあるし、この程度の攻撃なら耐えられるよ!ただ、流石にこのまま殴られっぱなしっていうのはちょっと……ッ!」


 結界内に戦えない人間が居る以上、迂闊に結界を解くわけにはいかない。かといって、結界外の勇者一行も攻撃の要であるシャーロットが先程の魔法で魔力切れを起こしてしまった。万全とは言い難い状況だ。莉花もそれが分かっていたのか、結界の外で伸びている赤い悪魔にヤジを飛ばした。

 

「だよね!ちょっとメフィスト!いつまで寝たふりしてんの!?起きて!」


 その言葉にメフィストはピクリと耳を動かした後、グルリと此方を向く。サボっていたのがバレてバツの悪そうな表情を一瞬浮かべたメフィストだが、すぐに開き直って叫んだ。

 

『オイオイ悪魔使いが荒ぇぞ莉花ァ!魔人のすぐ近くに居て至近距離で攻撃喰らったんだぞ!?少しはオレ様を労りやがれェ!』

「労るも何も、あの程度の攻撃躱せるでしょ!大体メフィストが私を置いてくたばるわけないじゃん!」

『サラッと照れること言うな!大体倒すっつってもアレは……いや、あーもう分かった分かった!』


 メフィストには目の前の化け物がどういうモノなのか何となく予想がついていた。しかし、それを確信へと変える為には実際にやってみるしかない。メフィストは大きく深呼吸し、そして叫んだ。



 

『よし魔王サマ!一先ずオメェの力であの化け物ぶっ飛ばせ!』

「「「結局人任せかいッ!」」」



 

「む、私か?……まあ、構わんが。」


 突然指名されて驚きつつも、魔王ちゃんは目の前の化け物を指差して告げる。


「《死の祝福(ギフト)》」


 魔王ちゃんが魔法を放つと化け物の動きが止まり、続いて身体が崩れて毒沼へと還っていく。あまりに呆気ない化け物の最期に、ツトムと杏の口は塞がらない。


「い、一瞬。」

「流石魔王ちゃん、すごーい……。」


 目の前に広がる化け物だったモノを眺めて、ツトムと杏は慄いた。魔王ちゃんは簡単にやってのけたが、その魔法が高度で複雑なモノであることは2人でも分かる。改めて魔王の恐ろしさ、そして彼と渡り合っていたという勇者一行の凄さを実感した2人なのだった。



 

 残った毒沼を消し去ろうと、魔王ちゃんは前へと歩み出る。

 

「余程焦っていたのか。私がこの程度の魔法を捌けぬとでも……ぐッ!?」


 刹那、大きな影が現れた。咄嗟に魔力の障壁を張って攻撃を防ぐ魔王ちゃんだが、その一撃は重く地面にめり込んでいく。


「……成程?あの男が考えそうなことだな。」


 魔王ちゃんは何とかその攻撃をいなして敵から距離を取るが、目の前の敵の本質に気が付いて顔を顰める。


「ヴォォォォォ!ヴォォォォォ!」


――影の正体は先程の化け物だった。

 

 しかし先程と異なるのは、再び蘇った化け物はより大きく、より強い魔力を持っていることだ。そして繰り出す拳には魔法陣が浮かび上がっており、これまでのただ殴るだけのモノとは異なることが分かる。


「なんか、さっきよりヤバくなってない?しかもあの化け物から感じる魔力って……」

「まさか……魔力を吸収した!?」


 化け物から感じられたのは、他でもない魔王ちゃんの魔力だった。魔王の魔力が上乗せされた攻撃とあれば、杏の結界はそう長くは持たない。


「え。じゃあつまり、魔法の攻撃は通用しないってこと!?」

「しかもあの泥は毒みたいなもんだ。触れることすらできない。」

「……詰んでね?」


 莉花の状況を端的に表した一言に、ツトムたちは静まり返る。魔法は使えない。かといって触れたら即死しかねない泥に突っ込むこともできない。


「そうだな。アレは召喚する際に行うべき(ルール)の設定が一切されていないと見える。……魔人め、己の野望が潰えたからとヤケになったか。」

『やっぱりなぁ。アイツ、オレ様たちを道連れにしてやるとかほざいてたし。』


 召喚したモノが暴走しない為に設ける(ルール)は召喚者の命綱だ。それがないのは自殺行為といえる。


「えっと……つまり?」

「アレは召喚者の生命と引き換えに召喚された完全個体(フルスペック)だということです。」


 召喚魔法に疎い杏の問いに答えたのはノアだった。ノアと共に勇者一行の面々も合流し、目の前の化け物の正体が明かされていく。


「僕や莉花さんのように精霊や魔を従える術者は、当然召喚することが必要になってくるのですが、高位の存在になればなるほど召喚に必要な魔力は膨大になります。」

「そーそー。だからそういう存在を召喚する時は負担が掛からないようにストッパー……(ルール)を決めておくの。」

「具体的に言えば、個体の性能を制限するとかですね。そうすれば必要な魔力も抑えられますし。」

「逆に言えば、(ルール)を決めなければ召喚されたヤツは自分の全力を出せちゃうわけでございまして……調子に乗って召喚者の魔力どころか生命力まで吸い取っちゃうんだよね。だから(ルール)を決めないのは自殺行為ってワケ。」


 魔人は自身の残された生命力と魔力、依代である魔核の欠片を引き換えにあの化け物を召喚したのだ。実際の所は完全どころかより強化されているに違いない。


「そっかぁ。そりゃ強いね……って結局どうやって倒すのアレ!?強い理由は何となく分かったけどこのままだと負けちゃうよ!?」


 そう、強さの理由が分かったところで敵を倒す手掛かりに繋がらなければ意味がないのだ。杏のツッコミにアレックスは頭を掻きながら同意した。


「確かになー。魔力無しでってんならシャーロットが1番強ぇけど、素手で毒沼に突っ込めとは言えねぇや。」

「別に構わん。この戦いに勝てるなら腕の1本や2本くれてやるぞ。」

「そんなことさせたらお前の父ちゃんにぶっ殺されるわ!」


 未来の女王が両腕無くして戻ってきたらアレックスたちは断頭台コースまっしぐらだ。そもそもそんな危険な行為を大切な仲間にさせられるわけがない。


 そして追い討ちをかけるように言葉を発したのは魔王ちゃんだった。


「ただ殴って勝てるだけなら良いがな。」

「「「「え。」」」」

「私の《死の祝福(ギフト)》が通じなかった。恐らくあの個体の中に魂は無い。術式に従って動く泥人形(ゴーレム)といったところか。」

「術式ってあの泥の身体の中に刻まれてるってことじゃない!毒に手を突っ込んで探し出せってこと!?」


 術式で動く泥人形(ゴーレム)を始めとした魔工兵には魂がなく、術式そのものが核となっている。その術式を破壊さえすれば魔工兵は動きを止めるとされているが、現状勇者一行、そして魔王一行にそれをできる者は居ない。




「俺がやろう。」




――筈だった。


その声の主にその場に居た全員が驚く。

何故なら彼は勇者でもなければ魔王でもない。


「その『術式』とやらを壊せば良いんだろう?それなら俺が適任だ。」




 


「……じゃあ、作戦通りに行くぞ。」

「え、ええ……。」

「だ、大丈夫かなぁ?」


 魔人の執念の如く、化け物は未だに杏の結界を殴り続けていた。浄化の魔力を吸収することはできないのか結界が弱まることはないものの、自然の魔素すら取り込み始めた化け物は益々力を増している。


根比勝負となったら勝ち目は無い。


「それじゃあメフィスト!頼んだぞ!」

「ったく!このメフィスト様にこんな()()()()()()()のはオメェくれぇだぞツトムゥ!」


 メフィストは大きく翼を広げると同時に、地面から次々と魔法陣を発生させる。


「オメェら!オレ様からのプレゼントだ、受け取れェェェェェ!」


 魔法陣が光ると同時に、地面から黒光りしたナニカが姿を現した。アレックスたちはそれらを受け取ると、ソレを一斉に化け物へと向ける。


「いくぜ皆……」




「「「「「ファイヤーッ!!!!!!!!!」」」」」

 



 突然至る所から炎が吹き出し化け物を襲う。その攻撃すら気にも留めずに破壊行為を繰り返していた化け物だが、再び拳をぶつけようとしたところで異変が起きる。


「ヴォ、ヴォ、ヴォ……」


 その拳はあまりにも柔らかく、そして脆くなっていた。勢いよく杏の結界にぶつけた結果、腕はボロボロと崩れてゆく。


「随分と()()()()()()。それじゃあ聖女の結界は壊せないぜ?」


 黒光りするソレを手にアレックスは笑った。魔法が使えないなら科学の力を使えば良い。転移してすぐにツトムが言っていたことを思い出しながら、アレックスは手にしたソレを撫でた。


――火炎放射器を。


「……勇者らしさ欠片もねぇけどな!とりあえず焼却は完了だ!次は任せたぜ、鈴木!」

「はーい!この前は良いとこ無しだったからね。挽回するよ……《第一の女(エアステ)》!」


 莉花が杖を打ちつけると地面から灰色の華が咲く。そこから生まれたのは、灰一色の美しい女だった。


「やっほ、欠乏(マンゲル)。ちょっと力貸してほしくて。」

『アンタに喚ばれるのはいつでも大歓迎だよ。あのジジイのせいで情けない姿を見せたんだ。私だってできるってとこ見せてやんないとね。』


 灰色の4姉妹の長女・マンゲルは勝気な笑みを浮かべて莉花に応じる。前回召喚された時は魔人に操られ、あろうことか莉花の友人たちを危険に晒してしまった。灰色の4姉妹としてのプライドもある。今日のマンゲルはやる気に満ち溢れていた。


『で、どいつを欠乏させれば良いんだい?』

「どいつ……っていうか、あのね……」

『?』


 莉花がマンゲルに耳打ちすると、その内容にマンゲルは目を見開いた。


『え、そんなことで良いのか?』

「うん。あの化け物に魔法は効かないから。」

『……そういうことなら分かった。やってやろうじゃないか。』


 そう言ってマンゲルは欠乏させる対象に向かって両手を広げて微笑んだ。その蠱惑的な表情はまるで虫を誘き寄せようと蜜を滴らせる花のようで、事態が事態でなければその場に居た全員が思わず息を呑んだことであろう。


『さあ、おいで。お前たちに呪い(祝福)を授けよう。』


『《失われた恵バニッシュド・グレイス》』




「ヴォ……ッ!?」

 

 マンゲルが魔法を唱えた瞬間、それまで辛うじて動いていた化け物がとうとう動きを止めた。ただでさえ1度焼かれて水分が飛んでいっているというのに、今度はその比ではない。体を構成し直そうと毒沼から新たな泥を調達しようとするが、()()()()()()のだ。


『あはは、滑稽だねぇ。今のアンタは泥人形じゃなくて()()()だってのに。』


 マンゲルの魔法の対象は人だけに留まらない。欠乏とは欠けること。マンゲルは事象そのものに干渉できた。


『この魔法はお前じゃなくて事象そのものに干渉したもんだ。』


 泥人形(ゴーレム)を始めとした人工の召喚物――魔工兵には細かな命令は下せないとされている。魂がない以上、その行動パターンを細かに術式に刻まねばまともに運用ができないからだ。その術式ひとつ刻むにも膨大な魔力を込める必要がある為、高性能の魔工兵を1体召喚するくらいならば術者本人が戦った方が余程効率が良いと言われるほどであった。


 だからこそ、魔工兵の行動パターンは1つに絞ることが推奨される。魔人もその例に漏れず、化け物に込めた術式はシンプルなものだった。


――泥の身体の巨人は/全ての生命を/殴り殺す。


 ついでにその泥に毒を仕込み、魔人自身を核とすることで魔力を吸収する性質を加えたのだ。術式は化け物の身体中に溶け込み、泥で構成されているので常に動き続けている。仮に捉えたとしても、毒を帯びた泥に魔力なしで飛び込むことなど出来やしない。魔人が生み出した泥人形(ゴーレム)に隙はない筈だった。


『私が欠乏させたのは辺り一帯の水分だ。どうだい?アンタの身体、随分と軽くなっただろう。』


アレックスたちによる()()

そしてマンゲルによる()()


 毒が染み込んだ泥の身体は、いつの間にかひび割れた大地のように固まっていた。


「ヴォ、ヴォ、ヴォ、ヴォ……」


 壊れた機械のように同じ音を繰り返し、その身体は少しずつ崩壊していく。しかし、それは同時に化け物が吸収していた魔力が解き放たれるということだ。


 ひび割れた身体から圧縮されていた魔力が光となって漏れ出す。万が一の為に魔人が仕込んでいた罠だった。このままでは辺り一帯が吹き飛びかねない。


『ま、そんなこたぁ想定内だがな。つーわけだ、頼んだぜ。』




()()()()()!』




魔人は狡猾な男だった。

 

野望を打ち砕かれ自暴自棄になっていても、

決して保険を掛けることを忘れない。


魔人は自分がそれほど強くないことを理解している。

だから化け物揃いのあの世界で強かに生き延びてきた。

 

そしてそれは今回も同じことだ。

待つことには慣れている。

何十年、何百年掛かろうともまた……



 

「……ああ、良かった。」




――魔人は()()見誤った。

 

 化け物の目前に現れた白銀の刃は、斬るべき対象をしっかりと映し出している。所謂『刀』と呼ばれる形状の剣を握っていたのは、恐ろしい程に静かに佇む男だった。




「これなら()()()。」




 その瞬間を正確に把握できた者は、一体あの場に何人居たのだろうか。


「……。」

 

 男は微動だにしていないように見えた。しかし、短いようで長い静寂の末に周囲の者が最初に耳にしたのは、化け物が砂となって消えゆく音。毒沼だったモノも同時に消え失せ、シャーロットが抉った地面だけが残る。


 そして泥人形(ゴーレム)が姿を完全に消した時、男は漸くアレックスたちの方へ振り返った。




「よし、斬れたぞ!」

「「「「何で斬れるんだよッ!?」」」」




 邪気などない晴天の下、勇者一行の元気なツッコミが響き渡ったのであった。



次回、色々と答え合わせ。

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