魔王、真の目的を語る。
キリが良いのでちょっと短めです。
「《破天衝》!」
「《魔障壁》」
勇者が生み出した光の波動と魔王が放った魔障の盾がぶつかり、そして消滅した。その衝撃で発生した風はイザベラが杖の先に纏め、それをシャーロットに向けて放つ。
「シャーロット!魔力を込めた新しい風よーッ!」
「バ◯子さんみたいに言うな!」
文句を言いつつ、シャーロットは勇者と魔王の絶大な魔力が混ざった風をその身に宿した。まるで嵐を思わせるような風を支配下に置き、シャーロットは構える。
「《風虎拳・絶》!」
「ガッ……ハッ!」
風の力で一段と速くなったシャーロットの一撃は魔王の鳩尾に入った。魔王として覚醒しようと元は只の人間の身体だ。人体の急所に当てられた渾身の拳は、一発で魔王を呼吸困難に陥らせた。
だが、今の魔王はその程度では止まらない。
「ま、だ……」
「これを喰らってまだ意識を保つか!」
「シャーロット、一旦退きなさい!全く、しつこい男は嫌われるわよ!」
通用しなければ次の手を打つだけだ。シャーロットは瞬時に魔王から距離を取り相手の出方を伺う。魔王が繰り出す剣技を見切るのは至難の業だ。
「(単純な剣の腕を比較することは難しいが、速さだけで言えばウォルター以上か!)」
特に踏み込んでからの突きの速さが尋常ではない。『静』と『動』を巧みに使い分けた動きには研鑽の跡が見てとれた。
「あの剣術は一朝一夕で身に付けたものではない。魔王というより、藤間先生自身の力だな。それもウォルターと同等かそれ以上……」
「やっぱり?師匠並みとか藤間先生すげぇ人だったんだな。さっすが魔王の器。」
「褒めてる場合ですか!?」
「ちょ、魔王来てる!魔王来てるからぁッ!」
シャーロットの攻撃のダメージでふらつきつつも、魔王は此方に向かって突進してくる。呑気にウォルターのことを思い出している2人に突っ込みつつ、ノアとイザベラは防御魔法を展開する。
「《大樹の……」
「《守護水……」
「《女神の盾》!」
「「「「「ッ!?」」」」」
ノアやイザベラの魔法発動より前に、突如アレックスたちの前に黄金の壁が現れる。光と闇――正反対の力の衝突を前に、アレックスたちは思わず目を瞑ってしまった。女神の魔法を使えるのは聖女のみ。だが、その声の主は杏ではない。
「アンタ一体……!?」
ゆっくりと目を開けたその先には、白を基調とした衣装に身を包んだ神々しい女性の姿があった。
「生徒を守るのは先生のお仕事。そうでしょう?藤間先生。」
「……ッ!」
「「「「聖先生!?」」」」
勇者一行は驚きを隠せなかった。聖が纏う黄金の光は、かつて杏が覚醒した時と同じもの。彼女が聖女であることを示していた。
「聖先生も聖女……?いや、確かに魔王が2人居るんだ。聖女が2人居ることは何らおかしくないのか?」
「言われてみればそうですね。だとしても、こんな身近にもう1人の聖女が居るとは思いませんでしたが。」
聖は魔王の攻撃を跳ね返すと、光を纏ったままゆっくりと彼の元へと向かう。
「やめろ……来るな……ッ!」
「……。」
発狂して惜しみなく力を使う魔王の身体は既に限界を迎えていた。立つことすらままならず、歩みを進める聖から見下ろされる形となる。しかし聖はそれを良しとはせず、そのまま魔王の前にしゃがみ込んだ。
「ひ、聖先生ッ!そいつ藤間先生の見た目だけど中身は別人よ!危ないから離れて!」
「クソッ!《破天……」
幾ら聖女として覚醒しようと、魔王の手にかかれば一瞬で命を落としかねない。アレックスは慌てて技を放とうとするが、突如響き渡った声に思わず手を止めてしまった。
「どうして……どうして貴女が此処に来たんだ!」
その声の主は、他でもない魔王だったのだから。
「同人活動ですか?」
「ええ、お恥ずかしながら。青春全てを捧げるくらいのめり込んでいたんです。」
それは藤間が春風高校の教師として赴任して1年程経った頃の話だ。年齢が近く、担当科目が同じということもあり、藤間と聖は話す機会が多かった。
「これでも学生の頃はそれなりに有名だったんですよ〜。」
「だから漫画研究会の顧問をされていたんですね。」
「生徒の中に私の作品を知っている子が居たんです。その子に脅さ……是非顧問になってほしいと言われて。」
「今物騒なワードが聞こえてきたのですが。」
偶々部活動の話になり、藤間はそこで聖が同人活動をしていたことを知ったのだ。経緯はともかく、今の彼女は楽しそうに生徒たちに指導をしている。剣道部の副顧問として悪戦苦闘している藤間からすれば羨ましい話だ。
「どんな作品を描いていたんですか?」
「え゙」
「あ、そそそういうのは踏み込んじゃダメですよね!すみません!」
「い、いえ……。あ、でも藤間先生だったら教えても良いかな。」
藤間先生だったら。その言葉に藤間は胸が高鳴った。この頃既に藤間は聖に淡い想いを寄せていたのだ。そういった話をしてくれる程度には打ち解けているのだと思うと少し嬉しい。
「私、主にオリジナル男女CPの同人誌描いてたんです。騎士×姫とか執事×お嬢様とかヤクザの若頭×組長の孫娘とか色々描いてきたんですけど……」
「へ、へぇ……?」
あまりオタク的なことに明るくない藤間からすれば聖の言っていることはあまり理解できなかった。茫然としている藤間を他所に、聖は話を続ける。
「でもやっぱり1番は魔王×聖女です!」
「魔王……と聖女ですか?」
「はい!」
顔をズイッと藤間に寄せた聖は推しのCPについて熱弁した。
「世界を滅ぼす力を持った悪の化身『魔王』と世界を救う力を持った選ばれし『聖女』!相反する存在の2人のシチュなら私何でもいけます!聖女の力で浄化された魔王とのイチャラブは王道ですけど、逆に聖女が魔王によって堕とされるダークなシチュも萌えますよね!敵対する2人の苦悩や葛藤……数々の苦難を乗り越えた先にあるハッピーエンドの甘々展開!ハァァァ……尊い゙ッ!」
「ひ、聖先生!?」
「……ハッ!ごごごめんなさい!私としたことが!」
「いえ……聖先生の熱意はよく伝わりました。先生の新しい一面を知れて嬉しいです。」
勢いに驚きはしたものの、それで聖への想いが変わるわけではない。むしろ目をキラキラと輝かせていつも以上にコロコロと表情を変える彼女が愛おしいとさえ思う。そんな藤間の表情を見た聖はさっと顔を背けた。
「……そういう顔、ズルくないですか。」
「ん?聖先生何か言いました?」
「何でもないです!……ふふ。」
聖は笑うと、再びじっと藤間を見つめる。
「聖先生?」
「前から思ってたんですけど、藤間先生って私が過去に描いた魔王に似てるんですよ。」
「そ、そうなんですか……?」
「性格は全く違いますけどね。もっとオレ様〜って感じの。」
「オレ様、ですか。」
わざわざそういったキャラクターを描くということは、魔王のような性格の男性が好みなのだろうか。魔王など昔やっていたRPGに出てくるボスのイメージしかないが、魔物を従える王だというのだから強いのだろうか。いや、強いだけでは王にはなれない。少なくとも周りを引っ張るような統率力やカリスマ性が必要な筈だ。
「(俺とは正反対だな……)」
「……になりたいっていうか。ん、藤間先生?」
「えっ?……すみません、聖先生の仰る単語の意味を考えてました!」
「そそそそうですよね!私こそ熱が入ってしまってすみません……。」
本当の理由を誤魔化したので若干心苦しいが、その時の藤間は言い訳しないとやってられなかった。
――自分は聖の好む男性像とはかけ離れていたのだから。
「成程な。つまり貴様は……いや、藤間帝人は心のどこかで聖撫子が好むような男になりたいという願望があったわけか。魔人の奴はその願望を利用して貴様という人格を生み出したのだな。」
魔王ちゃんは魔王の言葉を聞いて納得した。多少魔人の影響を受けているとはいえ、元は同じ魂なので思考は藤間帝人に近い。そんな男が魔王になってまでしたいこととは何なのか、ずっと疑問に思っていたのだ。
魔王はもう1人の魔王の言葉を肯定した。
「その通りだ。私は魔王となって覚醒し、そして……」
魔王はゆっくりと顔を上げ、目の前で悲しそうな顔をする聖女に向かって微笑んだ。
「聖撫子。貴女にこの想いを伝えたかった。」




