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【完結済】異世界生活は難しい。〜勇者一行、現代日本に転移する〜  作者: 松竹紅葉
第3章 勇者一行、魔王と相対す。
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【番外編】クラシス王女の初恋(3)

生きてます。

「《神解(かみとき)》!」


 突如魔狼の身体を電流が駆け抜け、動きを止めた。そしてその隙を逃さず、銀色の武闘家は疾風の如き動きで確実に仕留めていく。


「(確実に仕留めているのに……何だこの違和感は?)」


 次々と呼び出される魔狼が詠唱中のノアへ向かわないよう、シャーロットは周囲の魔狼を足止めしていた。


「(確かに通常の魔狼よりも遥かに強い。自警団で怪我人が出たというのも頷ける。だが……)」


 倒す直前の魔狼の様子がおかしいのだ。シャーロットの喉を喰い破ろうと飛び掛かってきた筈なのに、シャーロットがカウンターを喰らわようとした瞬間にまるで糸が切れたかのように力が抜けていた。


「(あの魔族が操るのをやめたからか?だとしても……)」


 意識を取り戻したなら何かしらの反応を示す筈だ。攻撃を喰らうと分かったのなら、例え避けられないと分かったとしても受け身を取るくらいの動きは見せるだろう。だというのに、倒した魔狼たちにそれは一切見られなかった。


――まるで最初から()()()のような……


「ッ!?」


 そうこう考えている隙に、新たな魔狼がシャーロットに襲い掛かる。回し蹴りで背後に居た魔狼を仕留めたものの、次々と現れる魔狼相手にシャーロットは苦戦を強いられていた。





 

「(あ、後少し……ッ!)」


 シャーロットが魔狼の大半を引き付けてくれているお陰で、ノアの詠唱は残り僅かとなった。彼女が倒し損ねた敵も、ノアの周囲で結界を張っているウォルターが仕留めている。


 だが、このタイミングで魔狼たちの動きに変化が見られた。先程までの統制された動きではなく、ただ目の前の獲物を喰らおうとする本能剥き出しの動き。そして同時に感じたのは、これまで森中に散らばっていた魔狼たちがこちらに向かってくる気配。


 どうやら魔族は森中に散らばっていた魔狼たちまで呼び寄せ、圧倒的数で自分たちを仕留めるつもりらしい。


「(状況は不利、けれど丁度良い。)」


ノアは杖を大きく掲げ、最後の詠唱に取り掛かった。



 

――永久(とこしえ)の唄高らかに響かせ、

――数多なる生命の揺籠となれ。


――生命の円環を正す指針よ、

――(ことわり)を乱せし者を貫く槍となれ。


――森林を統べし王にこの血を捧ぐ……




「我が願いに応えよ、《シルヴァヌス》!」


 ノアが勢いよく杖を地面に突くと多重の魔法陣が生み出され、展開されていく。そして全ての魔法陣が展開を終えた時、ノアの頭上には葉冠を身に付けた威厳ある老人が姿を現した。


『誰が儂を呼び出したかと思えば……貴様か、小童。』


 老人は淡々と話す。しかしその姿に動じることなくノアは状況を説明した。

 

「急にお呼び立てして申し訳ありません。貴方のお力が必要なのです。シルヴァヌス。」


 そう言ってノアが指し示す先に居る魔族と魔狼たちを目にして、老人は貯えた髭を撫でながら呟いた。


『成程、魔族か。ならば儂を呼び出すのにも納得がいく。もしそんじょそこらの魔物退治の為に呼び出していたのなら、貴様の血を全て抜き去っていたところだ。』

「ははは……。」


 これが冗談ではないと分かっているだけに、ノアは内心冷や汗をかいた。

 

 老人――シルヴァヌスは森の精霊である。神としての一面を持つため、召喚の難易度はとてつもなく高い。おまけに仮に召喚に成功したとしても、とても気難しい性格なので協力してくれるかすら分からない。


 それでも今のノアが出せる最大火力が彼の力を借りた精霊魔法だ。ノアは慎重に言葉を選びながらシルヴァヌスに助力を求めた。


「僕はこの森を愛しています。愛する場所を穢す魔族たちからこの森を守りたい。」


「その為には貴方の力が必要なのです。森の精霊である貴方ならば、森に害を与えず守ることができるはずです。お願いします、力を貸してください。森の精霊王シルヴァヌス!」

『……。』


 ノアは自身の何倍もの大きさの精霊に怯むことなく訴えかける。今この瞬間にもシャーロットやウォルターは限界を迎えようとしていた。最早一刻の猶予もないのだ。


「シルヴァ……」

『ならばとっとと魔力を遣せ小童。今の貴様では儂を顕現させるだけでも精一杯だろう。』

「え……」

『何をぼさっとしている?儂の気が変わらぬうちに早くしろ。』

「は、はいッ!」


 ノアは携帯していた短剣で自身の指先を軽く撫でる。小さな痛みと共に流れた血の一滴が魔法陣に滴ると、魔法陣が輝き出した。


『対価は受け取った。……生命の揺籠を穢す愚か者共、森の精霊王の裁きを受けるが良い。』


 シルヴァヌスは己の魔力で弓を生み出すと、天空に向かって光の矢を放つ。森一帯を見渡せるほど高く上がった光は無数の矢へと姿を変えると、森に害をなす者たちへ降り注いだ。


 


『《森林再生シルヴァ・リジェネラティオ》』




 それはシルヴァヌスの祝福であった。矢に貫かれたモノは森への捧げ物であり、その全てが森の一部となる。あるモノは養分となって土と化し、あるモノは種となって新たな生命へと生まれ変わった。


 森に害をなすモノを赦し、森に恵みをもたらすモノへと変える神の御業。それこそがシルウァヌスの究極魔法である。彼らの視界に映るのは魔狼の死体の山ではなく、緑豊かな森の姿であった。


「これが……精霊に愛された者の力か。」


 ノアの側でその光景を眺めていたウォルターは思わず呟いた。これ程までに美しくも恐ろしい魔法は見たことがない。人が決して辿り着くことができない領域の魔法を、この少年は精霊の力を借りて成し遂げたのだ。


 ウォルターがただ茫然とその光景を眺めていると、背後からドサっと何かが倒れ込む音がした。


「なっ……!おい、大丈夫か!?」

「も、もう限界……」


 音の正体はへたり込んだノアだった。あれだけ高度な魔法を行使したのだ。一気に魔力を持っていかれたからか、ノアはそのまま地面に突っ伏した。


「な、何とかなりました……?」

「ああ、敵は全滅だ!凄いぞ、お前のお陰だ!」


 森を救った英雄をウォルターは褒め称えた。本来、神と呼ばれることすらある最上位の精霊を呼び出すだけでも世界で何人出来るかというレベルなのだから。


 ウォルターは目の前の才能に身慄いしながらノアに手を貸す。そして先程まで多数の魔狼相手に奮戦していた主に声を掛けようとした。

 

「姫様、帰りま……」



 

その言葉が最後まで紡がれることはなかった。




「姫……さ、ま?」




緑豊かな平和な森の筈だった。

その瞳に映るのは気高く麗しい主の姿の筈だった。




『……()()()()。』




突き刺すような冷たく鋭い声。

漆黒の刃から滴り落ちる、目が覚めるような赤。




「ウォ……タ……ノ、ア……逃げ……」




 途切れ途切れに自分の名を呼ぶ主の声を聞き、ウォルターの体温は一気に低下する。




――シャーロットは倒した筈の魔族の手によって貫かれていた。



 

 もう用無しと見做したのか、魔族はシャーロットを突き刺した剣ごと彼女を放り捨てた。その動作は緩慢としていたが魔族の力は並外れている。シャーロットは、近くに生えていた大木に勢いよくぶつけられて意識を失った。


「シャーロットさ……ッ!」

「《石の刃(ストーン・エッジ)》!」


 ノアが呼び掛けるより早く、ウォルターによって空中に生み出された鋭い石の嵐が魔族目掛けて襲い掛かる。


『《覇魔ノ盾》』


 しかしその刃は魔族が生み出した魔障の盾によって防がれた。魔族は魔障で捕らえた石の刃の反転させるとウォルターたちへ向かって放つ。


『《怨念ノ刃》』


 ウォルターが放った時より速く、鋭く。魔障の力が込められより強化された石の刃がウォルターの心臓を突き刺そうと飛んでいく。


「(クソッ、間に合わな……!)」


 魔法の発動は間に合わない。動けないノアだけでも守ろうと、ウォルターはノアに覆い被さる。そして目を閉じて痛みに耐えようとした時だった。


 

 

「秘技!アレックス流剣術・無限斬りィィィッ!」




 何かがウォルターたちの前に滑り込んだ音、続いて石の刃と何か金属が幾度もぶつかり合う音がする。受ける筈だった痛みはなく、自分はまだ生きていた。


「一体何が……なっ!?」


 恐る恐る目を開けたウォルターの視界に飛び込んだのは黒髪の小柄な少年の背中。まだ成長期を迎えていない小さな身体にも関わらず、その姿を見たウォルターは何故か安心した。否、この少年に対してこの言葉を使うのは何か違う気がする。



 

――ウォルターは、()()()()()()()()



 

 「ったく、俺抜きでやっからこうなるんだぜ堅物ナイト!」




 その少年――アレックスは、剣を片手に笑顔で此方を振り返った。




……額に思いっきり石の破片が刺さった状態で。よく見れば致命傷はないが身体中に刺さっている。




「捌き切れてないじゃないか!?」

「いや捌いた!全部捌いた!石が砕け切らなかっただけだ!」

「それは捌いたとは言わない!というか貴様が何故此処にいる!?」

「今はそんなこと言ってる場合じゃねえだろ!とりあえずノアはこれ飲め!」


 ウォルターの問いに答えることなく、アレックスは持ってきた袋の中から紫色の液体が入った小瓶を取り出す。


「マリーベルの飲み薬か!」


 森などで見られるマリーベルという薬草から作られた魔力回復薬だ。マリーベルが希少かつ育てるのが難しい為高価なことで知られている。


 何故アレックスがそんな高級品を持っていたのか。そんな疑問を抱いている間にも、アレックスは瓶の蓋を開けて中身をノアの口に無理やり流し込んだ。


「とりあえずこれで魔力回復してからシャーロット(アイツ)回復させてやれ!あの怪我だと回復薬(ポーション)じゃ無理だ!」

「ゴホッゲホッ!も、もう少し丁寧にできないんですかアル!」


 咽せながらも文句を言えるくらいには回復したらしい。ノアは即座に回復魔法を唱えてアレックスの傷を癒す。突き刺さった石の破片は消え去り、傷ひとつない日焼けした肌に戻っていった。アレックスの様子を確認してからノアは魔族の方へ目を向ける。


「どうやって魔族があの魔法を突破したのか分かりません。想定以上の強さです。1度撤退した方が良いかと。」

「そりゃその方が良いだろうけど、アイツがそう簡単に逃がしてくれるとは思えねぇな。そもそもあの魔族がこのまま素直に森に閉じこもってくれると思うか?俺は何がなんでもコイツを此処で倒した方が良いと思うぜ。で、堅物はどう思う?」

「おい待て誰が堅物だ。」


 ウォルターはチラリと意識を失ったシャーロットの方へ目を向けた。小さくではあるが肩が上下しているので息はある。幸か不幸か、魔族の剣が彼女に刺さったままだった為に大量出血は免れているようだった。


「ノア、お前の魔法なら姫様を治せるか?」

「はい。戦える状態まで回復できると思います。」

「……そうか。」


 主の剣となり盾となる。その為に無理を言って主に付いて来たというのにこのザマだ。ウォルターは剣を握りしめ、己の不甲斐無さを恥じた。だが、反省をするのは今じゃない。


「ならば答えはひとつだ。魔族は此処で討つ。」


 剣先を魔族に向けてウォルターは告げた。勝てる勝てないの問題ではない。此処で倒さなければ村まで被害が及ぶのだ。撤退などあり得ない。


「ノア、お前はまず姫様の回復を頼む。魔狼と直接戦っていた姫様なら何か気付いているかもしれない。対抗策を練ってくれ。」

「ッ!分かりました!」


 ウォルターの指示を受け、ノアはシャーロットのもとへ駆けていく。そしてウォルターは正面を向きながらアレックスに呼び掛けた。


「お前は私の援護だ。お前の自己流へっぽこ剣技では囮にすらならん。」

「そこまで言う!?」

「魔族の攻撃を全部捌き切ってから言え!」


 この魔族は明らかに格上の存在だ。今は姿が見えないが、再び魔狼を呼び出されれば一気に数で追い込まれるに違いない。


 そしてアレックスは破片こそ突き刺さっていたが、彼の言う通り致命傷となるような攻撃は全て潰していた。剣技が追いついていないだけで攻撃を見切る目はあるようだ。少なくとも何も出来ずに死ぬなんてことはないだろう。


「……まずはどうやって魔族があの魔法を耐えたのか、それを見極める。着いてこい!」

「おう!」


――2人の剣士は駆け出した。






「……トさん、シャーロットさんッ!」

「ンン……ノ、ノアか?」


 身体がじんわりと温まるような感覚を抱いてシャーロットは目を覚ます。此方を心配そうに見つめるノアを見て、シャーロットは自分が復活した魔族に刺されて意識を失ったことを思い出した。

 

「良かった。何処か痛むところは無いですか?」

「大丈夫だ。魔族はどうなった?」

「今はウォルターさんとアルが戦っています。今はまだ魔狼を呼び出す気配がないので何とかなっているようですが、それも時間の問題でしょう。」

「そうか……ん?」


 逃げろと言ったのにウォルターたちは逃げなかったらしい。あのままだと全滅しかねないから戦力を立て直して出直すぞという意味で言ったのだが、援軍が来たとなれば話は別だ。アルとかいう人物には感謝しかな……

 

「ちょっと待てアルって言ったか!?黒髪ちびすけの!?」

「ええそのアルで合ってます。ああ、そうか。あの時シャーロットさん意識を失っていたから……」

「何でアイツが此処に居るんだ!?」

「ぼ、僕にもさっぱり。あ、でも僕が魔力切れで倒れていたのを救ってくれたのはアルです!お陰でシャーロットさんを救うことができたんですよ。」


 そう言ってノアは空になった瓶をシャーロットに見せる。シャーロットは大きく溜息を吐くと、戦闘中であるウォルターたちの方へ目を向けた。


 ウォルターが攻めて出来た隙をアレックスが突く。ウォルターに比べれば拙い剣捌きだが、筋は悪くない。この僅かな間にも、アレックスは腕を上げていた。


「驚いたでしょう?ああ見えて村の子供たちの中では1番剣の腕が立つんです。ちゃんと剣術を学べば、もっと強くなると思いますよ。」

「……そのようだな。ウォルターの動きを邪魔しないように立ち回れている。」


 ちびすけのくせに、と内心で呟きながらもシャーロットは感心していた。これで自分も攻撃に加われば勝機はあるかもしれない。だが……


「お前の精霊魔法すら突破した奴だ。斬って終わりとはいかないだろう。」

「ええ、その通りです。闇雲に大技を放つだけでは勝てない。何かカラクリがある筈なんです。シャーロットさん、魔狼と戦っていて気付いたこととかありませんか?」

「気づいたことか。そうだな、参考になるかは分からないが……」


 シャーロットは洗脳が解けた際の魔狼に対する違和感についてノアに説明した。洗脳が解けた後の魔狼の様子がおかしかったこと、確実に仕留めている筈なのにいまいち手応えを感じられないこと。ほんの小さな違和感だ。これが攻略の鍵になるのかシャーロットには分からない。


「普通は生きる為に抵抗を見せるものなんだがな。死体(アンデッド)でも相手にしてる気分だったよ。」

死体(アンデッド)ですか……ハハ、ハ……ッ!?」


 シャーロットが呟いた何気ないひと言。それを聞いた瞬間、ノアは勢いよく立ち上がった。


「ノア?」

「シャーロットさん、僕たちは大きな勘違いをしていたのかもしれません。」



 

「あの魔族は……()()()()()()()()()()()()()()()()()?」






「《螺旋海流》!」


 ノアたちが敵を分析している頃。剣戟の末、とうとう渦を纏ったウォルターの剣が魔族の右腹を貫いた。しかし肉体をズタズタに引き裂くような激しい一撃だったにも関わらず、魔族は呻き声ひとつ上げずに手にした剣をウォルター目掛けて振り下ろす。


「させっかよ!秘技!アレックス流剣術!え……えーっと……閃いた!真剣白刃取りィィィ!」

「お前もう技名叫ぶな!」


 しかしカウンターを警戒していたアレックスが間に入ってその剣を防いだ。連携が取れて来たことで、突っ込む余裕まで出てきたらしい。アレックスたちは一旦距離を取って魔族を見据えた。


「……。」


 魔族は相変わらず黙り込んだまま、身体に空いた穴を確かめるようにそっと撫でる。手が血でベッタリと汚れているのを不思議そうに眺めるその様は、まるで身体の構造すら理解できない赤子のようでどこか不気味だった。


「なあ、ウォルター。俺魔族見るの初めてなんだが、皆こんなのばっかなのか?」


 魔族など勇者の物語にしか出てこないような存在だ。辺境の村ともなれば、人型の魔物……くらいの認識でしかない。人と同等の知能を有するとされるわりに、目の前の魔族はそのように感じられなかった。


「私も魔族と戦ったのは数える程しかないぞ。だが……」


ウォルターは魔族を睨みつけると再び剣を構えた。


「……コイツは戦い方がなってない。いや、それ以前の問題だな。()()()()()()()()()()()()()。」


 幼少の頃から剣術に触れていたウォルターは、筋肉のつき方や動きから相手が剣士であるかどうかが分かる。だから目の前の魔族と対峙した時に彼は感じていた。

 

――この魔族は自分より遥か高みにいる剣士であることを。


「だが今のこいつは鍛え上げられた肉体と技術がまるで釣り合っていないんだ。幻術だったらとうに看破っている。だからアレは紛れもなく魔族だ。……少なくとも肉体はな。」

「それって……」


 そもそも先程のウォルターの攻撃は魔族にとって致命傷となっていた筈だ。それなのに平然と動いていた時点で気付くべきだった。


「恐らく奴は……いや、正確にはあの身体に宿っていた()()()()は既に死んでいる。」

「は!?じゃあアイツは死体なのか……ん?」



 

「いやアンデッドにしちゃあ鮮度良過ぎねぇかアレ!?」


 ウォルターの言葉にアレックスは突っ込んだ。現に魔族の肉体は腐っていないし、普通に血も出ている。腹に穴が空いても平然としているのでその辺りはアンデッドっぽさがあるかもしれないが。

 

「ああ、だから正確にはアンデッドではないのだろう。もしアレがただのアンデッドなら剣術の腕まで失われることはないだろうからな。」


 アンデッドの行動は生前の記憶によって縛られる。あれほどの剣士ならば、アンデッドになろうが剣を振っている筈だ。


「恐らく中身は別物……」

「ええ、その通りですウォルターさん。」


 ウォルターの考察を肯定する声が背後からして2人は振り返る。そこに居たのは麻色の髪の少年と銀髪の少女だった。


「ノア、戻ったんだな。ちゃんと暴力女も治ったみてぇだし良かった良かっ……グヘェッ!?」

「はっ倒すぞ。」

「何やってんですかアル……。」


 無礼な発言を繰り返す無作法者に腹パンを喰らわせつつ、シャーロットは泣きそうな顔をするウォルターに向かって微笑んだ。


「姫様、私は……」

「気にするな、と言ってもお前は聞かないか。話は後にするぞ。今は目の前の敵を倒す。」

「……はっ!」


 4人の目線の先にはふらつきながらも立ち上がる魔族の姿があった。足元は血の海が広がっているというのに気に留める様子もない。


「普通アレ失血死すんだろ……何で立ってられんだよ?」

「最早あの肉体に意思はありません。ただ動かされるだけの傀儡のようなものでしょうね。」

「傀儡……。」


 その言葉はウォルターの胸の中にストンと落ちた。本人ではなく、何者かによって操られていたのなら。まさに『傀儡』と呼ぶべきだろう。


「……死体を利用する魔物には心当たりがある。今回のような件は初めて聞いたが。」


ウォルターは剣を強く握り締めて言葉を紡ぐ。

胸の中で沸々と湧き上がる感情に答えが出た気がした。


1人の剣士として、目の前の魔族に抱いた違和感。

剣を交えるうちにソレは失望に、嫉妬に、そして怒りへと変化していった。


 自分がこの先何十年鍛錬を積んだとしても辿り着けない領域にいる剣士。そんな存在が何処かで人知れずに生き絶え、身体を奪われ、尊厳を破壊されている。


「魔族という存在は敵だ。だが……」

 

 最早この怒りは取り憑いたであろう魔物に対するものではなかった。あの身体に染みついた剣を冒涜する輩に好き勝手される()()()()()に対するものだ。


「私は1人の剣士として、この魔族がこれ以上辱められる姿を見たくない。」

「ウォルター……。」


 種族など関係なく、同じ剣の道を歩む者としてこの仕打ちはあまりにも惨かった。ウォルターの思いにシャーロットは敢えて触れずにノアに呼び掛ける。


「ノア、さっきの話について2人にも説明して貰えるか。」

「ええ。」


ノアは頷くと高らかに宣言した。




「魔族討伐改め魔物討伐開始です!」

あと1話で番外編終わります。今度こそ終わる……筈。

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