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【完結済】異世界生活は難しい。〜勇者一行、現代日本に転移する〜  作者: 松竹紅葉
第3章 勇者一行、魔王と相対す。
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勇者一行、呪術師の目的を知る。

莉花が着ている黒のローブは、呪術師の正装です。

「彼女は……」


 宙に浮く少女にイザベラは心当たりがあった。確か杏のクラスメイトだ。杏と帰る時に彼女が良く話してくれたので、人となりは何となく知っている。まさかこんな身近に居た人物が呪術師(シャーマン)だったなんて。イザベラは驚きを隠せなかった。


「遅かったな、莉花。」


 魔王は莉花の姿を確認すると、少し目尻を下げる。


「ごめんね、ちょっと手こずっちゃった。」


 莉花は苦笑いしながら杏と共に地へと降りてきた。ふわりと着地した莉花は、懐から宝石のような何かを取り出すと詠唱を始める。そしてそれが終わると同時に石が光り、抱きかかえられていた筈の杏の姿は消えていた。


「なっ……!おい鈴木!杏をどうした!?」

「ちょっと封印石の中に入って貰っただけだよ。流石にずっと抱きかかえたままだと動き辛いからさ。」

「おま……ッ!あー、クソッ!」


 この状況が受け入れられず、アレックスはまだ混乱していた。必死に言葉を紡ごうとするが、上手く口が開かない。


「鈴木……確か、杏の友人の莉花だな?貴様の、いや貴様らの目的は何だ。何故杏を捕らえた?それと……」


 動揺するアレックスを見て少し冷静になったのか、シャーロットは莉花に問い掛ける。


「杏はツトムたちと行動を共にしていた筈だ。ツトムたちはどうした。」

「「「ッ!!」」」


 シャーロットの言葉に、勇者一行はツトムたちのことを思い出す。元々聖の監視の為に杏とツトムは行動を共にしていたのだ。部室棟の中にはツトムや聖が残っていた筈だ。


「まさかおま……」

「安心しなよ、山田たちは無事だよ。」

「えっ。」

「部室棟の廊下で仲良く眠ってる。もう暫くしたら目を覚ますんじゃないかな。」


 そう言うと莉花は一瞬口を強く結んだ。それが何かを堪えているように見えたのは、何故だろうか。纏まらない頭の中で、アレックスはふとそんな風に思った。


「えーっと……シャーロット先輩、だよね。質問に答えてあげる。」


 いつもの明るくテンションの高い彼女の姿は何処にもない。冷徹で、残酷な黒の魔女。呪術師(シャーマン)としての莉花は何の感情も感じさせない瞳で勇者一行を見据えた。


「まず私たちの目的だけど……それは私に魔王を転移させた()()()()()()()。」

「へ……?」

「ちょ、ちょっと待ってください!その黒幕なら今さっきそこの魔王がトドメを刺したでしょう!?」


 莉花が明かした目的に、ノアが突っ込む。黒幕も何も、先程の老人がそうだろう。皆がそう思っていた。だが、その認識を魔王は笑い飛ばした。


「ハッ、お前たち気付いていなかったのか。」

「な、何を……」

「あの人工の魔核には、魔王の力が込められている。」




「……()()()()()()()()()()()()。」




「は……へ……?」

「ま、待ってよ!?()()()()って!?今代の魔王はアンタだけでしょう!?」


 イザベラは思わず叫んだ。魔王も勇者も世界には1人しか存在しない。両者は一対の存在だ。それが世界の法則なのだ。


「確かにその通りだ。()()()()()()ではな。」

「あっ……!」


 そう、世界は2つある。アレックスたちが居た世界と、今居る此方側の世界だ。


「つまり、()()()()()()()()()が黒幕……ということですか?」

「少なくとも私たちはそう考えている。」

「「「「……。」」」」


 彼方側と比べて此方側の世界は圧倒的に魔素が少ない。だから魔障が発生すること自体が稀だ。だから考えもしなかった。


――此方側の世界の魔王について。


「で、その魔王が1番警戒してるのが杏。聖女なんて歴史上でも数える程しか居ないからね。何されるか分かんないから、ずっと様子を見てたみたいだけど……敵はとうとう痺れを切らしちゃったみたい。さっきもヤバい魔物に襲われてたみたいだし。」


そう言って莉花は部室棟を見遣る。夕陽に照らされた建物からは、生徒たちの元気な声が聞こえてくる。


「私、結界を分析しながら中の様子を見てたの。」


思い出すように、莉花は目を細めた。


「……山田ね、1人で魔物と戦ったんだよ。ボロボロになって、死に掛けて。それでも倒した。」

「ツトムが……。」


 アレックスたちが察知した魔物は、魔核の守護者レベルだった筈だ。気配が消えたのは気が付いていたが、まさかツトムが1人で倒したとは。


『才能がなくても、俺には俺の戦い方がある。そうだろ?』


 かつてツトムが言っていたことを思い出し、アレックスは笑みを浮かべる。だが、それとは対照的に莉花の表情は暗かった。

 

「でも、アレはホントの奇跡。あの魔物は本来なら山田が倒せるレベルのヤツじゃない。杏が居なかったら今頃死んでたよ。」



 

「……そんな奴が、こっちの世界の魔王に勝てる訳ないじゃん。」



 

莉花は術式を展開して自身の杖を召喚した。


「アレックスたちのことは元の世界に帰したげる。けど、その前に黒幕を倒す。」


杖で魔法陣を描き、魔力を注いで大きくしていく。

 

「杏はその為に必要な存在。だからこっちで預からせて貰う。大丈夫、悪いようにはしないから。」


 転移魔法陣が完成すると、莉花と魔王は別空間へと転移しようとした。


「鈴木、待っ……!」

「クソッ!《鎌鼬(カマイタチ)》!」


 シャーロットが風の刃を飛ばしたが、魔王の前に出現した闇に吸い込まれていく。



 

 そして魔王の闇が消える頃、転移魔法陣に入った莉花と魔王の姿もなくなっていた。





 

「……。」


――何も、できなかった。


 静寂の中、アレックスは1人何も言えずにいた。別空間へ消えゆく莉花たちに、アレックスは技を放つ覚悟がなかったのだ。



 

『アレックス、おはよーっ!』

 

『ちょっとアレックスゥ、テンション上げてこーぜっ!』

 

『お、どうしたアレックス?鈴木様が教えたげよーか?』


 

 

「……クソッ。」


 自分が見てきた彼女は、偽りの姿だったのだろうか。頭の中で、ぐちゃぐちゃした感情が暴れ回る。アレックスは強く拳を握り締めた。


「アル……。」


 シャーロットはアレックスに声を掛けようとするが、ノアが無言でそれを止める。きっと今、何を言ってもアレックスの慰めにはならない。


「……魔王たちの魔力が完全に消えました。闇雲に探すのは効率が悪い。まずは1度、ツトムたちの所へ行きましょう。」


 魔法の痕跡を一切残さないレベルの使い手たちだ。魔力を消すなど朝飯前だろう。魔力探知を諦めたノアは仲間たちに呼び掛けた。

 

「そうね。眠っているだけとは言っていたけれど、どこまで信じて良いか分からないし。」


 イザベラは莉花という人物について良く知らない。少なくとも杏を攫った時点で敵であることに間違いない。彼女はあの発言の信憑性を疑っていた。


 未だに分からないことは多い。だが1つだけはっきりと言えるのは、此処で立ち止まっていても何も変わらないということだ。勇者一行は様々な想いを胸に部室棟へと向かった。






「……ム!ツトム!」

「ん……んん?アレ……クス?」


 自分を呼ぶ声がする。ツトムは重たい瞼を擦りながら身体を起こした。ぼやけた視界がだんだんと定まってくると、目の前に黒髪に翠の瞳の青年――アレックスが居た。


「良かった。目ェ覚ましたみてぇだな。」

「あ、ああ。俺、寝てたのか……?」


 まだ頭がボーッとする。頭を押さえながら、ツトムは意識を失う前のことを思い出そうとした。


「(聖先生の監視してたら魔物に襲われて、何とか倒した後ぶっ倒れて杏に……)」


 記憶はどんどん蘇る。そうだ、その後別空間に閉じ込められたことが発覚して……

 

「ッ!杏!そうだ、アレックス!杏は!?」


 完全に覚醒したツトムは周囲を見渡した。自分と同様に眠らされていたのか、藤間と聖は未だに横になっている。だが、()()()()()

 

「それは……」

「ツトム、杏は攫われたんだ。……鈴木莉花という少女に。彼女が呪術師(シャーマン)だったんだ。」


 言い淀むアレックスの代わりに、シャーロットが事実を告げる。最初はポカンとしていたツトムだが、莉花の名を聞いて全てを思い出した。

 

「あ……あ……」


全てを思い出し、ツトムの青の瞳はキュッと小さくなる。腹の底が熱くなり、無意識に拳を強く握り締める。

 



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーッ!」




――部室棟の廊下で、青年の叫びが響き渡った。

次回、ツトムたちの身に何が起きたのか書いていきます。

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