勇者一行、魔王と再会する。
久々の御登場です。
「再び会えて嬉しいぞ。」
その声は一瞬で空気を変えた。凍てつく氷のような声。人形を思わせる均整の取れた容姿は、『完璧』が擬人化したかのようだ。
ゴシック調の黒いドレスに身を包んだ『死』は紅玉の瞳を細めて、勇者一行を眺める。
「どうした?まさか見た目が変わったから誰だか分からぬと……?」
その場に居た誰も声を出さないので、少女は頬を膨らませて不機嫌になる。側から見れば、美少女が拗ねている微笑ましい光景だろう。だが、此処に居る皆が理解している。
――目の前のソレはそんな可愛らしいモノではない。
外に魔障が漏れ出さないよう制御しているようだが、その身に凝縮された魔障はその辺の魔物とは訳が違う。もし抑え込まれたそれが一気に解放されれば、この近辺どころか街そのものが吹き飛びかねない。
「まあ良い。分からぬなら分からせるまで。」
少女はそう言ってアレックスの元へと歩み寄る。
「ッ!」
アレックスは剣を構え、これから来るであろう攻撃に備えた。
一歩、また一歩。だんだんと両者の距離は縮まっていく。生徒たちの話す声が何処か遠くに感じられる。
少女の足音。
勇者が息を呑む音。
皆が息をする音。
心臓が高鳴る音。
そして両者が触れられる距離まで近づいた時、少女は口を開いた。
「暫く見ぬ間に、また随分と漫才の腕を上げたな。勇者アレックス。」
一瞬の静寂。そして……
「だから俺は漫才師じゃねぇっつってんだろうがァァァァァァァァ!」
アレックスの元気な突っ込みが響き渡った。
この状況下でこんな馬鹿げたことを言う奴は、1人しか居ない。
世界を混沌に叩き落とし、アレックスたちが此方側の世界に転移させられた遠因。
――目の前の少女は、紛れもなく魔王だった。
「フッ……そのキレのある突っ込み、此方側に来てますます磨かれたようだな。」
「もうその話から離れろや!つーかテメェ、さっきからずっと気になってたんだが……」
「いつから女になったんだ!?そういう趣味だったのか!?」
「「「(突っ込んだ!)」」」
アレックスは全力で叫んだ。アレックスだけではない。この場に居た全ての者たちがずっと気になっていたことだろう。
アレックスの問いに魔王は目を丸くして暫く考え込み、そしてゆっくりと口を開いた。
「そもそも私に性別はない。あとこれは私の趣味ではない。」
「そうか!それは良かった!まじで良かった!」
まずそれだけは確認したかったので、アレックスは心底安心した。イケメン魔王様が急にゴシック系美少女になって目の前に現れた此方の身にもなってほしい。
……いやちょっと待て。さらっと流してしまったが、魔王の趣味ではないということは誰の趣味だろうか。え、まさか呪術師?
次々と疑問は溢れ出す。だが追い討ちをかけるように魔王は口撃を続けた。
「趣味ではないが……。『kawaii』は正義だから、この姿は結構気に入っている。」
「前言撤回ッ!テメェ本当に魔王か!?魔王なのか!?」
魔王が?カワ……カワイイ?ちょっと何を言っているか分からない。いつの間にか幻術でも掛けられていたのだろうか。
「《目覚めの笛》!……どうしてかしら、幻術が解けないのだけれど。」
イザベラはすかさず幻術解除の魔法を唱えたようだが効果はなかったらしい。つまり、これは現実。
「勇者よ、慌てるでない。『kawaii』は今や日本のみならず世界に通用する言葉となっている。そしてそれは性別の垣根を越えたモノだ。……貴様、時代についていけないでどうする。」
「お前そんなキャラだったっけ!?つうか何でそんなにこの世界に馴染んでんだよ!?」
自分たちと違い名優の腕輪を付けている様子もないというのに、既に知識量で負けている気がする。アレックスは混乱していた。
「確かに、可愛いモノ好きは男女問わずに増えていると聞く。……アル、お前の考えは古いぞ。魔王を見習え。」
「お前はなんで魔王の味方してんの!?」
まさかのシャーロットから追撃を受け、アレックスは思わず膝をつく。勇者一行と魔王が相対しているという状況下でコレ。もう頭がパンクしそうだった。
「(何故魔王が此処に……?いや、そんなことは後で良い。まずは此処から去らねば。)」
勇者一行と魔王が漫才を繰り広げている一方で、放置された老人はどうにかして此処から去ろうと隙を窺っていた。
別に勇者一行を軽んじていた訳ではない。生首状態だろうと自分が死ぬことはないし、仮に切り刻まれて肉片となろうとも復活できる。だからこそ、勇者一行の力を見極める為に攻撃をそのまま喰らったのだ。
だが……
「(魔王は駄目だ!気分次第で私の『魂』などいとも容易く砕かれる……ッ!)」
魔核を埋め込み、そして融合した老人は不死身だ。たとえその身が燃やし尽くされ灰になろうと、次の瞬間には甦る。……その『魂』が無事であれば。
此方側も彼方側も、生きとし生けるものは皆『魂』を持つ。魂は身体と結びついているので、大抵の生物は身体が死ねば魂も死ぬ。
アンデッドと呼ばれる魔物は、死んだ魂を無理矢理呼び出して現世に縛り付けたモノだ。身体が死んだ状態で魂だけが死ぬことなく存在する場合、魂は自身に刻み込まれた記憶から結びつく身体を作り出そうとする。しかし、理に反した方法で存在する魂には身体を完全に再現する力はない。故にアンデッドの身体は醜く不完全なのだ。
ガダルド・クラシスは魔核の力を使うことで己の身体と魂を分離する術を会得した。そして分離された魂と魔核を新たに結びつけることで、身体が破壊されても完全に再生させることに成功したのだ。
老人も同様の術を自身に施しているのだが、魔核そのものである魔王にこのカラクリはお見通しだろう。そして、勝手に転移させた自分たちを魔王が見逃す筈がない。
「(行くなら今しかな……)」
「何処へ行く気だ?」
「……ッ、カッ……ッ!?」
……自分は今、呼吸が出来ているだろうか。老人はふと考えた。いや、そもそもこの肉体に呼吸は必要ない。人の身はとうに捨てた。人を超えた種、魔人へと成ったのだ。
魔王は何もしていない。ただ言葉を発しただけだ。
だが、それだけで――
老人はただの人へと成り下がる。
「何故わざわざ此処まで出向いたと思っている。」
そう言って魔王は老人の生首へと歩き出した。だが先程までの軽い足音は徐々に重さを増し、新たに金属がぶつかり合う音が増えていく。
「私と勇者一行の戦いに水を差し……」
その声は少女の声から少年、青年へと変わっていく。
「何の関係もない呪術師を利用して私を召喚させ……」
それまで抑えられていた筈の魔障が漏れ出し、少女だったモノを覆い隠す。
「あまつさえ奴を殺そうとした……ッ!」
魔障が晴れるとそこに在ったのは、純然たる『死』。勇者一行が良く知る魔王の姿であった。
「……ただの『死』ではない。『極上の死』を与えてやる。」
――『死』はすぐそこまで迫ってきていた。
やめて!魔王の力で体内の魔核を破壊されたら、ガダルド・クラシスの秘術で魔核と結びついてる謎の老人の魂まで砕けきっちゃう!
お願い、死なないでお爺ちゃん!
あんたが今ここで倒れたら、碌に出番を貰えずただ意味深な台詞を吐いてるだけの謎の男はどうなっちゃうの?
チャンスはまだ残ってる。ここを耐えれば、野望だって果たせるんだから!
次回「老人死す」デュエルスタンバイ!
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