勇者一行、高校生になる。
新章突入です。
「アレックス・スミスだ、気軽にアレックスって呼んでくれ!」
「……という訳だ。皆、仲良くな〜。」
担任のメガネ教師が呼び掛けると、目の前に居る学生たちが拍手でアレックスを歓迎する。温かい雰囲気に包まれながら、勇者アレックスは顔を引き攣らせつつ笑顔を見せた。
「(どうしてこうなった……ッ!)」
アレックスは1週間前のことを思い返していた。
「何がどうしてどうなったら俺が学校通うことになんだよ!?」
魔核竜を退治した次は学生になれ?ツトムから突如学生生活を送るよう言われたアレックスは混乱した。
「落ち着けアレックス。ちゃんと順を追って説明する。」
「お、おい!分かった、分かったから技を掛けんのはやめろぉ……」
シャーロットに失神寸前まで技を決められ、アレックスは大人しくなる。一応まだ意識があることを確認したツトムは話を続けた。
「別に俺はふざけて言っているわけじゃないぞ。魔王を転移させようとした真犯人は、まだ学校に潜伏している可能性が高いからそう言っているんだ。」
奴がどういった経緯で呪術師の存在を知ったのかは不明だが、少なくとも両者は何らかの形で接触したことがある筈だ。呪術師があの旧校舎を拠点にしていたことから、最も可能性が高いのは学校となる。
「だからって俺たちがわざわざ学校に通う必要はねぇだろ。」
「校門で警察呼ばれた奴がすんなり校内に入れると思うか?」
「アノトキハホントウニスミマセンデシタ。」
衛兵……ではなく警察に尋問された時を思い出す。だが、あの時は装備そのままで出歩いたからああなってしまっただけだ。格好さえ見直せば良いのでは?とアレックスは思ったが、どうやらそれだけではないらしい。ツトムは真剣な表情で口を開いた。
「俺と一緒に杏を守って欲しい。」
そして話は冒頭へと戻る。
魔核竜との戦いの時に彼女が放った光は、仲間の傷を癒しつつ魔核竜を弱体化させていた。歴史上でも数人しか確認されていない『聖女』の力を杏は持っている。敵からすれば厄介極まりないだろう。そう考えると敵の素性が知れない以上、ツトムの言う通り杏の側に誰か付いていた方が良い。
「(敵さんが素直に出てくると良いがなぁ……。)」
周囲が歓迎ムードで満たされる中、アレックスは内心で不穏な気配を感じ取っていた。
「アレックスってアメリカから来たんだよな?やっぱりハンバーガーってこっちよりデケェの?」
「何か英語で話してみてよ!」
「彼女居んの?」
「あっちの学校ってどんな感じ?」
「ちょ、1つずつ!1つずつ質問してくれ!」
昼休みになると、アレックスはクラスメイトに囲まれて矢継ぎ早に質問されていた。外国からの留学生に皆興味津々である。そんな様子を、少し離れた場所からツトムと杏は眺めていた。
「何か、普通に馴染んじゃってるね。アレックス。」
「うん。というか、装備外すと本当にただの一般人にしか見えないな……。」
今アレックスはツトムたちと同じブレザーの制服を着ている。彼のトレードマークとも言える赤い宝石が埋め込まれたサークレットは当然付けていない。
ツトムも杏も、アレックスが勇者としてとても頼り甲斐がある存在であることは理解している。だが、目の前に居るのは周りに振り回されるただの留学生だ。
「おい、ツトム!杏!助けてくれぇッ!」
「ははは、仲良くなれそうで良かったな。アレックス。」
「てめぇ!」
「ツトム、弄るのも程々にね……。」
周りに揉みくちゃにされるアレックスを微笑ましく思いながら、ツトムと杏は持参した弁当を美味しくいただいたのだった。
「で、彼女居るの?」
「居ねぇよ!」
クラスにはアレックスの突っ込みを入れる声が響き渡っていたという。
「ブッ……クク……ッ!良かったですねぇ、アル。フフッ、友達沢山できて。」
「笑ってんじゃねぇよ!」
放課後、ツトムの家にて。学校生活1日目を終え、勇者一行は各々何があったか報告していた。アレックスとツトムの話を聞いたノアは、その様子を思い浮かべて笑いを堪えている。
アメリカのNYからやってきたアメリカ人留学生、アレックス・スミス……というのが、学校に潜入するにあたって用意した設定だ。戸籍等は、エリザベスが何とかした。彼方側からやってきてしまった異世界人を保護する秘密組織に伝手があるそうだ。
「ふむ。私はそんな風に揉みくちゃにはされなかったが、ひょっとして歓迎されなかったのか?」
「シャーロット怖いもんねぇ。」
「何だとッ!?」
「あはは……。(シャーロットさん、王族オーラが溢れ出てて近寄り難いんだろうなぁ。)」
シャーロットとイザベラが睨み合う様を、杏は苦笑いで見つめる。シャーロットは編入早々有志によるファンクラブ(主に女子生徒)が誕生したらしい。間違ってもアレックスと同じような扱いはできないだろう。対してイザベラはその色気で何人もの男子生徒を保健室送りにしたそうだ。クラスが血(鼻血)で赤く染まっていたと隣のクラスになったノアが呟いていた。
「3人とも良くも悪くも目立ちますからね。こういう時地味で良かったと心底思います。」
「地味な奴は背後霊に気をつけろなんて言わねぇよ。」
ノアは顔立ちこそ整ってはいるが、その大人しい性格も相まって他3人に比べると地味な印象を受ける。同学年にイザベラが居るのでそこまで注目されなかったそうだが、同じクラスの女子生徒に放った一言のせいである意味有名人になってしまった。
「ノア君って彼女居るの?一目見た時から私、ピーンって来ちゃった♡」
昼休みの時、ノアに絡んできた女子生徒が居た。校則違反であろうにピアスやネックレスといった装飾品を身に付け、胸元を大胆に開けた格好でノアに迫ってくる。
「はぁ……。」
あまりに品のないその姿に、ノアはげんなりした。ノアはどちらかというと品のある落ち着いた女性が好みだ。大体、目の前に居る女子生徒は色気を振り撒いているつもりなのだろうが、天性のお色気魔女と共に旅をしてきた彼からすれば子供の色仕掛けに過ぎない。それに……
「もし良ければ、今度一緒に2人で一緒に……」
「結構です。精霊たちが貴方を嫌がっているので。」
「は?」
ノアを守るように周囲を飛び交う精霊たちが、彼女に対して敵意を剥き出しにしていた。いや、彼女というより……
「お尋ねしますが、貴方の背後に居る赤子の霊は何ですか?貴方のことを殺気立った目で見てますけど。こういう類の背後霊には気を付けた方が……」
「へ……は……?い、嫌ァァァァ!」
途端に顔を真っ青にした女子生徒は、幽霊でも見るようにノアを見るとそのまま教室を飛び出して行った。
「祟られるような人間と居たら、精霊たちが穢れてしまいますからね!」
「ね!じゃないんだよ、ね!じゃ!」
満面の笑みを向けるノアを前に、ツトムは崩れ落ちた。1番大丈夫そうだった奴が1番ヤバかった。というか学校で精霊とか言うな。
お陰でノアは転入早々『スピリチュアルでヤベェ地味外国人イケメン』という属性過多盛りなキャラとして名が通ってしまった。因みに、ノアに絡んでしまった哀れな女子生徒は、その日そのまま体調不良で帰宅したそうだ。……要はそういうことだったらしい。
「その腕輪、ぶっ壊れてんじゃ……。」
ツトムは顔を上げてノアが身に付けている腕輪を見遣った。
『名演の腕輪』。予め設定した人物像を演じることのできる魔法道具だ。これを身に付けることで、勇者一行は与えられた設定通りの知識や技術を有することができる。だが、装備者と設定された人物像に大きな隔たりがある場合はその限りでは無い。
「エリザベス様お手製の魔法道具が不良品な訳がないでしょう。ノアがお馬鹿なだけよ。」
「イザベラさん、辛辣……。」
真犯人を見つける前に学校生活が色んな意味で終わってしまいそうである。やっぱり勇者一行に頼んだのは間違いだったのでは……。
ツトムは大きく溜息を吐いた。
彼方の世界では、貴族以上の地位がなければ名字はありません。勇者一行の場合、シャーロット以外は名字がなかったので潜入の際に自分たちで考えました。
……スミスさんは、日本でいう山田さんのような定番の名字だそうですよ。




