勇者一行、戦いの果てに。
大変長らくお待たせいたしました…。
今回は2話連続投稿です。
「ンア?ふぁぁ……。」
アレックスは窓から差し込む日光で目を覚ます。柔らかいベッドと周囲にあるのは見慣れぬ『きかい』たち。ツトムの家の一室だった。
「あれ、俺……」
何故自分は此処に居るのだろうか。アレックスは寝惚けた頭をフル回転させ、寝る前のことを思い出そうとする。
「確か、ツトムと一緒に旧校舎行って魔核竜と戦闘して……」
勝利した。だがその後の記憶が一切無い。ノアたちが此処まで運んでくれたのか。そもそも皆無事だろうか。
「寝てる場合じゃねえ!」
アレックスは慌てて起き上がると、寝癖もそのままに部屋を飛び出した。
階段を駆け下り、居間へ向かう。部屋に近づくとノアたちの声が聞こえた。アレックスは扉を勢いよく開き、仲間たちの無事を確認する。
「皆、無事……」
「やったあ!また私の勝ち〜!」
「くっ!イザベラ、もう1回!もう1回だ!」
「あの〜、シャーロットさん。それ言うの3回目では?」
アレックスの目に映ったのは、居間に置かれた四角い水晶……『てれび』とやらに映る人物たちを操っていているイザベラたちだった。イザベラが勝ったとか言っていたので、おそらく色っぽい女武闘家っぽい人物がイザベラで、仰向けで倒れている筋肉ゴリラがシャーロットだろうか。そんな様子をノアはのほほんと眺めている。
「(何か楽しく遊んでやがる……。)」
こっちの心配を返せと思いながら仲間たちを眺めていると、近くに居たツトムが気付いたようで話しかけてきた。
「アレックス起きたんだ。もう昼だよ。」
「え、もうそんな時間かよ!」
ツトムに言われて窓の外を確認する。確かに日は真上に昇っていた。戦いの後1人だけ爆睡していたことを恥ずかしがっていると、台所から飲み物を用意した杏が顔を出してきた。
「あ、アレックスだ!お邪魔してまーす!」
「おう、杏も来てたのか。」
初めて会った時は不審者でも見るような目で此方を見ていた彼女も、昨日の戦いを通して心を開いてくれたらしい。杏はツトムと比べたら魔法には触れていなかったようなので、アレックスたちを警戒するのは無理もないが。そう考えていると、アレックスは昨日の杏の様子を思い出した。
「そういやお前、身体大丈夫か?相当魔力使ってたろ、あんまり無理すんなよ?」
「大丈夫。エリさんにしっかり回復してもらったから。」
そう言って杏は飲み物を置くと、元気一杯と主張するように両腕を掲げた。杏についても色々と気になることが多いが、それよりも聞かなければならないことがある。
「なあ、ツトム。俺たち、魔核竜倒したんだよな?」
「倒したけど、それがどうした?」
「俺、魔核破壊した後の記憶ねぇんだけど、あの後手掛かりとか何か見つけたのか?」
そもそもアレックスたちが旧校舎へ向かったのは、件の魔法使いの手掛かりを得る為である。魔核竜の所為で頭から吹き飛んでいたが、元の世界へ帰る為にも早く犯人を捕まえたい。アレックスに尋ねられたツトムは申し訳なさそうな顔をしながら答えた。
「あー……あるにはあったんだけどね。先に結論から言うと、犯人特定には至らなかった。寧ろ更にややこしくなったかも。」
「まじか。」
ツトムは頷くと、魔核竜との戦いの後のことを語り出した。
「あの後……」
魔核竜との戦闘で殆ど壊れてしまった多目的ホールホールだったが、奇跡的に手掛かりは残っていた。その内の1つが、使い魔を召喚する為の魔法陣だ。
「使い魔?……つーことは、その魔法使いは呪術師だったってことか?」
「うん、魔法陣の書き方からして間違いないってさ。それが1つ目。」
呪術師は、世間一般で言うところの『黒魔術』――呪いや精霊と対をなす『魔』を従える魔法を得意とする者たちだ。人に害を与えるその性質から危険視され、迫害を受けていた歴史もある。今では人知れずひっそりと暮らしているようで、アレックスも実際に見たことはなかった。
「まさか、そいつが魔王を転移させたってのか?……おいおいおい!それじゃあ俺たちが転移したのって、巻き込まれ事故って奴じゃねえか!」
『魔』には魔物も含まれる。魔物の頂点である魔王を転移させようとしてもおかしくはない。そしてその呪術師が発動した魔法陣が、丁度魔王と戦闘中だったアレックスたちにまで及ぶものだったとしたら。転移対象でなかった異分子の自分たちが、全く関係のないツトムの家に飛ばされたのにも納得がいく。
「ああ、アレックスたちが巻き込まれたっていうのは合ってると思う。ただ……」
そう言ってツトムは顔を顰めると、2つ目の手掛かりを語った。
「その呪術師と魔王を転移させようとした奴は多分別なんだ。」
魔法陣を見つけた当初は、ツトムたちも同じ考えに至っていた。だが、魔法陣を分析していく中でノアがあることに気が付いたのだ。
「その魔法陣で召喚できるのって、低級の使い魔が限界らしいんだ。……本来は。」
「ん、本来は?」
「ああ、魔法陣に高度な別の術式が刻まれた痕跡があったんだよ。第三者の手によって。」
「!?」
ノア曰く、その術式を刻まれたことで魔法陣の効果が変わってしまったらしい。
「で、その所為で低級使い魔の召喚から格の高い魔を転移させる術式に変わったんだと。」
「……。」
それが事実であれば、呪術師は魔法陣に手を加えられたことに気が付かずに術式を発動してしまったことになる。
「呪術師を擁護するって訳じゃないけど、加えられた術式は魔法で不可視化されてたみたいだ。気が付かなかったのは無理ないかも。」
それでも実際に魔王を転移させてしまったのだから、その呪術師は相当な実力者であったに違いない。だが、格の高い魔を呼ぶというのはその分リスクがある。契約を結べなければ、そのまま命を奪われる可能性が高い。
「だから別の奴に転移させたのかもな。可哀想に、その呪術師はもう死んでるな。呼び出しといてやっぱ違いましたじゃ魔王ブチ切れだろ。」
「だよな……。とりあえず呪術師は学校関係者だろうから、学校から居なくなった奴を調べてみるよ。何か分かるかも。」
「ああ、頼む。それにしたって魔法陣に手を加えたって奴がどういう奴なのか分かんねえな。」
少なくともその第三者は素性を隠していたであろう呪術師の正体を見抜き、かつバレないように魔法陣に細工できるほどの人物だ。只者ではない。
どちらにせよ、アレックスたちがやるべきことは自分たちを転移させた例の第三者を見つけ……
「……ちょっと待て。」
「どうした?アレックス。」
確かに細工を施し、魔王が転移するように仕向けたのは謎の第三者である。だが、実際に術式を発動して転移させたのは呪術師だ。
そして、転移された対象が元の世界に戻る為には転移させた人間に再び術式を発動させる必要がある。
つまり……
「俺たちどうやって元の世界に帰れば良いんだよ!?」
勇者一行は、元の世界に帰れなくなってしまったのだった。
ツトムが放った例のやつについては2章で触れます…。




