勇者一行、魔核竜を討伐する。(2)
お待たせいたしました。
書いてたらどんどん長くなっていく…。
「イザベラ、支援頼むぜ!」
「任せてダーリン♡」
もしこの場にシャーロットが居れば、また口喧嘩が始まっていたかもしれない。そんなことを思いながら、イザベラは詠唱を始める。ノアとシャーロットが戦線に復帰するまでの時間を、アレックスと2人で稼がなければならない。
「グギャアアアア!」
アレックスの存在を認識した魔核竜は尻尾を振り上げると、背後を薙ぎ払った。固定されていた座席は床からの剥ぎ取られ、粉々となって地面に散らばる。背凭れのクッションは竜の鱗によって引き裂かれ、周囲には中の綿が舞った。しかし、その周辺にアレックスの姿はない。
「!?」
魔核竜は咄嗟に視線を動かすが、標的は見当たらない。
「おいおいその目ん玉は飾りか!?」
声と共に死角から人影が飛び出す。魔核竜が振り下ろした尻尾を高速で駆け上がり、アレックスは埋め込まれた魔核がある頭へと迫った。
「イザベラ!」
「分かってる!軍神の加護!」
イザベラの強化魔法によって、アレックスの剣を握る力が増す。迫られた魔核竜は大きく身体を揺らして振り落とそうとするが、その動きに合わせてアレックスは頭上目掛けて大きく跳躍した。
「オラァッ!」
身体を捻りながら繰り出された剣撃が魔核竜を襲う。しかし、それに合わせたかのように魔核が赤く光り、シャーロットの時と同様反射陣を貼られてしまった。
魔法陣を解除されようと、先程の女のように焼いてやれば良い。
魔核竜は再び吐息の体勢に入るが、アレックスの攻撃は魔法陣をすり抜け魔核へと届いた。
「!?」
攻撃が通ったことに竜は驚き、瞳孔が大きく開く。
「魔力込めねぇ只の剣撃なら防ぎようがねぇもんなァ!?」
反射陣が跳ね返すことができるのは、魔力が込められた攻撃である。
強化魔法はその対象者の能力を向上させるにすぎない。アレックスの剣は魔核と衝突し、僅かにヒビを入れた。
「グルゥゥゥゥ……ッ!」
「チッ、やっぱ威力は落ちるか!」
しかし、当然だが魔力が込められていない攻撃の威力は大幅に落ちる。素の力で破壊出来るのはシャーロットくらいであろう。アレックスの力では魔核を破壊できないことに気が付いた魔核竜は、口を大きく開いて灼熱の炎を放とうとした。
「また吐息か!?芸がねぇなぁ!」
アレックスは剣先に水の魔力を集中させ、水竜を模った水を具現化させた。
水神刃光。水の龍を生み出して敵を貫く魔法である。
「(吐息と水神刃光を相殺させれば対処可能……ッ!)」
勝負は一瞬。アレックスは魔核竜から放たれる吐息のタイミングを見極めていた。1秒にも満たない駆け引きであるが、油断はできない。顔から吹き出た汗が静かに頬を伝う。
「(焦るな、奴が仕掛けるタイミングを……)」
「ダーリン違う、吐息じゃない!」
「!?」
イザベラの叫びでアレックスの意識が魔核竜の口から離れる。視界に映るのは、魔核竜の眼に映る自分の姿。そして、竜が持つ一対の角の間に生まれた炎の玉。
「しまっ……!」
魔核竜が魔核を光らせて周囲の魔素を取り込むと、炎の玉はアレックスを優に超える大きさへと成長する。
吐息はブラフだった。
まるで小さな太陽とでも言えるような巨大な炎の玉から、触手のように伸びた炎の鎖がアレックスを襲いかかる。
「クソドラゴンがッ!」
炎の鎖を躱しながら、アレックスは炎の玉に向かって水神刃光を放った。竜を模った水の柱は見事中心を貫き、炎は消滅する。
「螺旋時雨!」
アレックスに迫っていた炎の鎖もまた、イザベラの水の矢が降り注いで消え去った。余程高熱だったのか水は一瞬で蒸発し、辺り一面は水蒸気で白く覆われる。
「イザベラ、助かった。」
「どういたしまして♡」
視界が晴れる前にアレックスとイザベラは合流した。ある程度魔核竜の攻撃パターンが分かってきたが、やはり2人で相手をするには手が足りない。
「やっぱりノアたちが居ねぇとキツいな。」
「そうねぇ。流石に私1人じゃダーリンの支援は厳しいかも……。」
アレックスたち勇者一行は、魔王と互角に戦うことのできる実力者だ。そんな彼等が魔王のなりかけに苦戦を強いられている。
明らかにこの魔核竜の強さは異常だった。
アレックスたちは以前にも魔核竜を討伐したことがある。その時は多少は苦戦したものの、倒すまでにそう時間は掛からなかった。しかもそれは旅の中盤での出来事だ。その当時より、今のアレックスたちは格段に強い。
此方側の世界で、魔法の威力が落ちるから?
旧校舎が壊れないよう無意識に力を抑えているから?
魔王の影響を多大に受けているから?
……否。この時の勇者一行は知る由もないが、この魔核竜は特別だった。
かつての魔王の中に、元は人間だった者がいる。
その男はとある小国の王であり、世界征服の野望を抱えていた。しかし、小国の軍事力など高が知れている。他国に侵攻すれば返り討ちに遭うのは目に見えていた。
それでも男は諦めなかった。
そして男は禁忌の力、『魔障』に手を染める。
男は魔障の研究を進め、人工的に生み出した魔核をその身に取り込んだ。本来であれば、普通の人間はその力に耐え切れずに死ぬ。
しかし奇跡か、或いは魔核の意志か。男は生き延びた。男は魔障の力を自在に操り他国に戦争を仕掛け、領土を拡げた。かつての小国は幾つもの国を勢力下に置く帝国へと姿を変え、世界は混沌へと叩き落とされることとなる。
歴代の中で最も多く人を殺したとされる魔王。
最初にして最後の皇帝。
ガダルド・クラシス。
後に『大海原の勇者』と呼ばれる当時の勇者とその一行に倒された彼の研究は、禁書として封印された筈だった。
アレックスたちは知る由もない。
いつの時代か、封印されていた筈の禁書がすり替えられていたことを。
そして今相対している魔核竜が、その禁書によって強化された存在であることを。
勇者一行の戦いの裏で、大きな闇が蠢いていた。
クラシスという名前にアレ?と思った方。よく覚えていてくださいました。実はシャーロットのご先祖様です(※本人にこれ言うと殺されます)。現在のクラシス王国は、大海原の勇者一行の1人であるガダルドの息子によって新たに建国されました。




