勇者一行、魔核竜を討伐する。(1)
魔核竜寝起きなので機嫌が悪いです。
多目的ホールは半円状の施設だ。入口こそ5階にあるが、実際は4階からの吹き抜けの構造になっている。半円の舞台をぐるりと回るように座席が設置されており、入り口から見下ろすと摺鉢のように見えた。
「グギャアアアアッ!」
アレックスが放った剣撃は、魔核竜の片翼を大きく切り裂いた。耳を塞ぎたくなるような呻き声をあげ、魔核竜は体勢を崩す。その隙に詠唱を済ませていたイザベラが、畳み掛けるように魔法を放った。
「覇海流槍!」
イザベラの頭上に現れた水が、渦巻き幾つもの槍の姿と変える。激しい海流のようなうねりをあげ、水の槍は魔核竜を床に磔にするように深々と突き刺さった。
「動きは止めたわよ、シャーロット!」
「感謝する!」
シャーロットは設置されたホール座席の上を八艘飛びが如く駆け抜ける。同時に風と雷の魔力を身に纏い、目にも止まらぬ速さでその足技を魔核竜へと叩き込んだ。
「疾風迅ら……なッ!?」
「ギャオォォォォォ!」
しかし、その攻撃は通らない。シャーロットの鍛え上げられた右脚は、突如魔核竜の頭上に現れた魔法陣に阻まれた。
『反射陣』。相手の魔力を伴う攻撃を受け流し、その力を倍にして返す。シンプルな技だが、相手の力が強ければ強いほどその威力は脅威だった。
「しまっ……」
「精霊之戯!」
魔核竜が張った反射陣が、ノアが召喚した色とりどりの精霊たちによって霧散する。発動にこそ時間がかかるものの、複雑な高難易度の魔法ですら消滅させる精霊の秘術である。魔核竜の頭上に魔素が集中していたことに気付いた彼だからこそ、タイミングを合わせることができた。
攻撃を弾かれたシャーロットはすぐさま追撃の姿勢をとる。だが魔核竜はそれすら見越していたのか、即座に周囲の魔素を吸い込んだ。
「チッ!」
胴を膨らませ、体内で膨大な魔素と魔力を合わさる気配を感じる。その瞬間、シャーロットは悟った。
吐息が来る。
シャーロットは魔力で風の足場を生成し、跳躍して距離を取った。だが……
「(間に合わない!)」
シャーロットが射程から逸れるより早く、竜の息吹が彼女を襲う。咄嗟に魔力で風の障壁を作るが、庇い切れなかった左脚が赤黒く爛れてしまった。
「ぐッ……。」
最早感覚がない左脚を引き摺りながら何とか身を隠すが、翼を失って気が立っているのか吐息が止まる気配はない。ホール内で火が燃え広がらないのは、イザベラが大規模な水系統魔法を使って湿度を上げたからに他ならなかった。
「シャーロットさん、今回復を!」
火傷を負ったシャーロットを癒そうと、光の精霊を呼び出したノアが彼女の元へと向かう。
「精霊之」
「ノア、来るな!」
魔核竜は舞台から降りると階段状に並んだ座席を這うように駆け上がり、シャーロットが隠れた手前を薙ぎ払った。鋭い鉤爪で抉られたシートは宙を舞い、ホールの壁へと叩きつけられる。あの力で引き裂かれれば、一撃で命を落としかねない。左脚を負傷した彼女がその餌食になるのは時間の問題であった。
再び魔核竜が前脚を振り上げたその刹那、
「摩天斬!」
縦の一閃が魔核竜の背中を捉えた。振り返る竜の瞳に映るのは、魔王を討つ為に生まれた今代の勇者。
「背中がお留守だぜ、馬鹿ドラゴン!」
勇者一行の反撃が始まる。
此方側の世界は魔素が薄い為、彼方側よりも魔法の威力が落ちてしまいがちです。もしこの戦いをアレックスたちの世界でやった場合、旧校舎どころか辺り一面が草ひとつ生えない荒地と化していたことでしょう。




