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死んじまえば善人も悪人も等しく屍

「っち。コイツなんにも持ってねえな。ダイスの雑用やらされてたから少しは期待したんだが。」


 バスティーユは自分の後方で息絶えた冒険者の荷物を物色し、悪態をついていた。今日の獲物は三人組の冒険者だけだったのが思わぬ副産物が手に入ったのだ。


「しかしコイツの死体どうしたもんか。ダイスの野郎に見つかると面倒だしな。」


 バスティーユは金級冒険者としてなかなかのキャリアを誇り、金級の中では最上位の冒険者ではあるのだがその途中で自分がどう頑張ってもミスリルに上がることができないことに気づいてしまった。自分の同期の冒険者がミスリルに上がった時は俺もいつかはと奮起した。しかしなかなかうまくいかず後輩たちにも追い抜かれていってしまった。その時バスティーユの中の何かが壊れてしまった。自分を追い抜く恐れのある冒険者を殺せば自分が惨めな思いをすることはなくなるのだと。

 それからバスティーユは有望な新人に森の深いところにいい狩場があると教えては誰にも気づかれることなく殺し、金目の物を奪い生計を立てて来た。魔物をかるよりも人間をかる方が圧倒的に楽なのだ。しかも鉄級とはいえ、遺体をギルドまで持っていけば報奨金が払われる。こんなにうまい話はないと気づいてからバスティーユは人を殺すことに抵抗を感じなくなっていた。


「コイツの遺体を持っていくのはリスクが高すぎるな。残念だが埋めるか。」


 死体は森などの瘴気の濃い場所に捨て置くと、ゾンビになってしまう。ゾンビは特級災害モンスターであり、

 普通の魔物とは危険度が違う。強さはそこまでではないが、人間に感染するのだ。一度パンデミックが起きれば国の崩壊にすらつながる。なんので瘴気の濃い場所で死体を放置することは数少ない冒険者の規定の一つなのだ。


「ぁぁぁああ・・・」


 バスティーユはその音を聞き振り返る。そこには腹に刺された剣を抜き立ち上がろうとする冒険者の姿があった。先ほど事切れる感覚があったのでまだ生きていたという可能性は低いとバスティーユは考える。


「おいおい。ゾンビ化が早すぎるだろうが。死んでも手間かけさせやがる。」


 ゾンビ化する時間には個体差が大きくある。流石に早すぎるとも思ったが現実的に自分の経験に当てはめゾンビ化したと結論づけた。


 それが大きな間違いだと気づくまでにそう時間はかからなかったが。


 ―――――――


 痛え。

 腹に剣ささったままじゃねぇか。そういえば俺最後に刺されたんだっけ。目の前のこいつ名前なんだったっけ。おいおい。流石に遠慮なく俺のカバン漁りすぎだろ。

 あー。だんだん思い出してきた。こいつは確かバスティーユだっけ。全く金級すら信用できないとかしんどい世界だよな。いや。元々人間は偉くたって信用できるわけじゃねえか。


 とりあえず剣を抜くか。


「ぁぁぁああ・・・」


 痛すぎて思わずうめき声が上がる。その声を聞いてバスティーユが振り返った。すぐさま腰の剣を抜き臨戦態勢に入るのはさすがは熟練冒険者だなと感心した。


「おいおい。ゾンビ化が早すぎるだろうが。死んでも手間かけさせやがる。」


 あー。そうかそりゃゾンビだと思うよな。俺も自分のスキルを知らなきゃ人が生き返るなんて考えないもんな。

 さてと。また死ぬのは勘弁だ。それに何より俺だって殺されりゃ腹は立つ。悪いがここで殺させてもらう。

 俺は剣を持ったまま腕をだらりと下げフラフラとした足取りでバスティーユにむかって歩く。


「覚悟はいいか?」


 俺が喋り出した事でバスティーユの顔が引き攣る。実にいい気分だ。


「確かに殺したはず。随分と珍しいスキルじゃないか。しかし、死んだふりしてた方が良かったんじゃないか?いかに自己治癒能力が高くても無駄さ。魔物の中にはお前以上の回復力を持つ生き物もいるのさ!」


 そう言ってバスティーユは剣を振るう。

 先程と同じなら見切れなかっただろう。でも悪いな。師匠程じゃない。いや、比べるのが酷になるだろう。


「見えてんだよ!」


 俺はバスティーユの剣を最小限の動きで避け、通り過ぎざまに腹を切る。

 訓練用の剣だったが今の俺には関係ない。防具とともに人の肉を切る感触が伝わって来た。


「隠してたのか」


 バスティーユは腹を押さえ蹲る。俺がさっきとは全く違う剣筋だったからだろう。


「わざわざ実力隠してまで痛い思いするかよ」

「違いねえ」


 バスティーユは蹲ったまま地面に突っ伏しどんどん息が荒くなっていく。


「散々殺して来たが、こんな気分だったんだな。俺のポーチに鍵が入ってる。アキミチ商店の貸金庫の鍵だ。暗証番号は6854だ。中身は好きに使え。これから上り詰める後輩に選別だ」


 バスティーユから生気が抜けていく。


「ああ。俺も英雄に‥」


 それが最後の言葉だった。俺は初めての人殺しに言いようのない嫌悪感を感じていた。

 意外にも吐くような気持ち悪さを感じず冷静な自分が嫌になる。


「最後までクソ野郎でいてくれよ。後味が悪いじゃんか」


 俺は動かなくなったバスティーユの背中にそう呟やいた。

感想ありがございます。

もう少し頑張ってみようかなと思えました。

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