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その時  作者: 真澄
3/3

クライミングジムで

 「テンションお願いします。」

「おーし、レストしたらクライムダウンで降りて来-い。」

「そんな無理ですよぉ。」

「登ったんだからその逆で降りれるだろうよぉ。早くカラビナからロープ外せ。」

 俺は今、クライミングジムのホールドの点検という名のトレーニングをしている。人口壁についているホールドが緩んでいないか調べるために登って確かめているのだ。そしていま行っているのは、簡単なリードクライミングのルートをロープをカラビナにかけながら登ったと思ったら、その逆で降りてこいとは鬼のような先輩だと思う。

「ギャー、動いた。テンションお願います。」

「だろうぉ。いろんな方向から力を入れてみないとねじが緩んでいるかどうかなんて、わかんないんだよぉ。」そういう先輩の声を聞きながら、ホールドのねじを締めてまたクライムダウンで降りていく。床に足が付いた時には、クタクタだ。

 「小林は昨日、軽井沢研究所から帰って来たんだったなぁ。あそこのトレーニングジムの壁なぁ、俺が設定したんだよ。どうだった。」

「あんな面白い壁があるって知っていたら、専用の靴を持って行ったのに、言ってくださいよ。」

「ああぁ、あれ誰も楽しめるようにって言われたから全部のルートスニーカーでクリアできると思ったんだけど。お前、無理だったか。」

「あんな細かいホールドにスニーカーで立てるのなんて、先輩だけですよ。」

「そんなかなぁ。ところでなぁ、軽井沢の研究所が実は非常事態時のシェルターだって知ってたかぁ。」

「またまた、そうやって後輩を担ぐつもりなんでしょ」

「いや、大学に伝わる噂さ。」そう言って、先輩は話をつづけた。

「俺たちが小学校に上がる前に大きな地震があって、福島の原発が事故って日本中大騒ぎになったそうだ。その頃からOB達の間で核シェルターの建設の話が持ち上がったそうだぞ。その後復興が進んでも、除染は思うように進まなかったそうだし。追い打ちをかけるように隣の国は自分の国は核保有国だってえばりだしたしなぁ。そこで金持ってるOB達が資金を出し合って作ったのが軽井沢の研究所って話だ。このうわさがまことしやかに伝えられるってのには訳があるんだ。あそこの研究所、責任者こそ農学部の学部長だけど、副責任者が数年前に出来たリスクマネジメント学部の学部長なんだぜ。それにだ、農業用水なんか近くの河川から引けばいいものをわざわざ井戸を掘ったって話だ。なにかあった時には飲料用にするんだろうって言われてるよ。温室のガラスには銅がまぜこんであるって噂もあるしなぁ。そもそもなんでわざわざ往復6時間もかかるところに実習用の温室を作る必要があるかってことだ。学校の近くにだってあのくらいの温室つくる位の土地はあるだろうに。軽井沢といえば昔からセレブの別荘地で有名なところだ。いざって時には金出したセレブなOB達が、すぐに避難できるんじゃないかって言われているけどなぁ。」

 俺は先輩が何を話しているのか理解できなかった。噂でもそんな噂があるだろうか。でも、何年も消えない噂なのだ。事実だとしても確かめることは出来ないのだろうけど。

「教授たちはそのことを知っているんですか。」

「聞けば『噂だよ』って答えるだろうさ。研究所に住み込んでいる教授たちは研究が出来れば何でもいいんじゃないか。」

「先輩も、もし何か起こった時にはシェルターに入りたいですか」

「まっさかぁ。日本が放射能だらけになった時には持てるだけの酒持って行って自然の岩の前で、二日酔いなんだか、放射能の影響なのかわからないくらい毎日飲んだくれているさ。岩場に行けるかどうかは分かんねぇけど。お前はどうするんだよ。」

 俺はその時、そうするんだろうか。黙り込んでいる俺に先輩は、

「まぁ、今日明日すぐに原発が事故るとか、隣の国が核爆弾発射するってわけでもないんだかさぁ、そんな顔するな。さぁ、ビレーしてくれ今度は俺が点検で登る番だ。」そう言って、確保器を俺によこした。



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