留学・青春・出会い編 P120~P139
P120
翌日、普通通り学校に来ると、いつもは
遅く来るミチ君が、もう学校に来ていて、
寧子と話をしていた。
「おはよう!」
私が元気よく教室に入ると、2人はスッと離れて、
「おはよう!」
と、元気に返してきた。
私は、
「ねえ、寧子もミチ君も、今日はこんなに早く、
どうしたの?」
とりあえず、聞いてみると、ミチ君は、
「べつに、真面目に勉強しようと思った
だけだよ」
そう答えた。
そしたら、寧子はが、
「フフフ。そーかな?」
って、また意味深な笑い。
そしたら、ミチ君が慌てて、
「なんでもないって。
寧子ちゃん、なんでそんな事言うの!」
って、変に慌てて、寧子バシバシ叩いた。
寧子はそれでも、めげずに、
「ミチさん、そんなこと言って良いのかな?」
そう言いながら、私を手招きした。
私は不思議に思いながら、寧子の方に
行こうとすると、ミチ君が慌てて、寧子の腕を
引っ張って廊下に行ってしまった。
「変なの?」
私は、そう思いながらも、頭のなかはあさひで
一杯で、できるだけあさひと一緒にいたいけど、
どうしたら良いか、そればかり考えていた。
一緒にいたければ、図書館に行けばいいけど、
勉強もできるし、悪いことはないんだけど、
でも、うちに帰るのが遅くなって、H'ファミリーの
パパに怒られるのは、嫌だし。
それ以外では、寧子達と一緒だから、単独行動は
出来ないし、けっこう八方塞がりって感じだな。
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いよいよ、明日が金曜日。
金曜の授業が終わってから、出発。
道は簡単で初めWA-26Wを通ってから、
I-90Wに乗れば、あとは一直線。
途中、ロッキー山脈越えがあるけど、
日本のような細かな峠道とは違って、
そんなに苦じゃない。
お昼休みにカフェで、とりあえず、
誰が度の車に乗るか話していたら、
ミチ君が、
「女の子は2人なんだから、紗希ちゃんが
俺の車で、寧子ちゃんがしんのすけの
車に乗ればいいよね?」
そう言った。
ま、あさひの車は誰も乗らないのが、
ミチ君の中では規定だと言うのは、
最初からわかっていたことだけど。
そしたら、寧子が
「紗季はAshの車に乗りなよ!」
「え!そりゃないんじゃね?
だって昨日・・・」
ミチ君が慌てて否定した。
寧子はそんなミチ君の態度は、まったく
無視で、
「はい、じゃ決まりね!」
あっさり締めてしまった。
面食らったのは、ミチ君。
その後、寧子の腕を引っ張って、
どっか行った。
私が、気にして2人が消えた方を
見ていると、10分位してから、
がっくり肩を落としたミチ君と、
そりゃもう、とても楽しそうな寧子が
戻ってきた。
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その場は、それで解散して、教室に戻る
途中寧子が、
「なにがあったか知りたい?」
そう、おっさん顔で聞いてきた。
私は、寧子のおっさん顔を見る時は、
だいたい良いことではないから、
「いや、めんどくさそうだから
知らなくて良いよ」
そう言って断った。
けど、それで止まる寧子じゃないのは
良く知ってる。
「じゃあ、教えてあげる」
そう言って、話し始めた。
「ミチさんと私が、昨日の朝話してたの
知ってるでしょ?
あの時ね、ミチさんが自分の車に紗季を
乗せるように頼んできたんだよ」
〈ああ、あの朝の話は、そーゆーことか〉
納得。
寧子は続けて、
「だから、その時は『OK!』って言った
んだよ」
「でも、OKしたのに、なんでさっきは、
ミチ君に駄目出ししたの?」
私は、律儀な寧子にしては、珍しいと
思って聞いた。
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「だって、紗季が度の車に乗りたいか、
わかってるし、紗季がミチさんの車に
乗ったら、Ashの車には誰も乗らないで
しょ?」
〈確かに!〉
寧子は性格が、男前なだけに、繊細さに欠ける
とこがあって、人が隠しておきたいところも、
ドバっとぶちまけちゃったりするけど、本当は
人の気持ちに、人一倍敏感で、優しい子なんだよね。
「だから、一番丸く収まる方法を取った
だけだよ。
それに、私は裏工作みたいの嫌いだしね」
「さすが!寧子!」
私は、心から感心した。
「やっぱり寧子は親友だよ」
そう言ったあと寧子を見ると、
たっぷり日を受けて健康そうなトマトのように、
照れて真っ赤な、とても男前とは思えない
寧子がそこにいた。
「うるさいなー、そんな事はどうでもいいんだよ」
照れ隠しに、やっ気になってる、寧子は本当に
可愛い。
「じゃあ、私がAshの助手席ね」
「バカじゃないの?何度も言ってるでしょ?
いくら嬉しいからって、何度も確認しなくて
良いって」
私の嬉しい気持ちが、伝わったみたいで、
寧子も満面の笑みで、喜んでくれてる。
それが、嬉しかった。
〈いよいよ明日、あさひとロングドライブだ!
今夜は眠れないかもしれないな〉
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金曜日の朝。
今日はなんだか落ち着いてる。
いつものように、週末にパーティーや
お出かけが控えていると、なんだか気持ちが
浮足立って、勉強どころじゃないんだけど、
今回に限っては、そんなこともなく、
不思議なくらい、落ち着いて勉強に集中出来てる
自分がここにいた。
ふと、そんな自分に疑問を感じて、
〈なんでだろう?〉
そう、自問自答した。
もちろん、今夜出発のシアトル行きは、とても
楽しみ。
まして、あさひとロングドライブ。
これは何度も夢に見た光景。
嬉しくないはずはない。
それはわかる。
でも、私の心の中では、釈然としない何かが
くすぶっていて、それは私が、普段意識しない
心の深い部分に黒い霧に包まれて
存在していた。
それが何なのか、いまの私には、
理解することは、出来なかった。
それでも、勉強に集中できることは、
とても良いことで、おかげで過去最高に
授業の内容が理解できた。
それは、まるで真夏の抜けるような
青空のように、空気はどこまでも澄み渡り、
宇宙の彼方まで見渡せるような爽快感を
感じた。
〈もしかして私って、出来る女だったのかも!〉
そう思うと、今すぐにでも大学の授業を受け
たくなった。
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お昼休み、恒例のカフェでの話し合いで、
今日の具体的な話を決めた。
って言っても、車の割り振りは決まって
いるから、集合時間とか、出発時間とか、
特に目新しくないことばかり。
でも、一つだけ違ったのは、
横にあさひがいた事。
普段なら、他の国からの留学生の
グループと一緒にお昼ごはんを食べて
るけど、今日ばかりは、私達”シアトル
でお寿司派”に所属。
なんで、私達と一緒にいるわけで、
しかも、私の隣に座ってるわけ。
寧子が小声で、
「なにニヤニヤしてんのよ?」
って、言いながら、人差し指で
私の脇腹を、ツンツン!
「やめてよ!そこ弱いんだから!」
「わかってますよ。
君は、そんなに嬉しいのかね?」
寧子が、校長先生のマネをしながら、
さらにツンツン。
耐え切れずに、体をよじって、
寧子から逃げると、ミチ君が、
「そこ!真面目に話してんだから、
遊ばない!」
怒られた。
2人は顔を見合わせて、
ニッコリ。
だって、嬉しいものはしょうが無い
じゃない?
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あさひの方を振り向くと、退屈そうに、
目の前にある、図書館の方を見ていた。
そしたら、急に笑顔で手を振るから、
私も、あさひと同じ方を見ると、そこには、
ミキちゃんが手を降っていた。
私は少し気持ちがグレーに曇ったけど、
とにかく今夜は、あさひとドライブだからと、
自分に言い聞かせた。
授業も終わり、みんなそれぞれ夜の準備に
家に帰ると、私と寧子とあさひだけになった。
あさひに、
「準備に家に帰るの?」
そう聞くと、
「帰るけど、図書館行ってからね」
との事。
寧子が、
「えー、あと2,3時間で出発なのに、
まだ勉強すんの?」
そう言ったけど、
「だから勉強すんの。
明日、は勉強できないでしょ?
もしかしたら、明後日も無理かも
だからだよ」
そう言って笑った。
「なんか、そこまでしなくても
いいんじゃない?」
私がそう聞くと、
「かもしれないけど、勉強好きだからね」
寧子が、
「変わってる!私なんか、30分も動かず
座っていたくないのに!」
「私もだよ!」
そしたら、あさひは、
「でも早く大学に入りたいからね」
そう言って笑いながら、
図書館に向かって歩き出した。
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寧子が、
「まあ、Ashのアパートは歩いて5分だから、
みんなが集合する時間に、図書館出ても、
間に合うか」
そう言った。
私も同感で、
「男は、持ち物も大してないだろうし、
準備だって簡単だもんね」
って、2人で納得。
私達は、早く帰って、荷物をパッキング
しなくちゃいけないから、帰ることにした。
そしたら、寧子がでっかい声で、
「Ash!紗季をホストに迎えに行って?」
叫んだ。
そしたら、あさひが振り返って、
「わかった。何時?
10時半くらい?」
「そう、そんなもんでいいよ」
それを聞くとあさひは、手を上げて、
図書館に吸い込まれていった。
「ほんとにバカが付くほど、真面目だね」
寧子が言ったけど、私も同感。
でも、付き合うなら、真面目が一番だよね。
飲む、打つ、買う、なんて三拍子揃ったら、
絶対にやめられないのは、よく聞く話。
人間なんて、「心を入れ替えて」って
簡単に言うけど、人が変わることは本当に
難しい。
私だって経験あるからね。
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いつもの様に、ホストのパパの迎えで
家に帰って、パッキングしてると、パパ
が、
“Hey, Saki, Your friend came to pick.”
って、呼びに来た。
「あれ?まだ9時なのに、もうあさひが
迎えに来たのかな?
早いな~!」
と思って、急いで玄関に歩いて行った。
ドアを開けると、そこに立ってたのは、
なんと、すっごい笑顔のミチ君だった。
「支度出来た?」
そう聞かれたけど、まだ途中だったんで、
「まだだよ。それに10時半にAshが迎えに
来る予定になってるんだけど?」
私がそう言うと、ミチ君いきなり顔が
グレーに曇った。
「紗希ちゃんさ、俺の車で行かないか?」
そう言うと、助手席のドアを開けた。
中には、お菓子がいっぱい入ってて、
なんだか、太りそうな感じ。
「ちゃんと、お気に入りのテープも用意
したし」
「それって、ミチ君のお気に入りでしょ?
私のお気に入り知らないでしょ?」
そう言うと、
「いや、紗希ちゃんだって、絶対
気にいるって!」
そう、ミチ君が言い張る。
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「じゃあ、Paula Abdulとか、
Milli Vanilliとか、BLACK
Dance Musicある?」
「え!、紗希ちゃんそんなの聞くの?
サザンとかにしなよ!」
〈はー、これ寧子から聞いたな〉
私が、茅ヶ崎が地元って言うと、みんな
これだもの、うんざり。
「ミチ君ね、確かに私は茅ヶ崎が地元だけど、
サザンだって嫌いじゃないし聞くけど、
ほんとに好きなのは、Danceなの。
クラブだって、アホみたいに通って
たんだから」
「え!うそ!マジ!不良じゃん」
「クラブ行ったからって、不良って、
いつの時代の話よ!
私は、Danceが好きなの!」
「あー、そかー。
わかった。
もう、誘わないよ」
「だいたいね、晴美がいた時は、晴美ちゃん
さすが!とか言ってって、晴美がいなくなった
からって、いきなり私のとこに来ないでよ!」
「う!」
それきり、ミチは黙りこんで、いじけ始めた。
〈あー、これだから男って・・・〉
「そういう訳じゃないんだよ。
だからさ・・・」
「とか言って、結局やりたいだけなんじゃ
ないの?」
この際だから、一気にまくし立てた。
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「そ、そんな事無いよ!
ほんと、そんな事ない!」
ミチは、慌てて否定したけど、
「なんだ、残念。
せっかく迎えに来てくれたから、
あさひが来るまで、キスでもしようかな?
って、思ったんだけどな」
私がそう言うと、
「マジ!やった!」
そう言って、ズボンを脱ぎながら、
先に車へ乗り込んだ。
「やっぱり!アホなミチ!
どこにキスすると思ったの?
そんな事するわけ無いでしょ!」
あまりに呆れたんで、そう言って家に入った。
ミチは、大慌てで私を引き留めようとしたけど、
脱ぎかけのズボンが邪魔で、うまく車から
降りられず、バタバタしていたけど、
私が、家に入ってしばらくしたら、
車のエンジンの音が遠ざかって行った。
「はぁー、呆れて物が言えない!」
それが正直な感想。
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それからしばらくして、パッキングが
終わった頃に、今度はホストのママが、
“Saki, came friends, probably there is an Asahi?”
そう言って、ニコニコしながら私の部屋に
入ってきた。
いつもママにあさひの事を話してたから、
ママもあさひに興味があったみたいで、
初めてあさひと会って、少し立ち話したみたいで、
かなり気に入っていた。
ま、初めに会ったのがミチで、しかも
ミチは英語が苦手なんで、うまく話せな
かったらしくて、ママの印象はいまいち。
でも、あさひは普通に英語で話せて、
気遣いができるやつだったみたいで、
ママは、
「今度遊びに連れて来なさい?」
だって。
なんだか親って、万国共通なのかな?
玄関があるリビングに行くと、そこであさひは
コーヒーを飲みながら、パパと話していた。
パパは車好きで、あさひの車X1/9の事について
根掘り葉掘り聞いていた。
私がリビングに行くと、あさひが立ち上がって、
”Nice meeting you.”
そう言って、パパと握手をした。
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パパは
「彼は、礼儀正しい青年だね。
是非また呼んであげなさい!」
だって。
なんと、私のホストのパパとママには、
素晴らしい評価。
私も、自分の事のように、すごく嬉しかった。
〈やっぱりあさひは凄いなー〉
私は、ほんとに嬉しくって、とっても
幸せな気分になった。
それから、荷物を車に詰めて、いざ出発。
パパとママに見送られて、ホストを後にした。
「本当に良いホストだね!」
あさひが褒めてくれると、私も嬉しい。
「そうでしょ?だから学校から遠いけど、
他のホストに移りたくないのよ」
そう言った。
集合場所の、あさひのアパートの前にある、
病院職員の駐車場には、ミチと寧子以外の
全員としんのすけの車が待っていた。
「あれ、ミチと寧子は?」
私がそう聞くと、しんのすけが、
「さっきまでいたけど、ミチ君が急に
『寧子ちゃん、迎えに行ってくる』
って言いながら行ったきり、帰って
こないんだよ」
そう言った。
〈あー、またミチが寧子にくだらない相談
してるんだな。
ほんとに、ミチはアホだよね。
いくらなんだって、これから出発って時に、
わけの分かんないことやるんだから。
救いようがないわ〉
そうは思ったけど、もう出発時間だし、
これから寧子ん家に迎えに行って、
すれ違っても、めんどいから、もう少し
待ってみることにした。
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どうだろう、それから10分位したら、
やっと2人で登場した。
「やあ、やあ、みなさんおまたせ!」
そう、にこやかに言いながら、はじめに
ミチが車から降りてきて、次に助手席の、
ドアを開けると、寧子が登場。
寧子になんで遅くなったか聞いてみると、
「ミチさんが、アホなだけ。
あんたなら大体分かるでしょ?」
そう言った。
〈あ、やっぱり〉
私が、
「ミチはズボン脱いだ?」
って、聞いたら、
「私んとこには、あんたのこと相談に来たんだよ!」
〈ああ、ズボン脱いだのは私だけか〉
そう、理解した。
寧子は、私に小声で
「めんどくさいから、ミチさんの話は、
これでおしまいね!」
そう言って、みんなに
「さ、出発しよう!」
って、言いながら、車に乗り込んだ。
それを聞いてみんなも、予定の車に乗って、
やっと出発!
時間はもう、11時過ぎてた。
「出んのおせーな。
夜は危ないから、できるだけ早めに
出たかたんだけどな」
あさひがそう言ったものの、
いまさらねー。
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先頭はミチ。
真ん中がしんのすけで、最後があさひ。
アメリカの道は、街灯なんかまったく無くて、
たとえ、そこがインターステート・ハイウェイ
だったとしても、車のライトに照らされた先
だけが明るい。
だから、前も後ろも、右も左も、真っ暗な闇。
そんな、真っ暗な闇を走っていると、今、自分が
走っているのか、止まっているのか、
それさえもわからなくなる。
ただ、エンジンの音と、下から聞こえる、
タイヤの音だけが、走っている実感として、
感じられるだけ。
ほんとに世界が滅んで、私とあさひだけが
生き残った、まるでSFの世界のよう。
そしたら、あさひが、
「道はほとんど真っ直ぐだから、間違えようは
ないけど、単調なだけに、疲労が感じられなくて、
危ないんだよな」
「Ashは運転慣れてるの?」
「俺は日本で趣味でレースやってたから、
嫌になるほど車走らせてたよ。
それ以外でも、毎日峠に行って、ひたすら
走り回ってた」
「へー意外。それなら、こっちに来てからすぐに
車乗りたいと思わなかったの?」
「車は、単なる道具だから、必要なければ、
乗らないよ。貧乏で、お金も無かったしね」
「でも、車がないと、食事には困ったでしょ?」
「あー、あれは困ったんで、さすがに車買ったよね。
まあ、買ってしまえばこっちはガソリン安いし、
毎日乗るけどね」
そんな話をしながら、時計を見ると、もう
午前1時を過ぎていた。
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「そろそろ、出発して2時間超えたから、
一回様子見に、休憩したほうが良いんだけどな」
あさひが、そう言ったものの、道路は相変わらず、
真っ暗。
出発してから二時間以上経ったけど、
ただの1台もすれ違う車はなく、
日本だったら嫌ってほど目にする、コンビニ
もなく、高速に付き物のサービスエリア
もゼロ。
ひたすら真っ暗闇の中を突き進む、
まるで地獄へのドライブのようだった。
そしたら、あさひが前を走っている、
しんのすけの車に、ピカピカって、
パッシングをした。
でも、疲れているのか、前しか見てない
からか、それに気がつくこともなく、
前の2台は、ひたすら走り続ける。
「まあ、3時間くらいは大丈夫かな」
あさひは、そうつぶやきながら、カーステに
カセットを入れた。
次の瞬間、聞こえた音楽は、Heavy Metal。
いきなりがっつり、ハードなギターが流れ始めた。
「なにこれ、ヘビメタ?」
私が聞くと、
「違うよ、Heavy Metalだよ」
「え?だからヘビメタでしょ?」
「・・・。
まあ、いいけど」
どうやら、ヘビメタじゃなくて、
ヘビー・メタルじゃないといけないみたい。
変てこなこだわりだよね?
「これはDOKKEN、George Lynchのギター、
めっちゃカッコイイ!」
〈し、知らない!〉
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私は内心焦った!
何しろ日本でヘビメタは革ジャンロン毛の、
印象最悪。
なんだか、ギター抱えて自己陶酔してる姿が
笑えるんだもの。
もちろん私は嫌いだった。
とは言え、私の好きなあさひが、私の嫌いな
ヘビメタ好きなんて!
「俺、こっちでギター教えてるんだ」
「え!ギターの先生なの?」
「ってか、アメリカンの友達がギター弾いてる
けど、うまくならないから、教えろ?
って、言い出したんで、それ以来口コミで
生徒が増えた。
今は、3人くらいかな?」
そう言えば、あさひのアパートに、
エレキギターが置いてあった!
そういう事だったのか!
でも、困った。
あさひが好きなんだから、
ちょっと我慢して聞いてみないと。
それからしばらくヘビメタ聞いてた。
あさひによると、DOKKEN、MSG、Ratt、
White Lion。
ダメだった。
まあ、慣れてきたけど、それだけ。
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いよいよ、耐えられなくなったんで、
あさひにテープを変えてもらおうと思ったら
「さすがに休憩しないとまずいな」
前を指差しながら、そう、あさひが言った。
あさひが指差す方を見ると、しんのすけの
車が、ゆらゆら左右に揺れていた。
次の瞬間、あさひが一気にアクセルを踏んで、
しんのすけとミチの車を追い越して、一番前に
出た。
あさひが一番前に出ると、そのままゆっくり
減速して、道の端に止まる。
そのまま車から降りて、ミチの車の方へ行くと
「けっこう走ったから、ちょっと休憩しよう」
そう言って、しんのすけの車にも同じことを
言いに行った。
「寧子ちゃん、トイレは?」
あさひが、そう聞くと寧子は、
「こんな真っ暗で、どこにトイレあんの?」
ちょっと怒り気味に寧子が言った。
「ま、トイレはないけど、真っ暗だから」
さらりとあさひは言ったけど、女の子は、
そんな真っ暗闇で、トイレは出来ません。
なにが出てくるか、わからないでしょ?
恐いよ。
ってか、アメリカでは公衆トイレに、
おばさんとかが立ってて、お金を取る
代わりに、自分で焼いた(たぶん)クッキー
くれたりする。
どうやら、そのおばさんが公衆トイレを
清掃してるらしく、そういうところは、
綺麗で、かなり安全。
じゃない、街なかの公衆トイレは、
特に女子の個室は危なくて、とても
じゃないけど、入れないよ。
そしたら、寧子が、
「まだ平気。
我慢出来るよ!
紗季はどう?」
「私も、まだ平気」
そしたらしんのすけが、
「次コンビニあったら、
止まるからね」
そう言ってくれた。
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そんなやり取りの最中、ミチが、
「こえー!真っ暗で自分がどこにいるか、
まったくわかんない!」
そう言いながら、暗闇から車のライト
の所に、戻ってきた。
寧子が、どこに言ってたか聞くと、
当たり前のように、
「ションベン」
そう、立ちション。
当然寧子は、
「バカ!自分だけでいいのか?」
って怒ったら、
「じゃ、寧子ちゃんもしたら?
怖かったら、俺が一緒に行ってあげるよ?」
真顔で言った。
ミチはそういう奴。
もちろん、寧子は呆れて、
「はぁー、もういい!早く行こ!」
そう言いながら車に乗った。
そしたらあさひが、
「今度は俺が先頭になるから」
そう言って、車に乗り込み、出発。
私も、さっきのやり取りを思い出し、
「ミチは悪い人じゃないんだけど、
いまいち、人の気持ちがわからない
とこあるんだよねー」
そう言った。
それを聞いてあさひは、
「へー、そうなんだ。
俺はあんま知らないからな。
でもミチが言うのも、間違ってはいない
からね。
最悪、調子を崩す前に、トイレじゃ
なくてもしかたないから、出しといた方が
いいかな」
確かにね。
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そりゃそうだけどね。
あの時トイレしたのは、ミチだけだしね。
でも、それからシアトルに着くまで
明るいトイレやコンビニはなく、道端に
車を停めて休憩しただけで、夜が明ける頃
には、街に着いていた。
幸いなことに、私も寧子も、暗闇で用を
たすこと無く、漏らすこと無く、調子も崩さず、
無事、到着できた。
「はー、やっと着いたねー」
早朝、24時間やってるサークルKを見つけて、
みんなでトイレと軽食。
ミチが、
「寧子ちゃんと紗希ちゃんは、トイレ
あんまり行かないの?」
そう聞いてきた。
そりゃね、休憩するたび、立ちション
していたミチにはわからないだろうけど、
基本的に女の子は、トイレは近いの。
でも、今回はどうなるかわからないから、
なるべく飲み物控えたり、気を使ってたの。
これだからミチは。
そしたらあさひが、
「ま、トイレの事もあるし、帰りはできる
だけ明るいうちに、出発しよう」
そう言った。
やっぱり、あさひは優しいな。
そして、24時間やってるモーテル探して、
チェックイン。
ああ、モーテルって言っても、一般的な、
そう、日本だとビジネスホテルね。
それから、みんなで軽く仮眠してから、
いよいよお寿司屋さんへ。




