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母と妻と女の狭間で・・・   作者: 透明ゆき
6/7

留学・青春・出会い編 P100-P119

 ヤマさんが、出発して私達は一回学校に戻った。

みんなにヤマさんの事を話すと、


「いいな~、俺らも旅行行きたいねー」


 って、みんなが言い出した。

もちろん、私も旅行には行きたかったけど、

それよりも、あさひがアパートで一人になる方が、

気になっていた。


 私があさひの事を考えてるうちに、みんなは、


「じゃ、シアトルにお寿司食べに行こうか?」


そんな話になっていた。


 シアトルまでは、車で5~6時間。

最低でも2,3日は時間がないと、ゆっくり出来ない。

ま、ちょっとした旅行だよね。


「じゃあ、来週の週末に行こうよ!」


 寧子の一言で、シアトル行きが決定!

 車は今のところ、ミチ君の1台で5人。

でも、5人じゃ乗り切れないから、

あと、2台位は欲しいよね。


 そしたら、ミチ君が、


「先月来た、しんのすけが車持ってる!」


そう言い出した。


 寧子が、


「しんのすけって、あの背の高い子?」


寧子は知ってたみたい。


「そう、明日しんのすけに聞いてみる」


 話はトントン拍子に、決まっていって、

とりあえず、車2台と、8人で出発できそう。


 でも、私はどうしてもあさひが誘いたくて、

寧子にそう言った。


 そしたら、寧子が、


「じゃあ、今から誘いに行こう!」


 さすが、寧子。

まったく悩まず、一直線。

いきなり、図書館に向かって歩き出した。


P101


 私は、そうなると思ってたけど、

それは、嬉しいことだけど、

いきなり、シアトルに行こう!なんて、

無理に決まってると思った。


 だいたい、ごはんが嫌いで、日本食にも

とくに執着してないって、聞いてるから、

私も、誘いたかったけど、断られるのが怖くて、

あさひを誘うことが出来なかった。


 図書館に着くと、寧子はあさひを探し始めた。

でも、寧子にはあさひが見つからず、


「いないな、今日は来ないのかな?」


と、言った。


 私は、あさひの定位置、図書館の奥のおく、

この前見た、外から見えない、

隠れ家的な場所へ歩いて行った。


いた!


 寧子では、見つけられなかったのに、

私には、わかっていたことが、すこし

優越感。


 寧子は、


「さすが!愛する人の事は、何でも知ってるね」


言いながら、ニヤニヤ。


 でも、寧子は止まらずに、歩いて行って、


「来週末、シアトルにお寿司食べに

行くんだけど、一緒に行かない?」


いきなり、直球。

 

 私は、あさひは、絶対行かないよ!

そう思っていた。


P102


 でも、予想に反して、


「行ってもいいよ」


 これには、私もびっくり!

思わず、


「なんで?日本食には興味ないでしょ?」


 そう聞くと、


「まあ、お寿司は高いし、興味ないけど、

今日車取りに行くから、ドライブには

ちょうどいいから」


 え!ちょっと待って!

私が知らない情報が頭のなかで錯綜していて、

なんだか、訳がわからなくなった。


 でも、寧子は、


「おー良かった!じゃ、OKね?

これで、人と車が確保出来たっと!」


 上機嫌で帰ろうとするから、


「寧子、ちょっと待って!

Ash車買ったの?」


 私が聞くと、


「買った。今日納車。ってか、これから取りに行く」


 そう、あさひが言った。

そしたら、寧子が、


「そうなんだ、じゃあ、紗季も一緒に行けば?」


 また、お節介おばさんが、余計な一言を言ってくれた。

私は、あまりに厚かましいと思ったから、


「いいよ、今日は帰るよ」


そう言うと、あさひが、


「いや、よければ一緒に行こうか?

ただし、歩いて30分かかるけどね」


そう言った。


 私的には、30分以上もあさひと話が出来て、

しかも、あさひの車の最初の人になれるなら、

どんなに困難な事が待っていても、ぜんぜん構わない。

そう思った。


「じゃあ、一緒に行くよ」


そう言って、寧子に手を降った。


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 あさひは、前を歩いている。

私は、少し後ろからついていく。


 そんな普通のことが、とても嬉しかった。


「ねえ、車って何買ったの?

新車?」


 私が聞くと、


「そんな、どっかの日本人じゃないんだから、

新車なんて買えないよ!」


 驚くような表情で、私に言った。

新車を買ったのは、ミチ君。


 アメリカは、車がないと動けない事を、

親に行ったら、すぐにOKが出て、

中古車じゃ心配だから、新車を買うように

言われたんだって。


 あさひが、


「俺が車買った中古車屋のおっさんが、

隣のFORDの新車ディーラーで、

ふらっと来た日本人が、値切りもせず、

定価で車買って、儲かったって言ってたけど、

おまえは中古車買って、しかもなんで値切るんだ?

って、言われたよ」


「え、そうなの?」


「ほんとだよ。

だから、俺は貧乏だから、いくらでも値切る!

って、威張ったら、おっさんが笑いながら、

気に入った、端数を切ってやる。

って、500ドル切って、2000ドルに

してくれたよ」


 続けて、

「おまえは、日本人じゃなく、

アメリカ人みたいだな。

 日本人が増えてから、物価が上がって、

困るんだ。」


 そう言ってたよ。


「ちなみに、アメリカで中古車を買う時は、

試乗に出てすぐに車屋に持ち込んで、

どこか悪いところはないか、チェックして貰って、

チェックシートを持って、車屋で値切るのが、

普通なんだって。

 チェックシート作るのに工賃とられるけど、

後で壊れるよりはマシだからね」


「へ~、詳しいね」


P104


 私は、あさひがアメリカにすっかり溶け込んで

いることに、かなり驚いた。


 それから、どうやらあさひは車が好きらしいんで、

また少し、あさひの事がわかって嬉しかった。


 あさひは、


「ここじゃわからないことは、

しっかり聞かないと後で大変な事になるかも

しれないから、言葉を話すことはとても、

重要なんだ。

 ま、俺は日本でレースやってたから、

車にはかなり詳しいけどね」


 それって、自慢?

しかも、お説教みたいに言った後で?

なんか、感じわる。


 でも、私が思ってたより、無口じゃなくて、

ってか、むしろ、おしゃべりが好きで、

話しだしたら、止まらないって事が、おかしかった。


 そんな、感じだから、30分歩いたはずなのに、

気が付けば、アッと言う間に、中古車さんに、

着いていた。


「お、来たな!貧乏な日本人!」


 そう言って、あさひをハグした。

それを見たら、確かに、そのバカでかいおじさんに

あさひが好かれていることが、良くわかた。


 それから、私の方を見て、


「なんだ、奥さんがいるから、貧乏なのか?」


って、明るく笑いながら言った。


 あさひは、慌てて


「違う!友達だ!」


 強力に否定するから、ちょっとムッとした。

そりゃ、奥さんでも、彼女でもないけど、

あとで、彼女になる予定なんだから。


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 あさひは、おじさんに鍵を受け取ると、

”Thanks a lot.”

そう言って、車に乗り込んだ。


 私も、そのまま助手席に乗ったけど、

さっき、どんな車?の私の質問に、あさひが答えて

ないことに気がついた。


「ねえ、これなんて言うの?」


そう聞くと、あさひは短く、


「Fiat X1/9」


とだけ、答えた。


 

「ねえ、この車狭いんだけど」


 そう私が言うと、


「そりゃそうだよ。

これは、2シーターだから」


 そうあさひが、答えた。

私は車に詳しくわ無かったから、2シーターなんて

知らなかったし、なんか小さくて、オレンジで、

可愛い車だな、って思った。


「ふ~ん」


 私は、それだけ答えて、あさひが運転する、

この車に乗った初めての人ってことが、とても

嬉しかった。


P106


 帰りの車の中で、あさひと話をしてたら、

あの、Int’l studentパーティーの話になった。


「ああ、そう言えば、

この前のInt’l studentパーティーに

晴美を誘ったんだけど、

用事があるとかって、来なかったんだ」


「結局あれが、晴美がいた時の、

最後のInt’l studentパーティーになっちゃった」


そう私が言った。


 もちろん、晴美とあさひが一緒にいたことは、

確信してたから、2人がどんな関係だったか、

知りたかったから。


 そしたらあさひが、


「ああ、あの時ね」


 そう言って、黙りこんだ。

わたしは、それまでのおしゃべりなあさひに

慣れてたから、いきなり元の無口なあさひに

戻るとは思っていなかった。


 私は慌てて、


「今度のシアトル行きの時、私がこの車に

乗ってもいい?」


 そう言って、話題を変えた。


「まあ、いいけど、地図は読めんの?」


 あさひが、妙に現実的な質問をした。


「読めるけど?」


 そう答えると、あさひはいきなり、

鞄の中から、地図を取り出して、


「今どこ?」


 そう聞きながら、私に地図を手渡した。


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 もちろん、私だって地図は読める。

小学校の社会の時間には、読めたはず。


 私は、地図を受け取って、周りの標識と、

地図を見比べた。


 けど、私が地図を見ながら指差すところは、

すべて、間違っていて、結局あさひは、


「わかった。

まあ、いいや。

努力は認めるよ」


 そう言うと軽く笑いながら、

地図をしまった。


「そんなこと言っても・・・」


 なんだか地図を理解できなかったことより、

あさひの自分に向けた笑い顔のほうが、

気になって、少し嬉しかった。


 あさひのアパートに帰ってくると、

そこには、ミチ君と寧子が待っていた。


 「お、なんだ二人乗りか!

使えねーな」


 ミチ君が、いきなりそう言うと、

あさひは、


「あそ」


 と、一言。


 なんとなく雰囲気が悪くなりそうな瞬間、

寧子が、


「これで、揃ったね」


 って言いながら、ふたりをバンバン叩いた。

ミチ君は、


「寧子ちゃん、痛いよ!」


 って、逃げたけど、あさひはされるがまま。

不思議そうに、寧子を見ていた。


 それに寧子が気が付いて、


「あ、ごめん」


 と、謝ったが、あさひは、


「別に」


 そう言って、笑った。

そしたら、いきなり寧子が、


「かわいい!」


 そう叫んだ。


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 そう、普段のあさひはいつも眉間に

シワを寄せているけど、少しでも

笑うと、エクボが出来て可愛いい。


 そしたら、ミチ君が、


「俺だって、笑うとかわいいんだ!」


 そう言って、笑ったけど、私と寧子は、

無視した。


 そしたら、それを可哀想だと思ったのか、

あさひが、


「馬が笑ったみたいで、かわいいよ」


 そう言った。

私と、寧子は、顔を見合わせて、


「Ashでも、そんな事言うんだ!」


 そう言いながら、笑い出した。

それでやっと、その場が和んで、

シアトルに向けて、出発できる雰囲気になった。


 二人と別れて、寧子と学校に戻る途中、

さっきの、あさひとミチ君のやり取りを

話していて、2人の共通意見が、


「男ってめんどくさいね」


 だった。

 普通、女同士だったら、ほとんど

初対面の2人が、あんなに雰囲気悪く

なるなんて、ありえないのに。


 私達は、いきなりミチ君が、


「使えねー」


なんて言うとは思わなかったから、

本当に驚いた。


 あさひだって、車を受け取ったばかりで、

あの時の顔を思い出すと、相当うれしかった

事がわかったから、それなのに、いきなり

不満を言われたら、それはムッとするのも、

わかるよね。


 寧子もそれは同意見で、なんでミチ君が

あんなことを言ったのかが、分からなかった。


その後もしばらく寧子と2人で話したけど、

結局、理由はわからず、


「男ってプライド高いから、

どっちが一番か、優劣つけたがるのかな?」


 って、結論。

男って子供だよね、

ほんっとに、わかんない。


P109


 シアトル行きが具体的に決まると、

嬉しくって、授業どころじゃない!


 毎日、授業の合間に、放課後に、

みんなで集まって、旅行プランを立てるのが、

楽しくて、いつもみんなでわいわい、がやがや。


 でも、そんな時でもあさひはいなくて、

それをよく思ってないのが、まるわかりの、

ミチ君がいた。


「な?Ashは自分のことしか考えないから、

みんなでプラン決める時も、来ないだろ?

 どうせあいつの車は2人しか乗れないんだから、

今回は、外せばいいんじゃないかな?」


 ミチ君は、いつもそう言って、あさひを

外そうって、言っていた。


 他のみんなは、あさひ本人の事も、

あの時のいきさつも、あんまり知らないから、

ミチ君言ってるような突っ込んだ話に、

答えようもなく、

ただ、あさひと、ミチ君の間で、何か

あったんだろうな?ぐらいしか、考えて

ないみたいだった。


 ま、みんなもどちらかと言うと、

殆ど知らないあさひを参加させること

に関しては、少し不安があるみたいだったけど。



 そんな時、いつものようにみんなと、

カフェで話をしていたら、ちょうどそこへ、

ケンジが通りかかった。


「あ、紗希ちゃん!

 Ashのこと知ってる?

昨日、図書館に来なかったから、

アパート行ったら、熱出して寝てたよ!」


「え!それほんと?」


私はそれを聞いた瞬間、

もうみんなと一緒にいることも忘れて、

慌てて、あさひのアパートへ向かった。


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 あさひのアパートに来てみると、

鍵が開いてた。

 そーっと中に入ってみると、

2つあるベッドルームのうち、

あさひの部屋が5センチ位開いてて、

中でラジオが鳴っていた。


「こんにちは」


 そう言って、そっと中にはいってみると、

ほんとにあさひが軽い寝息を立てていた。


 「ほんとに寝てる!」


 私は、いったんあさひのアパートを出て、

近くのドラッグストアーで軽い食事と、

風邪薬を買い、すぐにあさひのアパートに

引き返した。


 

 あさひのアパートに戻ってみると、

さっきまで閉まっていた、アパートの

扉が開いていて、中から話し声が聞こえた。


 私が、中にはいってみると、寧子達みんなが、

中のダイニングで話していた。

 あさひの部屋の扉も開いていて、中には

寧子とミチ君がいた。

 私が中に入ると、あさひは起きていて、

寧子と話をしていた。


 さっきまで、キラキラと太陽が降り注ぎ、

うっすらモヤがかかっている中で、

天使が浮かんでいるように見えたぐらい、

すっごく綺麗な雰囲気だったのに、

 今では、ただ、熱を出して病人が

寝ている、空気が淀んだ空間に

変わってしまっていた。


 私はがっかりして、思わずため息をついた。

そのため息で、寧子が私に気が付いて、


「あ、何買ってきたの?」


聞くから、


「風邪薬と軽食」


そう答えると、


「食事は、私がおかゆを作ったから」


そう言って、寧子が半身を起こしたあさひに

おかゆを手渡していた。


P111


 あさひはおかゆが入ったボールを手に

持ってはいたものの、あまり食欲がない

様子で、おかゆを口に運ばずに、

2人と話していて、私に向かって、


「すみません」


 と、軽く頭を下げた。


 私は、キッチンに行き、買ってきた

コーンスープをお鍋にあけて、温め始めた。


 5分位経った頃、マグカップに入れた

コーンスープと、パンを持ってあさひの

部屋に戻ると、ミチ君はもういなくて、

寧子とあさひが話していた。


 私は、コーンスープとパンをあさひに

差し出すと、持っていたおかゆを床に置いて、

代わりにコーンスープとパンを受け取った。


 そのあと、コーンスープとパンをゆっくり

口に運んで、一言、


「おいしいね」


 その時の、熱で弱々しくみえたあさひの笑顔が、

ほんとうにかわいくて、心の中にふわっと

たくさんのハートが浮かんできた。


 確かに日本では、風邪を引いた時に消化の良い

おかゆが選ばれるけど、私は前にあさひが


「ご飯は好きじゃない」


って、言ってたのを覚えていたから、

「おかゆじゃないな」って思っていた。

案の定、寧子が作ったおかゆはほとんど手を付けず、

私が、温めたコーンスープを飲んだことが、

それを物語っていた。


 寧子はそれを見ると、


「ミチさん、お邪魔みたいだから、行こ!」


 そう言うと、みんなと一緒にあさひの部屋から

出て行った。


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 みんながいなくなって、部屋の中に静けさが

戻ってくると、また、最初に感じた

「天使の雰囲気」に戻った。


「この部屋の雰囲気なら、一日中あさひの寝顔を

見てられる」


 そう、思った。


 あさひがスープとパンを食べ終わって、


「少し寝るよ」


そう言って、また横になった。


 私は、


「しばらく隣にいるから、

なんか用があったら、呼んでね?」


そう言って、部屋の扉を閉めて、ダイニングの

椅子に座った。


 いままで、こっちが一方的に知ってる

だけだったけど、今ではあさひも私のことを、

知ってる。


 なんだか、不思議な感覚。

先週までこの部屋を外から眺めている

だけだったのに、今は部屋の中から

外を見ている。



 私が初めてあさひを見た時は、

痛いぐらい降りそそぐ太陽と、

希望に満ちた、新緑の葉っぱが、

目に痛かったのに、


 今、部屋の中から見ている景色は、

もう黄色い葉っぱがいっぱいで、

すっかり秋の気配。


「もう、かれこれ半年近く、

過ぎたんだな」


 なんだか、ずっと前から、この景色を

知っていたような、ここにいることが

当たり前のような、そんな感覚が心の中に

すんっ、と降りてきた。


「ここに引越してこようか・・・」


 ふと、心に浮かんだ。


P113


 その日は夕方になっても、あさひは起きないで、

H'ファミリーのお父さんが迎えに来る時間になった。


 私は、それ以上いてもあさひは起きない

と思ったから、お鍋にコーンスープを入れて、

すぐに暖められるようにしてから、

その日はホストに帰った。


 翌日、やっぱり気になったから、早めに

H'ファミリーのお父さんに送ってもらって、

あさひのアパートに行ってみた。


 そしたら、アパートには鍵が掛かっていて、

中の様子はわからなかった。


「熱は下がったのかな?」


 心配ではあったけど、それ以上中の様子が

わからなかったから、そのまま寧子のH'ファミリー

に行ってみた。


 寧子のH'ファミリーでピンポンすると、


「Good Morning!」


 寧子が元気に出てきた。


「昨日あれから、なんかあった?」


 寧子が、ニヤッと笑いながら聞いてきた。


「あるわけ無いでしょー、Ashは病人なんだから。

あの後、少ししたらAshが寝ちゃったから、

夕方には帰ったよ!」


 そう言って、私は首を振った。


「な~んだ。

せっかく気を利かせたのにな」


「残念でした。

ってか、病人相手に、何考えてんの?」


「そりゃそうだ!あはは」


P114


 寧子はそう言うと、奥に鞄を取りに行った。

戻ってきた寧子に、


「さっき、Ashのアパート行ったんだけど、

鍵締まってて、中の様子わからなかったんだよね」


 それを聞いた寧子は、


「昨日行った時は、鍵開いてたから、

もう、熱下がって学校行ったんじゃん?」


 そう言った。

私もそう思ったけど、昨日の様子だと、

とてもそんな元気はありそうも無かったから、

もしも、熱が下がってても、一日くらいは、

安静にしていたほうが、いいと思った。


 とりあえず、寧子のママに挨拶して、

急ぎ足で、学校に向かった。


 途中、ミチ君達も合流して、賑やかに歩いていると、

図書館前のベンチで、勉強しているあさひを見つけた。


「ああ、もう熱は下がったみたいだな」


そう思ったものの、寧子やミチ君は、

週末のシアトル行きの話で盛り上がっていて、

あさひには気が付か無かった。


 私はあさひのことが心配だったけど、

ミチ君を初めみんなの手前、いきなりあさひの所へ

駆け寄ることができず、ただ遠くからあさひを

見ていた。


 もちろん、勉強をしているあさひが、こっちに

気がつくわけもなく、2人はスレ違いになった。


P115


 先生には申し訳ないけど、シアトル行きに

比べれば、ずいぶん魅力の無いgrammar(文法)

の授業が午前中に終わり、カフェに行って、ミチ君達

とお昼を食べながらホッとしていると、目の前を

あさひが通った。


「Hi! もう熱は下がったの?」


私が話しかけると、


「あ、おかげさまで熱は下がったよ。

ありがとうございました。

まだ本調子じゃないけど、

あんまり休んでいられないからね」


そう言って、他の国の留学生と一緒に、

奥の方のテーブルに座った。


「感じ悪いなー、

昨日あんなに心配したのに、

たったあれだけ?」


 ミチ君が、そう言うと、ムッとした表情で、

あさひを睨みつけた。


「まあ、いつも一緒にいたわけじゃないから、

普段と同じじゃん?」


 そのミチ君の雰囲気に、敏感に寧子が反応した。


「そうかもしれないけど、紗季ちゃんが最後まで、

心配してたのに、あれだけじゃ可哀想でしょ?」


 ミチ君の一言に私は驚いた、


「いや、別に何かして欲しくて、やったわけじゃ

ないから、そんなのミチ君が気にしなくていいよ」


 慌てて、説明した言葉は、しどろもどろ。

ミチ君は、そんな私の言葉は耳に入らなかった

様子で、まだあさひを睨んでいた。


 あさひは、そんなミチ君の視線に気が付いたのか、

ふっとこっちを振り向き、無邪気に笑った。


P116


〈かわいい!〉


 私は、普段眉間にしわを寄せているあさひが、

急にニコって笑った時の笑顔が好きで、今まさに

その顔でこっちに笑いかけた。


「普段は感じ悪いくらい仏頂面なのに、笑った時は

可愛いんだよねー」


 寧子も同じ意見らしく、そのあさひの笑顔に、

私と同じように、見とれていた。




 私達のグループには、女子が私と寧子しか、

いないから、その2人があさひに見とれていたら、

ミチ君が面白くなさそうに、


「まあいいや、俺、授業行くわ」


 そう言って、席を立った。

そのまま、他の男子も、つられて行ってしまい、

カフェには、私と寧子と、あさひ達のグループ

が残った。


「なんだかね~」


 寧子が、そうつぶやきながら、席を立つと、


「これだから、男はダメね」


って、言いながら教室に向かって歩き出した。

私も、同じ意見。


 2人で、「はぁ~」、深いため息をつきながら、

教室に入った。


 退屈な〈先生、ごめんなさい!〉授業が終わって、

みんなで図書館に行ってみると、そこにはあさひと

ミキちゃんが勉強してた。



P117


 ミチ君が、


「お、Ashの彼女?」


 って、冷やかし半分で、あさひに声をかけると、

ミキちゃんが、あさひと腕を組んで、


「そー、ミキです。

よろしく!」


 そう自己紹介。


 ミチ君があっけにとられて、口をぽかんと

開けていると、あさひがミキちゃんにKissを

しようと顔を近づけた。


 そしたら、ミキちゃんが、


「調子にのるな!」


 笑いながら、頭をペチ。

そこで、みんなが初めて笑った。


 その後ミキちゃんは、


「いつも弟がお世話になってます。

無愛想なやつですが、よろしくお願いします」


 って、頭を下げた。

続いて、あさひもペコリと頭を下げて、


「よろしくです。」


そう言った。


 みんなは、2人のやり取りが、あんまりにも

スムーズだったから、2人はほんとに姉と弟だと

思ったらしい。


 私があさひに、


「熱はもう平気?

様子どう?」


 って、聞くと、


「うん、多分もうだいじょぶ。

こんどなんかお礼するよ。

ほんと、ありがとね」


P118


 そしたら、ミキちゃんが横から、


「はい、よくできました」


 そう言って、あさひの頭を、

なでなでした。


 そしたら、あさひは、嫌がるでもなく、

とびきりの笑顔で、ミキちゃんにVサイン。


 私は、それを見ていて、


「羨ましい」


そう思った。


 その後図書館の外に出て、ミチ君が、


「Ashとミキちゃんはほんとに仲がいい

兄弟だね」


 そう言うから、


「違うよ!2人はここに来て知り合った

んだよ?」


そう、私は答えた。


 そしてたらミチ君はじめ、みんなが信じ

られない!って顔をして、絶句。


「なに?、なんか変なことあった?」


 寧子が、みんなの言いたいことがわから

ない振りをして、そう言った。


 そしたらミチ君が、


「いやいや、なんであんなに仲いいの?

だいたい、普段Ashはあれだけ無愛想なのに、

ミキちゃんの前だと、全然普通でしょ?

なんか変じゃね?」


「だから、Ashだって、別に変わり者って

わけじゃないってことでしょ?

ね、紗季?」


 寧子はそう言って、私にウィンクした。

私は、寧子に急にふられて、焦りながら、


「そ、そういう事。

Ashだって可愛いとこあるんだから」


 って、言ってみたものの、なんだか

墓穴を掘った気分だった。


P119


 そしたら、ミチ君が、


「やっぱ、変人だよ。

あんな奴のどこがいいんだか!」


 そう言って、車の方へさっさと歩いて

行った。


 それを見て寧子が、


「確信したね!」


勝ち誇ったように言った。


 私は、


「なにがよ?」


 寧子が何を確信したのか、まったく

わからず、つい強い口調で寧子に聞いた。


 そしたら寧子、また、中年のおじさん

の笑い顔で、


「ミチさんは、紗季が好きなんだな」


 そう言った。


「ちょっと待ってよ!

そんな事あるわけないよ!」


 私は慌てて否定したけど、寧子は譲らず、


「それも、もう手遅れだな」


 

 そう、言って、歩いて行こうとするから、


「だっだらどうすればいいのよー?」


 って、聞いてみたものの、寧子は答えず、

さっさと歩いて行ってしまった。


「誰かに好きって思われて悪い気はしないけど、

今はあさひ以外は、考えられないな」


 そう思って、さっきのあさひとミキちゃんの

やり取りを思い出していた。

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