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死に戻り最強転移者は、異世界の神々すら見捨てた少年だった  作者: あっかんべー


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第一話「スキルなし、ステータスゼロ。それでも俺は死ねない」

教室ごと、消えた。

それが朝霧零の最初の認識だった。

蛍光灯の白い光が弾け、机の感触が消え、次の瞬間には視界いっぱいに見知らぬ天井が広がっていた。高い、石造りの、荘厳な柱が何本も伸びた大広間。どこかの宮殿か、それとも神殿か。床はひんやりとした大理石で、着地の衝撃も何もなく、ただ自然にそこに立っていた。

隣からクラスメートの悲鳴が聞こえ、机が倒れる音がして、誰かが「なんだここ」と怒鳴った。

零はそのざわめきの中で、ひとり静かに目を細めた。


(また死んだのか、と思ったが——違う。今回は生きたまま、か)


記憶の中の「死」の感触と比較して、彼はすぐに現状を判断した。痛みはない。身体は動く。だとすれば、これは別の何かだ。


「ようこそ、召喚された勇者たちよ」


声は上から降ってきた。

玉座に座る老人——いや、老人の形をした何か。白銀の長衣を纏い、双眸だけが異様に明るく輝いている。その背後には翼を持つ人型の存在が複数、壁画のように整列していた。


「我は守護神ラグナの代弁者。汝らはこの世界アストラムへ招かれた。それぞれの魂に宿る恩寵スキルを確認せよ」


どよめきが広がった。

気づけばクラスメートたちの頭上に、ぼんやりと光のパネルが浮かび上がっていた。それはまるでゲームのステータス画面のようで、名前、レベル、そしてスキル名が記されていた。


「やばい、俺『剣聖』だ!」

「私『大魔法師』って書いてある!」

「『勇者』! 勇者スキルきた!」


興奮が連鎖した。

クラスの中心、天堂冬馬が真っ先に立ち上がり、誰もが彼のステータスを覗き込んだ。「勇者Lv1、初期ステータス全項目A以上、固有スキル【天命剣】」と輝く文字を見て、代弁者の老人は満足そうに頷いた。

零も、自分の頭上を見た。


    —— 朝霧 零 ——

  スキル:なし

  ステータス:全項目 0


沈黙。

パネルは確かにそこにあった。ただし、スキルの欄は完全に空白で、ステータスの数値はすべてゼロを示していた。一瞬、何かの誤表示かと思った。だが何度目を擦っても変わらなかった。


「……ゼロ、ですね」


代弁者の老人が、少しだけ眉を顰めてそう言った。


「神の恩寵が及ばない魂。稀にいる。転移の対象外になるところでしたが——まあ、巻き込まれた形ですな。申し訳ない」


謝罪の言葉は、驚くほど軽かった。

ざわつきが起きた。クラスメートの視線が一斉に零へ向く。憐れみ、困惑、そして冬馬のような者からは、はっきりとした軽蔑。

「零、大丈夫か」と声をかけてくれたのは幼馴染の桐島だけで、零は「ああ」とだけ答えた。

気にならない、と言えば嘘になる。

しかし不思議と、絶望もなかった。

それよりも零の頭を占めていたのは、別のことだった。


(ゼロ——か)


彼は三年前のことを思い出す。最初の「死」は交通事故だった。自転車で坂を下りていたとき、脇道から飛び出してきたトラックに跳ねられた。意識が途切れ、気づいたときには一週間前の朝のベッドの上にいた。

以来、零は七回死んだ。

火災、溺水、心臓発作(原因不明)、墜落、刺傷、そして転移の直前——屋上から突き落とされた。誰にかは、記憶が曖昧で思い出せない。

毎回、記憶を持ったまま少し前に戻る。そして毎回、微妙に何かが変わっていた。身体が少し頑丈になり、反射神経が上がり、夜の暗闘でもほぼ視界を保てるようになった。

ゲームのシステムに当てはめるなら——そう、スタック、だ。

死ぬたびに、何かが積み上がっていた。

そして転移の瞬間、頭の中でかすかに、何かが書き換わる感触があった。今まで感じたことのない「解放感」のようなもの。神がスキルを与えなかったのなら——あるいはそれは、もともと零の中に既にあったものが、器を得て目覚めただけかもしれない。


「スキルなしの者は、後ほど雑務班に案内します。安心を、衣食住は保証されます」


老人の言葉は柔らかかったが、要するに「邪魔になるな」という意味だと零には分かった。

その夜。

王都の最下層にある石造りの宿舎に押し込まれながら、零はひとり窓の外を見ていた。

霧の樹海が、月明かりの下で揺れていた。

あの黒い森の中に、モンスターがいる。

人を殺すモンスターが。

そして零は——死ぬことが怖くない。


「行くか」


呟きは誰にも聞こえなかった。

深夜、零は雑務班の見張りの目を掻い潜り、王都の外壁を音もなく乗り越えた。霧の樹海の入口は、篝火ひとつで照らされているだけの粗末な木柵だった。「立入禁止」の看板は、あってないようなものだ。

森に踏み込んだ瞬間、濃い湿気と腐葉土の臭いが鼻を打った。

樹木の幹は人間の胴回りの三倍はあり、地面に這う根が足に絡みつく。月明かりはほとんど届かず、代わりに薄緑の菌類が点々と発光していた。

歩いて五分で、最初の気配を感じた。

低い唸り声。

草むらから顔を出したのは、灰色の体表を持つゴブリンだった。身長は零の腰ほどしかなく、黄色い目が暗闇に光っている。手には粗末な石斧。一体だけ、ではない。左右の茂みからも同じ気配が膨らんできた。

三体。

ゴブリンは、Fランクのモンスターだ。代弁者の老人から渡されたパンフレットには「成人した冒険者なら素手で倒せる最弱種」と書いてあった。

スキルなし、ステータスゼロの少年に対して、それは最弱であっても充分に脅威だ。


「来い」


零は構えた。

鍛えてもいない、スキルもない。ただ七回の死が積み上げた、説明のつかない「何か」だけを胸に。

ゴブリンが跳んだ。

石斧が弧を描き——

その先に何が起きたかは、もう少し後の話だ。

零がその夜、霧の樹海で何度死んだか。

そして夜明けに、ひとり草の上で目を覚ましたとき、彼の頭上のステータスパネルには初めて、ゼロではない数字が灯っていた。

その翌朝、王都の外壁の上に座って夜明けを眺めていた零の後ろから、声がかかった。


「——ねえ、あんた」


振り向くと、赤髪の少女が息を切らして壁の縁に手をかけていた。騎士見習いの訓練着、そばかすだらけの頬、そして明らかに怒っている顔。


「昨日の夜、樹海から出てくるの見たんだけど。スキルなしが一人で何してたの」

「散歩」

「嘘つくな!! 血が付いてた!!」


零は少し考えて、「ゴブリンの」と答えた。

少女——フェリア=ヴァルドールは、しばらく絶句してから、零の目を正面から覗き込んだ。

何かを確かめるように。


「……怖くなかったの?」

「怖い、というのがどういう感覚か、よく分からない」


その答えが、彼女にとってどう聞こえたのかは分からない。

ただフェリアは、しばらく無言でいてから、ぽつりと言った。


「変な人」


それが始まりだった。

——彼女はまだ知らない。この「変な人」が、神盤の裏側に刻まれた一万回の死と、誰も辿り着いたことのない最強の果てを、既に指先で触れ始めていることを。


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