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装備を整える②



「何をしてるって言われてもなー……」


ジョールは腕を組んで頭を捻る。


「さっきの仕事みたいに研究用にダンジョンの壁を削ったり、魔物の行動パターンとかをレポートにまとめたりって感じ? 俺らは実働隊だから依頼された事をこなしてるだけだけど」


工房に戻る道すがら同伴してくれた二人に探索者とは何かを聞いてみたが、割と曖昧な返事が帰ってきた。


「基本的にダンジョンの管理と観察。たまにお宝が見つかったりするけど、深部以外はもう殆どマッピングもされてるから新しい発見も最近は殆どないわ」


そうレイシャが助け舟を出す。


「あ、でも魔物は凶暴だから今回みたいに戦闘訓練にはもってこいって事もたまにあるな!」


「後は街の雑用みたいな事もしてるね。どこそこで必要なものを取ってこい、迷子の猫を探してくれ。みたいな。正直やる事多すぎて手が回んない状態」


要するに仕事のほとんどは何でも屋という事らしい。


「ギルドに人が少なかったのは単に忙しいからか」


「まあそういう事だ。特に最近は傭兵達がダンジョン荒らすからほんと大変だわ。見たっしょ? 傭兵ギルドの前で大演説してたの」


あれはダンジョンに繰り出そうとする一団だったのか。


「確かにやたらと気合が入った連中だった。でもあんな人数引き連れてどうするつもりなんだ?」


ジョールは大きなため息をついた。


「最深部のグリモアを手に入れるんだとさ。貴族様の直々の依頼で」


ミーナの事が頭をよぎるが、レアケースだという自分の存在があるので、わざわざ2冊目を手に入れる必要もない。


「その貴族様とやらの目的は? やっぱり不死の力か?」


その質問には盛大に吹き出された。


「うははは! 不死の力ってお伽話だろそんなの! 軍事目的だよ軍事目的!」


ますます分からなくなる。

自分で持っていてこれまでにこの本が何かしらの脅威になる様な事はなかった。

それどころか、相変わらず何も書かれていない白紙の本だ。こんな物は置物にしかなりはしない。


「ダンジョンの魔物を生み出してるのがグリモアなんだから、それを敵に送りつければ相手はほっといても全滅って事よ」


「え? そんな力がグリモアにあるのか?」


今まで魔物が現れるなんてそんな事は一度も起こってない。

もしかすると持ち主がいるといないでグリモアの性質が変わるのかもしれない。


「そうなんだなそれが。倒しても倒してもまた魔物は一定時間で復活するから深部の調査が上手くいかないって現状さぁー」


ジョールはお手上げだとばかりに両腕を挙げる。


「だからグリモアは貴重なの。今のところ手に入れた国は抑止力と研究の為に保管してる所ばかりだけどね。実際は荒事に使うわけではないのよ」


「ただ、売れば一生遊んで暮らしても使いきれない金になるぜ!」


ジョールはそう言って肩を組んでくる。

そんな物を今自分は持っているのか。

そっと服の内側に触れた。

これは屋敷の人間以外には見せないようにしよう。


「あーもう! 難しことわかんないー!」


先程から横でつまらなさそうに話を聞いていたルーの堪忍袋の緒がついに切れたようだ。頭を抱えて人混みの中を走り出した。


「あ、こら走ると危な……」


言い終わる前にそのまま人に体当たりを食らわしてしまっていた。

ルーはぶつかった反動で尻餅をついている。


「言わんこっちゃない。すみません、大丈夫ですか?」


駆け寄ってルーを起こしてやり、相手の壮年のシスターに相手に謝っておく。

しかし、シスターはこちらを全く見ずに驚いたように目を見開いている。


「…………ルーちゃん!?」


その言葉にルーはびくりと肩を震わせた。


「おーい、怪我はないか?」


「ごめんね、長い話は退屈だったわね」


ジョールとレイシャも追いついてきた。

シスターはこちらを全く無視し、ルーの肩を強く揺する。


「ルーちゃん! 生きてたのね! あの時私もうてっきりあなたが死……」


「やめてください」


ルーは明らかに怯えている様だ。シスターの腕を掴み、その行為を制した。

シスターは怪訝な顔で睨みつけてくる。


「はい? 貴方はどちら様ですか? 私達の感動の再会を邪魔しないでいただけませんでしょうか」


「ルーが嫌がってます。その手を退けてもらえますか」


その言葉が逆鱗に触れたのか突然怒り出した。


「何の権利があって私に指図をするのですか! 私はこの子の育ての親ですよ! 横から口を挟まないで頂戴! 」


かなり近距離で怒鳴られたので、耳がキンと痛む。


「おばちゃんよぉ、俺もルーちゃんが嫌がってる様に見えるぜ? とりあえずその手を放しな」


「同感だわ。それにその子、今はローズベルク家のお抱えの子よ。下手に手出しはしないようにね」


三人に詰め寄られて流石に怯んだのか、シスターは諦めて手を離し、ルーの目線に自分の目線を合わせた。


「ルーちゃん、何故こんな所にこんな連中といるの? 私達の家にはちゃんと帰ってきなさいって教えたわよね?」


その言葉は一見優しい口調ではあるが、どこか有無を言わせない圧力みたいなものがある。


「ご……めんな……さ……」


今にも消え入りそうな声になっているルーの肩は相変わらず震えている。


「そうね、なら帰りましょ? 私達の家へ」


そう言って強引にルーの手を引いてこの場を立ち去ろうとする。


「待て。もうルーに触るな」


手を払いのけて間に割って入る。ジョールとレイシャもそれに続いた。


「強引すぎない? 流石に不審すぎるわよ」


「すまねえが、依頼人に何かあったらこっちも困るんでね」


レイシャは手甲を嵌め、ジョールは腰に吊るした剣に触れている。


「な、なんなのですか! あなた達は! ルーちゃん、早くこっちにいらっしゃい?」


強引にルーを取り返そうとしてくるが、そうはさせない。何かこの人物はおかしい。

ルーが服の裾を掴んでくる。後ろを見ると首を横に振っていた。


「もう行こう」


ルーを庇いながら道を急ぐ、後ろで「また戻ってくる事になる」等とまだ何か喚いていたが、すぐに町の雑踏に紛れて聞こえなくなった。



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