装備を整える
「5軒目か……」
「次いこー」
街での武器や防具の工房がある一角は昨日に通ったこともあって迷わずに来れた。
しかし、先程から門前払いを店から受け続けている。
聞くと武器防具を買うには誰かしらの紹介がいるらしい。
貴族や商人なら公的な仕入れや発注の依頼。
一般人なら武器を扱う職業に就いている者。もしくは探索者ギルドに登録されている人物のみ販売ができるそうだ。
そうやって犯罪者に武器が渡らないようにする為だと言っていた。
ルーがローズベルク家の者だと言ってもそれを証明しろと返されたので無理だった。
「いや、身分を証明できないならどこ行っても同じだろうな」
「じゃあどうするの?」
これはもう手詰まりだった。
時刻も時刻なので、屋敷に戻ってゲドラニスか誰かに身分を証明してもらう一筆をしたためてもらっても、こちらに戻って来るときには店は全部閉まっているだろう。
「探索者ギルドってのにダメ元で行ってみようか」
「うん!」
そこで登録さえすれば問題はないだろう。
……できればの話だが。
◇
道行く人に聞くと商業的なギルドは街の中心部に集まっているらしいが、傭兵や探索者など、荒事を生業とするギルドは街の端の方にあるらしい。
昨日の広場からまた少々歩くと、それらしい建物が見えてきた。
やはりこの辺りの治安はあまり良くないらしく、まだ日があるというのに呑んだくれが道端で寝ていたり、物乞いが道行く人の身なりを見て遠巻きに値踏みをしていたりする
大きな建物の前ではいかつい顔をした男達が集まっており、その中心で大声を張り上げて周りを鼓舞する者もいる。
「軍を率いて」とか「報酬は破格」などと聞こえるので恐らくは傭兵達だろう。
その横をさっさと通り過ぎて件の探索者ギルドの建物を見上げる。
洞窟と靴の紋章が掲げられたそれは建物こそ大きいが、あまり活気は無く、向こうと比べると静かなものだった。
「なんか思ってたよりさびれてるね!」
ルーは失礼な思考がそのまま口に出ている。
「今はたまたま人が出払ってるんじゃないか?」
とにかく中に入ってみる。
扉は金具が錆びているのか建て付けが悪いのか軋みながら開いた。
やはり建物内にはほとんど人がおらず、受付らしき所で男女二人組と受付嬢が歓談している最中だった。
「だから言ったっしょ? レイシャ。割と簡単な仕事でおいしいって」
髪と顎鬚を短く揃えた青年は重厚な鎧を身体から取り外しながら連れのサイドテールの女性にそう語っている。
「それはそうだけど、深部まで潜らないし単調でつまらなかったわ。次はもっと面白い依頼にしてね。ジョール」
仏頂面でレイシャと呼ばれた女性は返した。
「危険はなかったならそれでいいじゃないですか。そこまで深部に拘るのはレイシャさんくらいですよ」
その会話に受付に座る女性も口を挟んだ。
「カナは分かってない。危険と釣り合う大きな報酬、満ち足りるほどの達成感があってこその探索者でしょ? ダンジョンの入り口で壁をちょちょいと削るだけなんて探索じゃない。それはもうただのお使いよ」
レイシャは大きくため息をついた。
「今回はもういいんでないの。明日から長期の仕事があるし。なんか特殊な依頼だから、退屈しなくてすむだろ?」
「まあ、そうだけどね」
カナと呼ばれた受付嬢がこちらに気づく。
「あ、こんにちは。見ない顔ですが、ご依頼の方ですか?」
どうやら会話がひと段落ついたみたいなので、要件を伝える。
「明日ダンジョンに行く為に装備を整えようと武器屋に行ったんだが、ここで登録しないと買えないと言われて。なんとかならないですか?」
ジョールと呼ばれていた青年は「おっ」という表情になり、隣に来て力強く肩を組んでくる。
「新しい同志か! 探索者ギルドへようこそ! 歓迎するよ!」
そのままバシバシと肩や背中を叩かれる。
「ええと、登録してダンジョンに行かれるとなると誰かのご紹介ですか? お名前をお伺いしても?」
カナは名簿か目録の様なものをパラパラとめくる。
「いや、紹介ではないんだが……名前はハゼムです」
「なんだ、私たちの明日の依頼者じゃない」
レイシャそう言って今だに背中をバシバシと叩きまくるジョールの耳を掴んで引き離してくれる。
「ああっ! 痛い痛い! そんな持ち方したら千切れるって! でもっ…………ちょっといい……」
変態だった。見せない様にルーの目を覆う。
「みえないー!」
ルーは手を引き剥がそうとするが、そうはさせない。教育に非常によろしくない。
「今丁度話してた方でしたか。なら話は早いですね」
カナはそう言って一枚の紙を取り出した。
それは誓約書で、ダンジョンの立ち入りを一時的に許可し、それに関する必要な物を揃えることを認めると言った内容だった。
注釈でダンジョン内で起きたことは全て自己責任という事も書いてある。
「昨日、領主様が直々にいらっしゃって、他の手続きは終わらせていただいていますので、ここにサインをして頂ければ許可証を発行できますよ」
誓約書の一番下の部分を指でとんとんと指した。
もっとややこしい手続きが必要なのかと身構えていたので拍子抜けをしてしまった。
「武器屋に行くんだろ? 俺たちもついて行くから一緒に見ようか!」
ジョールが耳の拘束から抜け出してきてカウンターに置かれた誓約書の間に割り込んでくる。
「邪魔をしない!」
ジョールの腿にレイシャのスナップの効いた蹴りが炸裂し、パァン! と乾いた音が鳴る。
「いいぞぉ……」
そういって崩れ落ちた。
とりあえずあまり変態に関わりたくないので無視をしてサインを済ませる。
「はい、確かに。ではこちらが許可証です。紛失されると再発行に時間がかかりますのでくれぐれも無くさない様にお願いしますね」
「わかりました。ありがとう」
スクロール状の許可証を受け取り、懐にしまう。
崩れ落ちたままのジョールはそのままに、レイシャに話しかける。
「実際のところどんな装備がいいのかわかんないんで、ついてきてくれるなら有難いです。頼めますか?」
とどめのようにレイシャはジョールの背中を踏みつけた。「そうだぁ……」と声が聞こえるような気がするが気のせいだ。
「いいよ。どうせ明日やろうとしてた事だし」
ルーが踏みつけられたまま動けない変態の頭をつついている。
「あはは! へんなおじさんー!」
「違うっ! 変なお兄さんだっ!!」
ジョールはガバッと首を上げて、即座に訂正する。変なのは自他共に認めているらしいがおじさんと言われるのは許さないようだ。
「えー、だって髭だし」
「そうだね、髭ジョールだもんね。そういえばお嬢ちゃんは何て名前?」
「ルーだよ! よろしくね、綺麗なお姉さん!」
「元気で正直なところが大変よろしい。よろしくね、ルーちゃん」
そう言ってレイシャが足をどけたのでジョールは口惜しそうにしながらも起き上がって素晴らしくいい笑顔でこちらを向く。
「さあ友よ! 早速武器屋に馳せ参じようじゃないか!」
とりあえずこんな変態な友人を持った覚えはなかった。




