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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第10章 オリンポス十二柱神
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高天原からオリンポスまで

 病院の屋上、大和(やまと)勇美(いさみ)風雅(ふうが)の三人はアマテラスに向かい合っていた。

「最後に聞くが、本当にいいのかい? 相手はオリンポス十二柱神。ゼウスといえばルシファーと同格の相手。それと並び称されたのが十一体。

 こっちは神殺しが二人だけ。行けば、まあ死ぬよ。一応連絡とるだけはしたけど」

「連絡って誰に?」

黄桜清良(きざくらせいら)さんと藤堂興元(とうどうおきもと)くんに」

 ともに神殺し第五位と第四位。藤堂は面識があるものの、黄桜はレギオンの件での接点だけで会ったこともない。

「死ぬほど止められた。あまり期待はできないね」

「……しかたねえよ。見ず知らずのやつのために、命をかけろとは言えないさ」

「いれば、一人一柱は硬かったんだけどね」

 風雅は残念そうに言う。

「一、二、六、八位はルシファー討伐に駆り出される。九と十位は戦力外」

「三位は?」

「獄中だ。まあその人は親父が言うには、頭がおかしいやつで戦力にならないらしいけど」

 そう言って、風雅は両手で頬を叩く。


「とりあえず、君ら二人で十一人、相手どる気でいてくれ。一応俺も一人位なら相打ちまでは持ってける」

「俺らで十二倒すから大丈夫だ。帰り道だけ心配してくれ」

「はは、頼もしいよ」

 風雅は大和と勇美に笑いかける。

 そこで、大和はどうしても疑問が湧いて、聞いてしまった。

「何故そこまでする。惚れているからか?」

「……バレてた?」

「いや、わかるけど、何でなんだい?」

 勇美の問いに、風雅ははぐらかすようにそっぽを向く。


「とりあえず時間がないから、行きながら話すよ。向こうでも朱雀で移動だしね」


 風雅はギターをかき鳴らし歌い始める。

 歌を進めると同時に、風雅の体が光輝きはじめる。

 いや、三人の体も。

 アマテラスもまた黄金、否太陽のように輝き始め。


 気がつけば、黄金の雲の上に立っていた。

 さっきまで病院の屋上だったのに、全く以て不可思議だった。

 濃密な気配に人を魅了する何か、気炎がなければ押しつぶされそうなほどの圧迫感。

「……これは」

「ここが、神の住む地、高天原(たかまがはら)。神界はね、僕らの世界を覆うようにして存在しているんだ」

「なみのまじゅつしであればひゃくねんはしゅぎょうがひつようぞ。かんしゃせよ」

 アマテラスはころころと笑うと、遠い空をを指さす

「あちらのほうへまっすぐとぶのじゃ。さすればおりんぽすのやままでいけるじゃろう」

「遠いんじゃないのか」

「神界では現実の距離や地理関係を無視している。ここからオリンポスまで朱雀で30分ってとこか。急ごう」

 瞬間、風雅のポケットが一瞬明滅した。

「何だ?」

「陽美香ちゃんに持たせた札が反応している。おそらく結界札だ。急ぐよ」

 風雅は朱雀を取り出すと、二人を乗せ、飛び立った。


「ふふ。せわしない。さて」

 アマテラスが体をかき消し、その場から消えた。


 上空をかなりのスピードで飛んでいく。

 すべてが煌びやかな黄金色で構成された空を、龍や鳳凰といった想像上の動物が当然のように飛んでいる。

「で、さっきの続きだが、何故ここまで命を賭ける」

「え? 自分で言ったじゃん。惚れてるって」

 風雅は前を見ながら言う。

 その耳は真っ赤だった。

「あのな、俺らはともかく、お前は異能者だろう。この神界へ来るのだって、大分リスクがあるんじゃないのか? それだけのことを惚れているだけでこなすのか?」

 大和の質問に、風雅は少し悩んだあと、答えた。


「まだ会って一か月経ってないのか。陽美香ちゃんとは何日か一緒にすごしたけど、あんな可愛い子いないよね」

 風雅の言葉を黙って聞く。

「金髪は太陽みたいで、笑顔は悪魔みたいで、無茶苦茶強くて、お母さんが死んでもひたむきに努力を続けて」

 勇美が俯く。

「口が悪いけどその分素直で、勇美ちゃんのために総合王者に立ち向かうくらい友達思いで……。

 そんな娘を見捨てて、自分の力を使わなかったら、俺は母さんに顔向けできない」


 風雅もまた陽美香と同様、十年前の戦いで母親を失っている。

 そんな過酷な人生でも人を救うのを止めないのは、陰陽師であった母親の遺志を継ぐためか。

「何より、もう俺は、あの子がいない世界なんて考えられないくらい。

 きっと、見捨てたらこれから先、ずっと心にポッカリ穴が開くくらい。

 それ位、思ってるんだと思う。

 だから、俺もできる限りのことをするよ」

「……風雅」

 勇美が、朱雀の上で座りながら頭を下げる。

「恩に着る」

「別にいいよ。俺が好きでしたことだ」

 

 何とも言えない空気が火の鳥の上を覆った時、大和が異変に気づく。

「海だ」

 黄金の大地から一転荒れ狂う海に景色が変わる。

 雷鳴を纏った雲が空を覆い、嵐の夜の形に世界が変わる。

「ギリシャ神話における外洋の具現化オケアノス。この海を越えればオリンポスだ! 

 けどここを守ってるのはゼウスの兄であるポセイドン! 一筋縄じゃあいかないぞ!」

「ああ、お出ましのようだ。高度を上昇させろ!」


 次の瞬間、爆発的な水流が天を駆け上り朱雀の進行方向を貫いた。

 朱雀は高速旋回して水流から逃れる。

「まだ来る!」

 勇美もまた、風雅に注意喚起する。

 さらに水流が何本も何本もあらわれる、

 何条もの巨大な鞭が襲いかかるように、濁流が炎の鳥を撃ち落とそうとする。

 紫炎を巻き上げた拳撃が井上勇美から放たれ、濁流とぶつかり蒸発させる。

 

 その水の塊から何かが飛んできた。

 真っ先に火の鳥を煌く何かが襲う。

 大和は咄嗟に黒刀を現出させ受け止めた。

 衝撃波が火の鳥を吹きとばすが、すぐさま体勢を変え三人を拾う。

 何かは逆巻く波の上に立ち、火の鳥を見つめる。

 

 瞬間、海が停止した。

 先ほどまでの嵐がうそのように、まるで一枚の絵画のように止まってしまった。

「ふむ、久方ぶりの侵入者が、斯様な年端も行かない少年少女とはな」

 逆巻く海の上に立つは褐色の髪に髭面の男神だった。

 その肉体は精巧なギリシャ彫刻のように鍛え上げられ、右手には銀色に煌く三叉矛を持っている。

 まさしく神話に名高い、海神ポセイドンであった。

「タイミングから考えて、我らが姪御(めいご)の身柄がご所望かな」

「ああ、そうだ。君らが殺してしまうというなら、こちらに身柄を渡していただきたい」

 風雅が代表するように交渉する。

 ポセイドンは顎髭をしごいて、何事か思案する。


「まあ、あの赤羽緋沙奈(あかばねひさな)という女には恩義があるので、その申し出もやぶさかではないのだが……。弟が何というかな」 

「なら、せめて引き合わせてはくれないでしょうか? 直接交渉したいんです」

「ふむ、それも悪くはない。悪くはないのだが」

 言いにくそうに、男は言う。

「美しい、美しいなあおい。アポロン辺りが欲しがりそうだ」

 その言葉に大和は勇美を庇うように立つ。

 風雅は、大和を諦観が溢れる瞳で見る。

「大和、多分君も狙われている。相手ギリシャ神話だぞ」

「……俺もか?」

 古代ギリシャやローマでは少年愛が習慣化しており、神の中には美少年を攫って行った逸話も多い、

「いや、三人ともじつに美しい」

「……ま、俺も相当顔いいしね」

 風雅は髪をかき上げながら言う。

「だが、特に気に入ったのは君らだよ。アレスとアテナを退けたものよ」

 大和は険を含んだ目でポセイドンを睨み、勇美は紫炎を身に纏う。


「久しぶりに()()な戦いになりそうだ。何より、俺一人倒せぬようではゼウスを倒すなど夢のまた夢。

 さあ、興じ、楽しませてくれ、愛しき人の子らよ」

 瞬間、海が活動を再開する。

 ポセイドンが三叉矛を振り上げると海が槍のように突きたち、大和達を襲う。

「飛ばすよ!」

 朱雀が羽ばたき、ポセイドンをすり抜け飛び立つ。槍をかわし、波間を潜り抜ける。

 槍の勢いはとまらず、朱雀は宙返りをしながら空をかける。

 ポセイドンのトライデントが鈍くかがやくと、アテナの神体以上の大きさの大波が襲い掛かってきた。

 さらに高度を上げると、大和は刀を一閃振り抜いた。

 何万トンもの水量が斬り裂かれ、真っ二つに割れその間を朱雀が飛ぶ。

「陸地だ!」

「あそこまで行けば! 水上戦は避けよう」

 波に乗りながら、ポセイドンがこちらを上回る速さで突っ込んでくる。

「二人とも、良く聞くんだ。ポセイドンはここで食い止めなければならない」

「? 何言ってる。相手は海神なんでしょ?」

 勇美の疑問に、風雅は首を振る。

「いや、彼は地震と山々をも操る()()()()()()()だ。ここで仕留めないと、陽美香ちゃんにも危険が及ぶ。だから、仕留める」

「なら三人で……」

「いや、井上。どうやらあちらの方が手が早いようだ」

 そこで勇美も気づく、神性が二つ、砂浜に向かっていることを。

「二人ともいってくれ、相手がポセイドンなら対策がある!」

 そう言うと、風雅はギターを取り出して、朱雀から飛び降りた。

「おい、風雅!」

「行こう井上! あいつは勝算のないことをするヤツじゃない!」

 朱雀は速度を上げると、砂浜に二人を降ろし、風雅の元へ去っていく。


 大和と勇美は二つの神性をにらみつける。

 一人は褐色の肌をした、頭全体を覆う鉄仮面を纏い身の丈ほどの槌を持った大男。

 一人は金髪翠眼のこの世の全ての男が情欲を覚えるような、布一枚だけ纏った女。

「ヘファイストス」

「アフロディテ」

 二人の神は間合いをずんずんとつめながら名乗る

 鍛冶の神と美の女神。どちらも現代まで名を残すビッグネームの神だ。

「まあ、軍神や海神に比べればマシか」

「どうだろうな。絡め手を使ってきそうだぞ」

 勇美の楽観を諫めるように大和は警戒する。


「ふふ、男の子の方は勘がよさそうね」

「下がってろ」

 髪をかき上げながら歩むアフロディテを制するようにヘファイストスが大槌を振りかぶる。

 攻撃を受けようとした大和と勇美は異変に気づく。

((遠い))

 槌が地面に振り下ろされた瞬間、接地面からまばゆいばかりの黄金が噴出する。

 あ、と思う間もなく二人は分断される。

 大和がいたのは、黄金に輝く屋敷の中だった。

 状況の変化に戸惑うまもなく、四方八方から黄金が襲ってくる。

「流石にアレスを追い込んだ男に、正面からは戦えん」

 ヘファイストスの呟きとともに、大和は黄金に埋め尽くされた。


 黒い巨大な亀、玄武の上で風雅はポセイドンを睨みつける。

「いいのか? 丘に上がらなくて」

「あんたがその気になれば俺達をオリンポス山に閉じ込めて置ける。違うかい?」

 風雅の言説に、海神はあっさりとイエスと告げる。

「うむ、まあそうだな。だが、神殺し二人と離れて大丈夫か? まだ三対三で戦った方がよかったのでは?」

 ポセイドンの真っ当な論理に、風雅は首を横に振る。

「いや、ギガントマキアをともに乗り切ったあんたらに連携で勝てると思うほど、楽観的じゃないんだよ」

 オリンポス十二柱神は互いに反目するエピソードは存在するものの、とみにティターン神族の侵攻を防ぎ戦った戦歴がある。

 そして五千年以上、人類有史以前から存在し、君臨し続けた関係性。

 もちろん水上が言ったように釧灘大和と井上勇美の連携もまた強力ではある。

 しかし、たがたが会って数か月の風雅がいては、その連携に支障をきたす恐れがあった。

「成る程、かなりの戦略眼。ますます気に入った」

「あいにく、好きな人がいるんで、あんたの気持ちには応えられない」

「ふはは、そうか。あの姪御に惚れているか。してどうする? 一対一でこのポセイドンにかなうとでも」

「いや、意外といけるかもよ?」

 そう言うと、風雅はギターをかき鳴らす。

 それだけで、辺りの空気が一変する。

 神域であるオケアノスの真っ暗な海が、黄金色に輝きだす。


「貴様。何を?」

 ポセイドンの声色に、初めて焦りの色がうまれる。

「伊達や酔狂で高天原を通ってきたわけじゃあねえ。

 いくぜ! 『陰陽(おんみょう)! ── FROMタカマガハラ!』」

 稀代の陰陽師は声を張り上げ、玄武白虎青龍朱雀、四体の獣を従えた。

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