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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第9章 軍神
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比堂源一と甲斐弦由布人

 勇美(いさみ)は袖口に仕込んだカッターナイフで縄を切り、拘束を解いていく。

陽美香(ひみか)! 大丈夫!?」

「舐めときゃなおるわ」

「あなた漢気ありすぎでしょ」

 血塗れで笑う親友にそう言いながら、陽美香のロープも解いた。

「あの比堂って男、相当強いわね」

「ああ、でもクシヤマなら大丈夫でしょ。だって、あいつきっちりノーギにしてきたし。得物もあるしね」

「ノーギ? ああ、相手柔道家だから脱いでんだ」


 一般に柔道の技術体系は、相手が衣服を着ていることが前提である。

 ゆえに上半身裸の、いわゆるノーギと呼ばれる状態になることでその技術の多くを封じることができる。

 それゆえ、柔道家と戦うときは衣服を脱ぐべし。

 釧灘大和もその鉄則に従ったまで。


 だが、比堂源一は怯まない。大和の体に全速力で突っ込む。

 ひらりと躱し警棒での一撃を当てる。

 比堂は瞬時に察知し、これまた躱す。

(動きが読まれている?)

 まるで攻撃をする前に来ることが分かっているようだと大和は感じた。

「なかなかつよいな」

 そう感心したところで、ぞくりといやな予感がして、大和は桧山の方を見る。

「釧灘! 銃!」

 勇美の警告に、その場からとっさに飛びのき、銃声とともに飛んできた弾を躱す。


 桧山が拳銃を持っていた。

 それはいい、予想していた。

 桧山は狂気に満ちた笑みでもう一度照準を合わせる。

 たまらず大和は警棒を投げつけた。

 眉間に当たり悶絶する桧山に俊敏に近づき、大和は桧山を頭から床に落とす。

 昏倒した桧山を見下ろす大和に一息つく間もなく比堂が襲い掛かる。

 タックルし、そのまま後ろに放り投げられ、床に宝利投げられる大和。

 これは、レスリングでいうそり投げ。

(こいつ! グラップリングか!)

 何とか受け身を取った大和は、敵を見誤っていたことに気づき舌打ちする。


 グラップリングとは組み技のほとんどを認められた、打撃禁止の総合格闘といった様式の格闘技。

 何より特徴的なのは相手と組み合った状態で競技が始まるということ。

 ゆえに技術体系は組み技極め技に特価されている。

 そのままマウントを取られかけ、大和はすかさず、比堂のサングラスを掴み、割った。

 破片が顔面に刺さり怯んだ隙に抜け出し、蹴りを一閃。

 

 だが、あっさりとかわされ、大和は疑問に思う。

(まただ、攻撃の瞬間を察知された。しかも視力を失っているはず。まさか!)

「あんた! 全盲か!」

 その叫びに疑問に思う勇美と陽美香。

 だが、比堂の目を見て思わず息を飲む。

 目の周辺に夥しい傷。その瞳は白く濁っている。

 まさか、音や気配だけで今まで戦っていたというのか。

「そんな状態で何でそこまでする! 金がそんなに欲しいのか!」


 大和の叫びに、比堂は笑って首を振る。

「目が見えなかろうが、俺はまだ戦える。それを証明するために、俺は戦わなきゃならん」

 そう言って前傾姿勢を取る盲目の男をじろりと睨みつける大和。

「そこまで武道家であるために誇りを持ってるなら、何故女を狙う!」

「女だろうがハンディキャップがあろうが、武道家は武道家だろうが。俺は差別はしないんだ」

「ふむ、そういう考え方もあるか」

 思わず納得してしまう大和。

 降りる沈黙。

 何秒か経って、少女からの声が室内に響く。

「いや論破されんなよ! 私肩外されてんのよ! あんた後ろから襲ってきたでしょ! 尋常な立ち合いならともかくいきなり奇襲しといて武道家云々言ってんじゃないわよ!」

 陽美香の激昂に苦笑する比堂。

「なんとでも言え。こい! 俺はまだ立ってるぞ!」

 

 比堂の意気に大和もまた応えるように構えを取る。

 それは柔術のものだった。

 激突する両者。

 鎖骨と二の腕を取ろうとする比堂。

 それに対して大和は、跳んだ。

 

 それは百九十センチはある比堂の肩口を掴むように。

 そのまま肩部分を取り襟首を締め上げた状態で倒立一回転。

 水地流の中でも、特に身体能力に優れた者でなければ使えない技。

 比堂の背中側に降り立った大和は、肩から巨体を前方に引き倒した。

 

 水地(みずち)流、雲車(くもくるま)


 頭からコンクリートに落ちる比堂。

 受け身を取るなど絶対に不可能な荒業が決まり、比堂のタフさを超えるダメージを与え失神する。

「あれも水地流?」

「先生にも言ったけど、あれは技じゃない。人間を超えた身体能力でないと使えない技は破綻しているわ」

「まあ、釧灘も十分人外ってことか」

 勇美の疑問に、陽美香は冷静に言葉を重ねる。

「……見た目より余裕そうだな赤羽」

「おう! 上等よ!」

 大和は桧山が落とした銃を持ちながら、通信端末で水上(みながみ)達に連絡する。

「もしもし師匠、終わりました。警察を呼んでください」

『大和、逃げてくれ』

 突然のもの言いに、大和は戸惑う。

「一体何が?」

『君らを襲おうとしてたやつらの増援を相手してたんだが、()()甲斐弦(かいげん)がいることが分かった。丸腰の君では危険すぎるから早く逃げろ。あと二分でそっちにつく』

「分かりました。でももう遅いです」


 大和が通話を切ると、室内に入ってきた男に振り返る。

 その男は、身長180センチ程の優男だった。

「買い物してたら遅れちゃった。ぎりぎり間に合ったか。けどあと2分か……。まあハンデには十分かな?」

 耳障りのいい男の声が聞こえた。

 男は赤い髪をかき上げ、ハンティング帽を被りなおす。

 手からぽいと何かを投げ渡す。

 それは鞘に入った刃渡り60センチ程の日本刀だった。

 さらに男はジャケットの裏から、同程度の大きさのマチェーテを取り出した。


 マチェーテとは森林の多い地域でよく使われるナイフであり、その刃の中間部が厚みのあるデザインが特徴である。

 主に山間部や森林地帯で茂みを刈るのにつかわれるが、軍人にも愛用され、その技術体系はより実戦的といえる。

「四人も斬殺すれば剣術家としては一流だろう? 遊んでくれよ」

 そう言ってにこやかに笑う男。

 この男は自分と勝負するためにわざわざ日本刀を調達したらしい。

 大和は居合の構えを。

 とらずに拳銃を男に撃ちまくった。

 マガジンが枯れるまで、十発前後撃ちこむ。

 だが、発砲音とともに金属が金属を打つような音が響く。

 

 男は全く同じ姿勢で立っていた。

 ぶんぶんとマチェーテを振り回すと床を軽快にするりなぞる。

 弾丸が、綺麗に整列していた。

 唖然とする勇美と陽美香を置いて、二人の間の空気はさらに危険度を増していく。

「いいねえ。冷静じゃん。これはそうゆう戦いだよ。クシナダヤマトくんだったかな」

「井上、赤羽。そこから動くな。そういうあんたは甲斐弦由布人(かいげんゆふと)だな」


 今から五年程前のこと。東南アジアにある小国で、ある日系企業がテロ組織に襲われた。

 十九人が人質に取られ、自衛隊の派遣も議論されるほどの大事件となった。

 だが、事態は途端に収束する。

 人質に取られていた当時14歳の少年が、テロ組織を皆殺しにしたからだ。

 超人的な身体能力と天才性でそれを成した男の名は、甲斐弦由布人。


 ある時、水地流師範である水上龍誠(みながみたつまさ)が地上最強の男は誰かという議論で、名前を挙げた一人。

 伝説の“奇人”甲斐弦由布人。

 

「さて、あと一分半ほどか。頑張って時間稼ぎをしてくれよ」

 そう言うと、凄まじい速さで甲斐弦は大和を一刀両断せんと斬りこんだ。

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