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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第8章 殺人貴公子
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大和VS小太郎

 あらゆる兵器に言えることだが、強さとは間合いの広さである。

 ナイフでは剣に勝てず、剣では槍などの長物に勝てず、長物では銃には敵わない。

 もちろん、個人の力量によって左右はされる。

 だが、それはかなりの実力差があっての話である。

 俗に言う「剣道三倍段」と言われ、剣の使い手は槍の使い手と比べ三倍の力量が必要なのだ。


 そして蓮野小太郎は暴力団激戦区福岡の極道を27人殺した実力者である。

 持つ獲物は鎖鎌。小型の鎌に、鎖分銅がつけられた武器。

 その間合いは長く、2メートル前後。

 対する釧灘大和は50センチ程の伸縮警棒。

 実力は同程度で間合い差は歴然。

 普通であれば勝ち目はない。

 

 幅五メートルほどの廊下で、少年二人はにらみ合う。


 遠心力で投擲された鎖分銅が大和を襲う。

 その速さは人の目で追える速度ではない。

 だが、大和はすり抜けるように躱してみせた。

 否、飛んでくる前から予測し避けていたのだ。

「お前! 鎖鎌を使ったことがあるな!」

 小太郎の驚愕に無言で返答するように、大和は敵へと肉薄する。

 

 水地流、入身(いりみ)

 体幹移動とすり足により予備動作なく近づく、水地流で基本となる移動法である。

 小太郎にとっては予兆なく大和が目の前に現れたように感じた。

 喉元に、警棒による突きが見舞われる。


 だが、小太郎は沈み込むように移動し、いっそ華麗ともいえるステップワークで警棒の間合いから鎌の間合いまで詰める。

(この動き! ボクシング!?)

 日本古武道とは異なる動きに面食らいながらも、自分の喉元を襲った鎌を警棒で防ぐ。

 小太郎はさらに逆の手で分銅を振り回し、大和の肉を抉らんとする。

 たまらず体ごと大きく倒れこむようにして躱す大和。

 

 追撃に鎌を振り下ろす小太郎に対し、大和は防御ではなく、あえて攻勢に転ずる。

 水地流、五始が一、濁波(だくは)

 それは、身を屈めながら相手の足元を狙う斬撃。

 小太郎は攻撃を止め、飛びのいて躱す。

 

 さらに追撃をくわえんと、大和は突きで小太郎の水月を狙う。

 だが、小太郎は鎖で警棒を絡めとろうとする。

 それはさせじと、大和は肩から小太郎に突っ込んだ。

 肺の空気が全て抜け、小太郎がごろごろと転がり距離を取る。



 二人の死闘を見て勇美を銃でとどめている華崎兄妹は助太刀しようか悩む。

 だが、井上勇美がそれを制するように言う。

「あんたら、ひょっとして拳銃をつきつけてそれで終わりと思ってる?」

 その言葉に、隆盛と繚蘭が瞳を見合わせる。

「あんたらが銃をつきつけてるように、私は私であんたらに大砲を向けている。それをきっちり理解しといてもらいたいね」

 そこで気づく。

 もし井上勇美がその気になれば、自分達は彼女の放つ紫炎でこの世から消滅することを。

 それを証明するように、異能者や神殺しのみに見える力の奔流が勇美から湧き出てくる。


 繚蘭はゴクリとつばを飲み、隆盛は後ずさりながらも疑問に思う。

「何故、そこまでできるなら焦らない。このままだとそちらも負けるかもしれないんだぞ」

 その問いに、勇美はため息をつきながら答える。

「釧灘が勝つよ。そして、あんたらはその後のことを考えな」

 勇美は自信満々に言い切り双子に憐憫の情を見せ、またも華崎兄妹は戸惑うように顔を見合わせた。



 小太郎は、鎖分銅を間断なく振り回し、まるで壁のように見える。

 風見流、嵐壁(らんぺき)

 だが、大和は動じない。

 入り身によりすぐさま近づく。

 何故、あっさりと近づけたのか。

 それは大和自身が、小太郎の動きに慣れ、鎖分銅の動きを正確に理解できたから。


 ゆえに、小太郎は予測を逆手に取る。

 小太郎は旋回方向を逆転させ、分銅を自身の後ろで制止させる。

 そのまま、鎖の張力を利用し、真っすぐな弾道で大和の眉間を狙う。

 風見流、不曲(ふきょく)


 だが、小太郎は今までの軌道と異なり、真っすぐに飛んでくる分銅に対し、読み切った。 

 何故か、それは自身もまたその技を持っているからに相違ない。

 釧灘大和の師、水上龍誠は武芸十八般を習得した達人。

 その彼から伝授された鎖鎌術は風見流と比べても遜色ない。


 さらにもう一つ、室内で分銅を振り回したことで、逆に何か狙いがあると看破していたがゆえ。

 一般に間合いが広い武器は狭い場所で扱いづらい。

 まして鎖鎌となればそこそこの広さの廊下でも扱いづらい。

 にも拘わらず、小太郎は分銅を無策のように振り回した。

 何か意図があるのは明白。


 そして、小手撃ちが小太郎の右手に決まった。

 鎌を取り落とす小太郎。

 だが、小太郎は諦めずショートアッパーを大和の顎に目掛ける。

 その拳をあっさりとかわした大和は片手で袖口を掴み、腰を据えて引き倒す。


 一本背負い。

 

 背中から落ちた蓮野小太郎は、何とか受け身をとった。

 しかし、大和は躊躇なく喉に対し足刀の追撃を行う。

 華崎兄妹があんぐりと口を開ける。

 あの小太郎を、一蹴した。


 暴力団やマフィアを何人も殺し、銃武装した一団をものともしない蓮野小太郎を。


 驚愕に固まる二人の耳朶を、大和の発した一音が叩く。

「で?」

 悶絶する小太郎を見下ろしながら、少年は呟いた。

 その声色は地獄から聞こえるかのように、低い。

 

 まるで獄卒のような瞳が、華崎兄妹を貫いた。


「何汚いものを、井上に向けてるんだ?」


 その形容しがたい、神殺しの力とは別物の気配が兄妹を怖気づかせる。

 選択は、逃亡だった。

 隆盛が手をかざすと右手に小太郎が現れる。

「ごめんね勇美ちゃん!」

 謝罪とともに繚蘭から燃え上がる炎によって大和と勇美の視界が包まれる。

 しかし、紫炎と黒炎が、瞬く間に実体ある炎をかき消す。

 

 そしてそこには、大和と勇美、失禁し失神する署長の姿だけが残された。

「逃げられたな」

「そうだね」

「怪我はないか」

「あるように見える?」

 勇美は笑いかけるが、大和は気づかわしげに勇美の頬に触れる。


 その顔には安堵の表情が見える。

「あいつら、次は逃がさねえ」

「そうだね。とりあえず、あんたにも怪我がなくて良かったよ」

 大和は肩をすくめる。

「どれだけ人を殺そうが、所詮は武術家でもない素人を殺してきた奴だろ。

 師匠にしごかれてきた俺には勝てないよ」

 何でもないように言う少年の自負を好ましく思いながら、少女は顔を赤らめた。


 

 福岡市内の定食屋、五人分の鉄鍋餃子の前で、話し合う五人。

「謹慎? どういうことだ」

 大和の怒気を孕んだ声に、風雅はすくみ上る。

「ええと、つまり神殺し二人をみすみす失ったあげく、蓮野君たちを見逃した俺らはルシファー討伐には用はないっていわれちゃって」

「お前の親父さんにか?」

「ううん、もっと上」

 消沈する風雅に、大和も怒気を収める。

「悪い、あたってすまなかった」

「いや、大和は正直よくやったよ」

「まあ、しゃあないか。そうなるとは思っていた」

 雄大は大和を窘めるように頭を撫で、割りばしを割る。

「……結局、蓮野達はどうするのかね」

 勇美は、心配するように言った。


 この先も彼らが殺戮の旅を続けるのか。

 それとも、今までとは違った正義に目覚めるのか。

 それは今の彼らでは想像もできないところだった。


 消沈する勇美に、大和が肩を軽くたたく。

「大丈夫だ。きっと井上の言葉は届いてる」

 全く根拠はないが大和の言葉に、勇美は元気を取りもしたようだ

 華やいだ笑顔に、大和の頬に血が集まるのを感じる。


「定食屋でいちゃつくなよ」

「ま、いいさ。なるようにはなるだろう」

 五人はその後一斉に手をあわせて、目の前の料理を食べ始めた。 


 


 九州某所。

 隆盛は車を走らせながら小太郎に問う。

「で、どうする? こっから」

 痛みに呻く小太郎は、それでも助手席で懸命に話した。

「やることは変わらねえよ。リストどおりのヤツを追い詰める。それは変わらねえ」

「おばさんに連絡しなくていいのか?」

「……おいおいな」

 バツの悪そうに小太郎は座りなおす。

「負けた。完敗だった」

 だが、どこかすっきりした気がする。

 少女の言葉に救われ、少年の強さに止められた。


「……亜美が言ってたな。ケンカはダメだって」

「ああ、言ってた」

「言ってたわね」

「意を汲んで、暴力に訴えることは少なくする。せいぜい警察に突き出す位にしてやらないと、な」

 そう言って小太郎は車の窓から流れる地面を見る。

 あの白衣の男の言う通りなら、亜美は地下にいる。

 空に消えていって地下にいるとは不思議だが、そうしたこともあるのだろう。

 その中で、亜美は戦っているのだろうか。

 それともあっさりと死んでしまったのだろうか。

 

 墓すらないのは、しんどかった。 

 死んだかどうかも分からないことも。


「勇美ちゃんの言ってたことは、正しいね」

「ああ」

 殺戮を重ねても、正義にはならない。

 そんなことは重々承知の上で、どうしようもない怒りもある。


「とにかく、まずは、あのおっさんの言うことを信じることにしよう」

「忙しくなるね」

 聞き出したのは二十人前後。

 皆、政財界の有力者ばかりだった。

 それでもやる。

 落とし前はつけねばならない。

 

「まずは南から攻めてくか。とりあえず、服だな」

「変装か?」

「それもあるが」


 小太郎は繚蘭の方を見る。

 隆盛の上着だけを着た彼女は、それ以外なにも羽織っていなかった。

 火の異能を使ったため、服が燃え尽きてしまったゆえに。

「……エッチ」

「そんだけ言えりゃ十分だ」 

 朗らかに笑った小太郎は隆盛の肩を叩く。


 車が空間の歪みに消えた。

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