↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第7章 魔薬
48/90

ロータス

「そのロータスとかいう薬を飲んでも、多少身体能力が上がる位だろう? 俺らで調べるから子どもは観光でもしてな」


 そう言ってのける雄大に対し、風雅が反論する。


「いや、聞くところによると異能の力でしょう? 相性的には俺らがいた方がいいでしょう」


 雄大は風雅の質問に動じず答える。


「だが、薬を回しているのはヤクザ者だろう。ならそれは警察の領分だ。お前らの力は悪魔や魔術師の正体が捕捉できてからでいい」

「うーん、そりゃそうですけど」


 勇美は風雅に対し、意見を口にする。


「まあ、あれ位なら雄大(たかひろ)兄なら戦えるだろうし、私らが逆に薬飲んでない状態の人間に捕まるのが怖いな」


「えー! 私も調べたい! 少年探偵団みたいなことしたい!」


 陽美香がじたばたと駄々をこねる。


「お前、さっき泣いてた癖によくそんなこと言えるな」

「泣いてねえし!」


 泣いてただろと陽美香に反論もせずに、大和はそっぽを向く。


「……じゃあ、流通の確保はお任せします。魔術師とか悪魔が絡んでたら連絡ください」

「ああ、それで頼むわ。何、観光でもしながら待っててくれ。お前たちの出番は、確保するときだ」


 雄大が話をまとめる。その後調書を取ったり証言をしたりで、気が付けば夕方になっていた。



 警察署から出て伸びをする。

 雄大は警察署に缶詰のようだ。


「さて、ホテルでも探すかな」


 風雅が言うと、大和が声をかける。


「何だったらうちに泊まるか?」

「え? いいのか? 迷惑じゃねえ?」

「言ってなかったか? 俺一人暮らしなんだよ。近所に叔父夫婦はいるんだけどな」

「え? 何それ、贅沢じゃね?」


 風雅は戸惑ったように口にする。

 確かによく羨ましがられるが、実際結構寂しいものだ。


「じゃあ宿代払うよ」

「いいよ、気にすんな」

「じゃあ、あれ、俺味噌カツが食べたい」


 その言葉に名古屋在住の三人は微妙な顔をする。


「え? 何、どうしたの? 名古屋名物じゃないの?」

「ああいや、あんま……。人を選ぶからねえ」

「下手な店行くとカツの赤みそかけが出てくるからね」

「行くなら味噌カツ専門店じゃないとな」

 年頃の少年少女三人が味噌カツについて真剣に話すのはシュールだった。

 思わずあとずさる風雅。


「そんなに難しいのか?」

「旨い所と下手な所の差が激しい料理なのよ」

「まあ、行くなら叔父さんの店に行くか」

「ああ、あそこなら間違いない」


 大和の提案に勇美が乗った。

 そんな会話を経て、四人は連れ立って歩いて行った。



 揚々亭(ようようてい)

 古き良き洋食屋といった外観のお店で、風雅の喉も思わずなる。


「いらっしゃい」


 すらりとした30前後の青年が顔を出す。


「おお、大和に勇美ちゃん、陽美香ちゃん。あれ、見ない顔だな」

「京都から来た風雅くん。俺の友達なんだ」


 その言葉に感心したように言う。


「へえ、遠い所よく来たな。俺は釧灘孝三郎。風雅のおじさんやってます」

「あ、どうもよろしく」

「風雅は味噌カツが食べたいんだって」

「お、ウチの味噌カツはうまいよ。つっても数量限定なんだけどね」

「私はビーフシチューオムライス大盛り」


 勇美がいつものメニューを頼む。


「私は今日はシーフードドリアにしようかなあ」


 陽美香は毎回違うメニューを食べる。


「俺はハンバーグ定食にカキフライとどて煮とみそ汁をテールスープラーメンに変えてあと食後にカレーパン四つ」


 風雅は目を丸くして大和を見る。


「大和は大概こんなもんだぞ」


 と勇美が補足する。


「今日は動いてないから少ないわね」


 陽美香の言に、風雅はそっと大和の腹を撫でる。

「何だお前」

「いや、世界中の全女子に喧嘩を売ってるだろ」


 大和の腹は固かった。



「成程、じゃあ今日は大和の家に泊まって。親は?」

「ああ、いえ、名古屋には一人で」

「偉いなあ。今の子はみんなそうなのかな」


 風雅は何とはなしに大和に聞く。


「叔父さんと住まねえの?」

「? ああ、叔父さんは二人いてな、孝三郎おじさんのほかに自衛官をやってるおじさんがいて、俺の保護者はそっちなんだよ」

「つっても、俺と一緒に住んでもいいのに、頑固だなお前は」

「はは」


 そう言って笑うも、大和にはどこか彼に遠慮があるのを風雅は見てとった。


「ほれ、味噌カツとシーフードドリアな。大和と勇美ちゃんのもすぐ作るぜ」

「先に食っててくれ」


 大和達は手で箸を促す。


「頂きます」

 熱々の鉄板に乗った味噌カツを一切れ口に運ぶと、甘辛く熱々のタレがカツのジューシーさを引き立て、凄くうまい。


「うめえ!」

「そりゃ良かった」

「やっぱ味噌カツは熱々じゃないとな」

「ああ、ただカツに味噌掛けただけの所もあるからな」

「へえ、難しいんだな」


 その後は大和の食べっぷりに驚いた。

 ご飯の量が頭より大きい。

 そして勇美が食べるオムライスも、大きかった。

 重量にして2キロはあるだろうか。


「君ら、食いすぎ」

「後でお菓子とか食わないように、晩飯を多く食うんだ」

「……そう」

「エネルギーとっとかないと、痩せちまう」


 女の子のセリフじゃない言葉を勇美が発し、風雅は戦慄する。


「一杯食べるイサミンはかわいい」


 陽美香は相変わらず、勇美を全肯定するのだった。




 その後は勇美が陽美香の家に、風雅が大和の家にそれぞれ泊まることにし、この場はお開きとなった。

 風雅は、風呂を頂いたあと、ジャージ姿に着替え大和に向き直る。


「何から何まで悪いね、大和」

「いいよ、お前に世話になってるし」


 そこで、風雅は真剣な表情をする。


「あのさ、大事な話なんだけど」


 あの薬の話だろうかと想像し、大和は向き直る。

 だが、風雅から放たれたのは予想外の言葉だった。


「赤羽さんって彼氏いるの?」


 何を言っているかわからず、大和は目を丸くする。


「いや、俺は真剣に聞いているんだよ! 何あの超絶美少女は!」

「ああ、まあ、うん、顔はな」


 大和の微妙そうな反応に風雅はオーバーなリアクションをする。


「何それ! 大和は勇美ちゃんで価値観がバグってるんだよ! 確かに勇美ちゃんも美人だけどどっちかっていうと綺麗系で可愛さで言えば赤羽さんでもうワンピースの裾からのぞく真っ白なおみ足とかああもうマジ溜まんねえっていうかマジヤバ1000%っていうかもう歌うしかない!」


 叫んでギターをケースから取り出しかき鳴らす風雅をとどめ、落ち着かせる。


「で、彼女は、ああでもどうせ彼氏がいるんだろうな。あんな可愛いんだもんな」


 突発的にローテンションになる風雅に辟易しつつ、大和は記憶を遡らせる。


「いや、いないぞ。彼氏欲しいって言ってたし」

「マジで!?」


 そう言うと風雅はガッツポーズを取る。

 はしゃいで踊りだす風雅を大和は咳払いをして止める。


「で、本題は?」

「ああ、そうだな」


 居直った風雅は静寂のもとで、言葉を紡ぐ。


「……赤羽さんってガチで勇美ちゃんのこと好きなのかな、ってタンマタンマ頭が割れるイッツジョークjoke! あああああ!!」



 ギリシャ神話におけるトロイア戦争終結の際、オデュッセウス達帰還兵はとある島に立ち寄った。

 その島の原住民はある果実を嬉しそうに食べており、オデュッセウスの部下たちも喜んで食べた。


 しかし、異変が起きた。


 オデュッセウスの部下達は望郷の念を忘れ、島に残ると言い張り、気力をなくしてしまった。

 息を飲んだオデュッセウスは急いで部下に果実を食べることを禁じ、果実を食べてしまった船員を残し、急いで船を出した。

 ゆえに、その禁断の果実をロータスと言うにようになった。



「あらゆる薬物の原型か、大仰なネーミングをつけやがる。ギリシャ系の魔術のものなのか?」


 魔術にも色々な種類がある。大和は中途半端な知識しかないが、目の前の少年、岩倉風雅は日本が誇る陰陽師の総代である。

 その知識を頼みにしているが、風雅からしてみれば良く分からないのが実情だ。


「正直どういうものかは良く分からんのが現状だね。ただの洒落を効かせた隠語の可能性もある。

 だが、効果は本物だ。飲むだけで無理やり人を異界にまで引き上げて、超人的なパワーを持たせるなんて、相当高位の魔術師が仕込んだか、大悪魔や神の権能がなければ不可能だ」


「そういうものか、しかし何で名古屋に流通させたんだ?」


 風雅はその言葉に、言いにくそうに答える。


「本当は中国から大阪府を中心に広めようとしたらしい。武闘派のヤクザや半グレ相手に売り込もうとしていたらしい所を、陰陽連が防いだんだけど」

「別ルートから中部地方に流れたと。だが、目的はなんだ? まだ拳銃とかの方が扱いやすそうだけど」

「武装の強さ()()でいえばね」


 風雅はそこで言葉を区切る。


「悪魔や魔術師、神の目的は何だと思う」

「……この世界を異界に近づける、だったか」


 大和はルシファーの言葉を思い出す。


「そう、この世界が異界になれば今超常の力を持っている連中はより力を発揮しやすくなる。

 世界を異界に変えるには主に二つ手段がある、皆が異能の力を行使することさ」

「力を使えば世界は容易く染まる。ルシファーもそんな風に言っていたか」

「それと、もう一つは、皆が異能の力を信じることさ。これは全人類ってことなんだけど」


 風雅の答えが良く分からず、大和は聞き返す。


「どういうことだ」

「まあ、簡単に言えば異能の力で大災害なんか起こせば、皆否応なしに異能の力を信じるよね」


 大和が眉を上げるのを見届け、風雅は続ける。


「今、君が思ってる以上に、世界は危うい均衡のもと立ってるんだ。各国の情報統制、主神格の存在による精神支配。

 情報があまりに発達した世界で、異能の力は拡散しやすくなっている」

「そんなところに、魔術を使った大規模犯罪がおきれば」

「人界は異界にポーン、って感じになる。だからそれは防がなきゃならない」


 それがルシファーの言うアポカリプス。

 大和はただ腕を組んで、考え込んだ。



 結局その後は、客用の布団を出し、一緒の部屋で寝た。

 風雅は旅の疲れかすぐに寝息が聞こえてきた。

 大和は目を閉じる。


 浮かんだのは井上勇美のことだ。

 異界の世界は井上勇美にとって、生きやすいのだろうか、生きにくいのだろうか。


 もし生きやすいなら、それなら……。

 そう思ってしまうのは、ただのナイフを持った人間にはか弱い少年でしかない自分の弱さのためか。

 とりとめのない考えに、大和は首を振り、ふと携帯電話が鳴るのを見た。


 メッセージは赤羽からだった。


(岩倉くんって、彼女いんの?)


 色ボケな二人の間柄をスルーし、大和はまぶたを閉じた。 

続きが気になる方。この小説が気に入ったという方。




一番下の星から率直な評価をお願いします!




できればブックマークしてくれると大変嬉しいです!




是非お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。