↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第7章 魔薬
46/90

繁華街へ

 金曜日、水地流(みずちりゅう)の道場では、剣道着姿の男女が気合を込めて発声する。


 竹刀で撃ち合う、高校生大学生を含めた剣道家達のなかで、ひときわ体が小さく、そして強いのが釧灘(くしなだ)大和(やまと)である。

 乱取りとよばれる総当たり制の打ち込み稽古でも、釧灘に勝てる者は皆無であった。


「はい、今日の練習はこれまで、解散!」

「「「「はい!」」」」


 水上龍誠(みながみたつまさ)の号令の後、水地流道場での剣道練習が終わり、門下生たちは帰路につく。



 だが、釧灘大和の練習はここからが本番である。

 師匠と自分以外誰もいなくなった道場で竹刀から真剣に持ち替え、剣術の稽古に当たる。



「五始三行四終、はじめ!」

「はい!」


 気勢とともに、まずは五つある始動の型から稽古に当たる。


 この訓練は締め切った部屋で行われる。誰かに見られるのを防ぐためだ。


 これはスポーツ競技化された剣道とは一線を画す、真剣での水地流。


 ゆえに想定するのは命のやり取りが絡む戦い。


 手の内を読まれ研究されることは真剣でのやり取りにおいて死を意味するからだ。


 これを使う時は、必殺を期するときと師匠と約束している。


 多くは対人用の技術ゆえ、人の型を外れた怪物に向けるのは想定していない。


 先日の酒呑童子(しゅてんどうじ)との闘いは正にレアケースといえるだろう。


 十三の型を全て終え、大和は一息吐く。


 龍誠は声をかける。


縮天突(しゅくてんとつ)地伏(ちぶ)(のぼ)り、軌転(きてん)を実戦で使ったな。非常に良くなっている。

 常に実戦を想定した型を行うことで、よりほかの型も完成に近づくだろうね」

「はい!」


 その後は習熟が足りぬ型を重点的に鍛え、その日の鍛錬は終わった。


「五始三行四終全てを過不足なく使えてこそ水地流の真価が発揮できる。ゆめゆめ忘れないように」

「はい!」


 気づけば辺りはどっぷりと暗くなっていた。

 道場の掃除をしながら、大和は気になっていたことを聞く。


「あの、岩倉道長さんを知っていますか?」

「ああ、若いころにね。まあ友人と言って差し支えないだろう。向こうがどうおもってるかは知らないがね」


 水上は思い出すように言う。


宝蔵院(ほうぞういん)槍術(そうじゅつ)の傍流である金剛流の皆伝。その技術編纂のため、各地の高名な武術家に弟子入りしていた。

 その一人がウチの親父でね。若いころは共に研鑽(けんさん)したものさ。懐かしい」


 そこで、大和に向き直る。


「あいつは、確かに霊能者としても強いが、武術家としても相当強い。

 いいかい、武術家としての自負心、それが君の神殺しの剣を形作る。まあそれはあいつの受け売りだがね」


「それは道長さんも言ってました、水地流を極めろと」


 別れ際の岩倉が言っていたことを告げると、考えたこむように水上は顎に手をやる。


「そうか……。じゃあ今日は特別に僕と木刀で撃ち合ってみようか」


 水上はにっこりと笑う。地獄の入り口に手をかけてしまった気持ちになるが、今の大和には火がついている。


「よろしくお願いします」


 そう言って二人で木刀を構え、向き合った。



 

 金のウェーブが掛かった髪を後ろに纏めた少女、陽美香が背の高いミディアムヘアの勇美に寄りかかりながら、二人で水地流の道場を目指す。


「いさみーんのいーは、いけずのいー」

「あんまひっつくな陽美香」


 勇美の方はしかし、満更でもなさそうに手を背中にやり、車道を行く車から彼女を守っている。


「所作がかっこよすぎ……! 可愛いの格好いいのどっちなの……?」

「……私はあんたと違ってかわいくはないだろ。デカいし」


 自分を卑下した発言に陽美香ははたと勇美を見やる。


「いや、イサミンみたいなかわいい女の子が何言ってんの。その顔面力でクシヤマ派の女子をぶんなぐってるのに。

 あ、もしかして身長? クシヤマだって背が伸びるしそもそもアイツ身長にはこだわんないし、アイツにこだわんなきゃイサミンより背の高い男なんてそれこそ星の数ほどいるって」


 陽美香の直截な誉め言葉に耳まで赤くなって照れる。


「釧灘は……別に……」

「二人とも往生際が悪いなあ」


 陽美香はやれやれと肩を竦める。


「と、いう訳で、明日は栄に行きます。ので、イサミンがあの頭クシヤマの馬鹿を誘ってください」


 栄とは名古屋でも有数の繁華街である。

 そこに遊びに行く計画を、陽美香と勇美は立てた

「あんた、本当息を吐く用にアイツを罵倒するね」

「私とアイツは不倶戴天(ふぐたいてん)の敵ですから」


 共に天を抱かずというほど忌み嫌ってるらしい。

 にしてはこうして世話を焼くあたり、素直ではない。


「けど、数ある女の子からイサミンを選んだというその事実に、まあ一肌脱いでもいいかなあと思わなくもなくもないと」

「ああ、はいはい。わかったよ」


 観念したように平屋建ての日本家屋に近づき。

 戸を突き破って釧灘大和が吹き飛んで来た。




 失神している大和に近づいていく師匠の水上。


「おう陽美香、勇美ちゃんこんばんは」

「こんばんは師匠。何ですかまた吹き飛ばされてるんですか」


 もはや日常の一つという風で陽美香は対応し、勇美はドン引きしている。


「あのお、釧灘は大丈夫なんですか?」

「え? 木刀で吹き飛ばされるなんて日常でしょ?」


 勇美の質問に陽美香は何がおかしいの? といった感じで疑問に思う。


「おいおい人聞きの悪い。体当たりで吹き飛んだだけだよ。そんな弟子を殺すような真似するかよ」


 木刀で殴られれば人間の体は折れ、辺りどころが悪ければ普通に死ぬのだ。


「いや、現に交通事故にあったみたいになっているんですけど」

「イサミン。日本古武道で体当たりは普通に行われるし、相手を制圧するには理に適ってるんだよ」


 多くの立ち技格闘ではタックルは禁止にされているのがほとんどだが、相手の攻撃を躱し、距離を取る点で体当たりは実用的な技なのだ。


「そうそう。所で二人は何しに来たの」

「いえ、明日この頭クシヤマめをお借りしたい所存です」


 陽美香はビシっと背を伸ばして言う。


「何、荷物持ちでもさせんの? 僕は明日剣道大会の応援に行くから休みだし、別にいいけど」

「やったあ、ありがとうございます!」


 ぴょんぴょんとポニーテールをゆらしながら陽美香は飛び跳ねる。


「ま、たまには息抜きも大事だろ」

「流石先生話分かる! 前時代的な頭の固い指導者とは一線を画すわ!」

「君どこでそういう言葉使い覚えてくるの?」


 水上の疑問にどこ吹く風で、陽美香ははしゃぐ。

 そんな二人のやり取りを置いて、勇美は大和の頭を抱えて頬を叩く。


「ん? 何だ。女神?」

「目が何? 大丈夫」


 寝ぼけてとんでもないことを言ったのを払うように大和はがばっと起きあがり、勇美を見つめる。


「うわ、井上! 何故ここに」

「いや、陽美香に誘われて。それよりあんた無茶苦茶な特訓してんね」

「それは君もだろ」


 勇美の頬にはまだガーゼが残っている。

 勇美はそんな視線に気づき、眉尻を下げる。


「気にしなさんな。それより明日、陽美香と遊びに行くんだけど、一緒に来ない?」

「え? いいのか!?」


 チラリと水上の方を見て、彼はコクリと頷く。


「じゃあ、是非ご一緒させてくれ」

「ん、じゃあ十時に地下鉄の2番出口前な」


 かくして、土曜日の日程が決まった。

 水上はゴホンと咳をする。


「ああ、一応保護者さんの許可をとっていきなよ。門限は守ることと危ないことはしないこと。校則に反することはしないこと。いいね」

「「「はい!」」」


 三人はしっかりと返事して、その日は道場からお暇した。




 大和は、青いジーンズに白のワイシャツ、といったいつもの恰好で駅前に立っていた。

 時間は集合15分前といったところか。

 黒のショートヘアをいじりながら、ふと風雅を思い出す。


(あいつワックスを付けてたっけ、コツを聞いてみようか)


 などと考えていると、陽美香が近づいてきた。

 波がかった金髪を後ろに束ね、ダークブラウンのワンピースに緑のデニムジャケットを羽織り、赤く可愛らしいポシェットを肩にかけている。


「お、早いね感心感心」

「まあ、遅刻はしないさ」


 井上勇美ももうすぐ来るだろうことは気配で分かる。


「お待たせ―。私が一番遅いのか」

「ああ、イサミンも早い早い」


 ブルーのジーンズにスニーカー、ロゴ入りのTシャツに肩口まで伸ばしたミディアムヘアの少女。


「またそういう男の子みたいな恰好しちゃって」

「ああ? そう言うところが可愛いだろうが投げるぞ」


 陽美香は「やれやれ分かっていない」という風に肩をすくめる。


「やってみなさいよクシヤマ。今日はイサミンの服を買いに行くんだからね」

「ねえ、本当にやるの」

「この恰好ですでにスーパーモデルとなりうりジーンズの世界的な売り上げを5パーセント上昇させうるイサミンに、スカートとかワンピースと女の子の恰好させたらもう辛抱たまんないんですよぐへへ」

「おっさん自重しろ」

「おっ……!」


 大和の発言に二の句が継げない陽美香。実際に発想と言動がともにおっさんである。


「大体本人の意思に反してファッションを変えても意味ないだろ。着ないだろうし」


 大和の答えに陽美香はふーんとつまらなそうに言った後に、ボソっと言う。


「本音は」

「井上の生足は見たい」


 二人は勇美にすぐさま頭を叩かれる。


「私は嫌だよ。制服で十分だし、それに空手で青あざできてるから見せるのやだ」

「むう、じゃあ仕方ないか」


 陽美香は頭をこすりながら言う。

 とりあえず繁華街に行こうかといった所で、大和の携帯がなる。


「風雅か」 

「誰?」

「ああ、まあ友達だな」


 その言葉に陽美香が興味深げに大和を見る。


「あんた海原(かいばら)以外に友達いたんだ?」


 海原とは大和が良く話すクラスメイトの名である。

 その海原は土日はシニア野球の練習があるので今日は来ていない。


「最近できた」


 通話アプリから、風雅のメッセージを見る。


(今話せるか?)

(急用か?)

「男の子だよね。カッコいい?」


 陽美香は興味深そうに尋ねる。


「ああ、顔はいいんじゃないか。性格も明るいし」


 メッセージを返すと、すぐに返答が帰ってくる。


(名古屋にヤバい薬が出回ったらしい。気を付けてくれ)


 その言葉に、大和の顔に真剣さが出る。


「紹介してよ」

「まあ、そのうちな」


 そう言うと、バイクの爆音が辺りに響いた。


「何ようるさいわね」


 陽美香はそう言うと、音源を見やる。



 見ると二人乗りのバイクが歩道を突っ切って来た。

 咄嗟に道の端に寄り、避けようとする。

 後ろに乗っていた男の腕が、陽美香のバッグを掴んだ。

 

続きが気になる方。この小説が気に入ったという方。


一番下の星から率直な評価をお願いします!


できればブックマークしてくれると大変嬉しいです!


是非お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。