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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第6章 百鬼夜行
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水地流

 そもそも日本古武道、ひいては剣術が隆盛したのは江戸時代になってからとされる。

 武士が戦わなくなった時代に、それでも剣を捨てず武を磨き続けた結果、日本の戦闘術は完成を見たのだ。

 大和は強大な敵に対し、あくまで自身が研鑽した技術でもって戦う。

 自身の流儀で神に等しい怪物と戦うことを選んだ者、それが神殺しだからだ。


 対して、酒呑童子に戦いの流儀などというものはない。

 ただ、速く。

 ただ、強く。

 勝者こそが正義。

 そういう価値観を持つ者だった。

 

 ゆえに今日もまた力任せに振るうだけだ。

 少し、以前使っていた金棒よりも得物が強力というだけである。


「さあ、楽しもうぜ」


 叫ぶと、大外道(おおほかつみち)でもって釧灘に斬りかかる。


 その速度は天が定める限界に届き、地を割り、山を砕く。

 実際問題、釧灘大和の足場は崩壊していた。

 破壊の一撃が奈落を生みだし、地の獄が覗くほど。


 だが、釧灘大和は酒呑童子の背後に立っていた。


「力に意味はない」


 そう吐き捨て、一刀に伏す。


 自身の出血を目にし、酒呑童子の脳裏に浮かぶのは困惑であった。

 確かに全身全霊にて最速の一撃を食らわせた。

 だが、大和は躱してみせた。

 まるで、霧でも相手にしているようだった。


「剣の道は、一眼二足三胆四力」

 釧灘大和は自身に言い聞かせるように呟く。

 師匠の言葉が思い出される。


「いいか、大和君。剣はまず目で見切ることが大事だ。二番目に大事なのは足さばき、後は勇気。力はほんの少しでいい」


 釧灘大和は単純に酒呑童子の起こりを見切って動いたにすぎない。

 起こりを発見する訓練は牛鬼の時のボウガンでの襲撃に際し、指導を受けていた。

 酒呑童子の動きがいかに早くても、それが人間の形を取っている以上、確かに動作に予兆が存在する。


 ただ、それを神に等しい相手の前で、実際に命の危険がある中で実践する。

 これの何と難しいことであろうか。

 

 釧灘大和は紛れもない天才である。


 だが、少年を脅威に思ってなお、その実力を踏まえた上で酒呑童子は大笑した。


「いいね! お前おもしれえ! 頼光(よりみつ)なんぞよりずっとなあ!!」


 自身に追随するものは誰一人いなかった。

 大江山で妖怪達と徒党を組み、百鬼夜行を率いて人里を荒らしに荒らした。

 だが、退屈だった。

 莫大な欲求を満たすものはいなかった。


 酒吞童子の欲求は闘争である。

 あの時代、最強の武人であった源頼光ですら直接の戦闘を避け、毒の入った酒を飲ませた上での騙し討ちでしか止められなかった鬼である。


 あの屈辱すら許せる。今でなら。


 今宵この場で強敵と出会えたからだ。 


 このままで終わっては余りにももったいない。


 ゆえに、酒呑童子もまた成長する。

 

 再度、八岐大蛇から生まれた神剣が振るわれる。


 次の一撃は、釧灘大和であっても捉えきれなかった。


 かろうじて避け、服が破けるに留めた。


 先ほどまでとは違いが歴然だった。


(もう学習したってのかよ。いやになるな)


 鬼と人では単純にスペックが違う。


 身体能力の話だけではない。生まれついての戦いの天才。それが鬼である。


 瞬間、釧灘大和の纏う空気が変わる。

 

「決めに来るか? 上等!」


 酒呑童子は愉快そうに大和を見据えて笑う。

 対して大和は不快そうに眉を吊り上げる。


「戦闘狂が……嫌になる」


「嫌になる? 何が、お前だって楽しんでるだろお?」


 酒呑童子の真っすぐな叫びに大和は自分を省みて、静かに肯定した。


「一緒にするな……。と言いたいところだが、確かにな。このまま心ゆくまで撃ち合いたい気持ちも、なくはない」


「おう、だったらやろうぜとことんよお!」


「だが」


 大和はそこで言葉を区切る。


「俺には守らなければならない人がいる。ゆえに、貴様を一切の油断なく仕留めなければならない」


 今は離れていても、釧灘大和の心には絶えず井上勇美がいる。

 井上もまた、辛い修行を続けているのだろう。

 あの少女を守るために、釧灘大和は帰らなければならない。


 少年の覚悟を見て、鬼に去来する感情は幾ばくか。


「難儀なもんだな。んじゃあ、名残り惜しいが」


「ああ、決着といこう」


 釧灘はそこで刀を青眼に構えた。


 静寂が辺りを包む。


 動いたのは酒呑童子。


 その一撃は神界と化した山を破壊せんばかりの威力。


 速度は光にも似た。


 だが、先に剣が届いたのは釧灘大和だった。


 これは人間力学でも証明されているが、先に動いたものよりも、その予兆を見て後に動いた方が早いという矛盾した事実がある。


 所謂先に動いたものが負けということであり。後の先と言われる武の究極の一つ。


 ゆえに、釧灘大和の剣撃が酒呑童子の喉元に吸い込まれる。


 二始、縮天突(しゅくてんとつ)


 後ろの足を前の足によって隠しながら相手に近づけることで、相手に気取られず実際の間合いを広げる突き技である。


 流れるように、次の技へ移る。

 斬撃を躱し様、右腕を斬り飛ばす。


 三行、地伏(ちふ)(のぼ)り。


 倒れこみながら体を捩じり、反動で斬り上げることで回避と攻撃を両立させる。ただし、行うには尋常でないバネが必要。


 さらにもう一度、技を重ねる。


 一終、軌転(きてん)


 体を一回転させ遠心力で相手の首を跳ねる荒業。隙も大きい諸刃の剣、行う時を見極めるべし。


 五の始め、三の行い、四の終わり。

 ゆえに水地流に五始三行四終あり。


 酒呑童子による破壊が山を破壊し尽くした。


 その更地の上で、酒呑童子の首が宙を舞った。

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