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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第6章 百鬼夜行
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酒呑童子

 人界、異界、霊界、神界。この世界には4つの界がある。

 そして人界は霊界と神界に、異界は神界にそれぞれ干渉しあうことはできない。

 隣り合う次元でしか干渉し合えないのだ。

 霊能者である神殺しの力は霊界に属し、人界に行使することはできない。

 ゆえに、神が人の目に映るためには、存在を弱め、力を弱くしなければならない。


 その剣は、遠呂智の生み出した剣はまさに神域にあるもの。

 ゆえに、異能者である風雅は見切ることができず。

 力が高まり霊界に属しつつあった酒吞童子の封印が、飛来した剣により切り裂かれた。


「は?」


 そう声を出したのは誰なのか。

 案外自分かもしれないと風雅は思った。

 何かが出てきた。

 だが、それを知覚できるものはここにはいない。


 数瞬ののち、風雅は叫ぶ。


「みんな退けー!! とにかく山を降りろ退けー!!」

 その叫びに呆気にとられる陰陽師達。

 

 だが、その瞬間現れたものに、皆一様に目を奪われる。


「そうか、力を落とさなきゃ人間に見えないのか。俺様も偉くなったものだぜ」


 それは血のように赤い肌をしていた。

 背は2メートル前後だろうか、金色の髪が腰元まで伸びている。

 筋骨隆々とした姿は、その威風も相まって見た目以上の巨大さを持って見せる。

 まさしく鬼神。


「一番うまそうなのは、おまえだな」

 何かが顎をかすめる。

 身を投げ出すようにして風雅は避けた。


 否、逃げた。


 牙が、風雅の今までいた場所を通っていた。

 瞬間、衝撃波が陰陽師達を吹き飛ばす。

 風雅もまた転げまわりながらも叫んだ。


「全員逃げろ!! 早くしろ皆ほら!!」


 焦りながらも式神を展開する。


 朱雀青龍白虎玄武。


 あらゆる式神を総動員し、敵を囲む。

 悪鬼は、うっとうしそうに剣を払った。


 死の象徴たるその剣を。


 それだけで、天が割れる、地が裂ける。

 たまらず皆が逃げ出し、残るのは風雅と瑞峰、蘆屋のみ。


「貴方達二人も早く逃げて!」


 しかし二人は首を振る。


「若いものに任せて老骨が逃げるなど許されぬことよ」

「あなたを見捨てては玲陽姉さまに顔向けできませんので」


 二人は術式を展開する。


「応龍!」

「鳳凰!」


 それぞれ龍と鳥は相応な霊力を持って現れる。

 だが、酒呑童子と彼が持つ剣は格が違った。ただ振るうだけで、強大なエネルギーの塊が霧のように消え去る。


 それでも構わない足止めができるのであれば。

 風雅の放った四獣が再び現れ定められた位置につくまでの時を稼げればよかった。


「四行陣(よんぎょうじん)! 破魔血封(はまけっぷう)!」


 朱雀達四獣を正しい位置に置くことで、邪心を持つものを束縛できる、陰陽術の最高峰。



 赤い鬼は、しばらく動き辛そうにしていたが、やがてつまらなそうに鼻を鳴らす。


「何だあ? こんなもんか」


 そう落胆したように呟くと、酒呑童子は地面を踏みつけた。

 それだけで、地面が圧力により赤くなり、吹き荒れる魔障で陣が吹き飛んだ。


 しかし、瞬時に束縛は復活し、酒呑童子を縛る。

 いかなる力を持つ化生であっても、媒体となる霊獣さえ無事なら再び貼りなおされる再生能力を持つ、岩倉風雅にとってのとっておきである。


 それが並の怪物であったなら。


 ここにいるのは霊界からも隔絶された神域の怪物である。


「ん? おお、成程、こうしなきゃならないか」


 納得したように鬼は呟くと、四獣の一体である玄武に狙いを定め、殴りかかる。

 本来ならばどんな力を持った霊獣でも砕け散るほどの一撃。


 すぐさま玄武が霞のように消え、結界が解ける。

 だが残りの三柱から、力の供給が止まらない。

 すぐさま玄武も形を作り再生してしまう。


「んだこりゃあ、すげえ法術じゃねえか」


 酒呑童子は感心したように風雅を見る。


「……そりゃどうも」


 褒められたのにまったく嬉しくない。

 風雅はため息をつきながら酒呑童子を睨みつける。

 本来であれば四行陣、破魔血封を食らった時点で、動くことはできないはずだった。


 あの牛鬼でも束縛できるほどの最高傑作を、鬼は多少体が動きづらくなった程度にしか受け取っていない。

 だが、それもこれまでか。

 酒呑童子が持つ、死の具現が振るわれる。


(ていうかあの剣なに酒呑童子の経歴にそんなのないよねなんか外から飛んで来たしつうかあの剣ヤバくね昔見た天叢雲並に神性感じるんだけどつうかあれ振るわれたら俺)


 酒呑童子は大剣を無造作に振り上げる。

 それだけで予感がする。


 死ぬ。


 風雅はすぐさま瑞峰と蘆屋を両脇から吹き飛ばした。

 そして破魔血封の強度を限界まで上げる。

 酒呑童子が軽く大剣をぐるりと全方向に振り回した。


 それだけで、結界は壊れ、四獣は砕け散り、風雅の体は吹き飛ばされた。

 地面に数度叩きつけられ、意識を失いそうになる。

 だが、それすら許されなかった。


 酒呑童子は風雅の服を掴むと、その顔を寄せた。

 その瞳は好奇に満ちている。


「お前、つええな。あと十年たってれば分かんなかったかもな」


 笑って、だが酷薄に食らいつこうとする。

 だが、風雅もまた笑っていた。


「生き延びたぜ、くそったれ」

「あ?」

 酒呑童子が疑問を浮かべる前に、気配を感じ取った。



 黒い刺突が酒呑童子を襲い、たまらず風雅を離して飛びのいた。

 乱入者は倒れそうになった風雅を受け止める。


「悪い、待ったか」

「お、遅くね?」

「そうか、急いだんだが」


 確かに、酒呑童子が結界を抜け出してから一分も経っていない。

 それでも、何時間にも感じる程の数十秒だった。


「お、お前神殺しか。……にしては気配が弱いな」


 そう言われた釧灘大和は、黒曜石のような黒い瞳を細めて言う。


「……酒呑童子か。所詮は鬼だな。大悪魔ほどじゃない」

「あ? ……おー」


 酒呑童子の額から、血の雫が落ち、顎まで垂れた。


「躱しきれなかったのか、この俺が……」


 あまりの早い一撃に、風雅は全く知覚できなかった。

 しかし、風雅は戒めるように叫んだ。


「待て! まだ俺にもアイツの姿が見えているから」

「まだ一段強くなるんだろ。分かってる」


 霊能の段階まで自身の格を落としてのこの力、もとの神域まで力を戻せばどうなることか分からない。


「つうか親父は!? 化け物は」

「八岐大蛇と戦ってる」


 大和の発言に一瞬固まった風雅は遺憾の意を込めて叫んだ。


「は!? じゃああの剣は!?」

「八岐大蛇の体から出てきた。格で言えば天叢雲と一緒だな」


 風雅は二の句が継げず天を仰いだ。

 最強の鬼が最強の剣を持っている。

 絶望しても仕方がないし、風雅は自身がこの戦いに介入できる余地を根本的に見失った。


「斬り合うから逃げろ。すぐにな」

「はい逃げます! 死んじまうよこんなん! 後はお願いします!」


 そう叫ぶと、風雅は朱雀に気絶した瑞峰と蘆屋を乗せ、飛び上がる。

 酒呑童子はもたもたした一部始終をただ黙って見ていた。


 しばし、にらみ合う。


 静寂に包まれた二人の間を破るように、大和は口を開く。


「……意外と紳士なんだな。鬼の分際で」

「シンシ……? ああ何、勿体ないと思ってな」


 酒呑童子はにやりと笑う。


「折角の楽しい楽しい果たし合いだ。邪魔も無粋もねえ方がいい」


 そう言うと、酒呑童子は剣を振りかぶる。

 そして思いついたように大剣を見つめた。


「名前がねえのも不便だな。この剣の名は、そうさなあ

 大外道(おおほかつみち)」

 

 大和は目を細め睨む。


「安直だな」


 酒呑童子の幼名は外道丸と言われている。 


「うるせえ」


 一瞬の静寂。

 同じ属性の剣がぶつかり合う。

 滅びと滅びの二つの力が、異界と化している地を吹き飛ばした。

 酒呑童子は楽し気に笑う。


「このままでは分が悪いか」


 言うと、その存在が希薄になった。

 否、本来の神界へと自身の在り方を戻したのだ。 

 そうすることで、さらに強大な力を得る。

 天の星々の配置が変わり、地の色が変わる。

 霊地である山々がさらに格が上がり神のおわす地へとかわる。

 南方を飛ぶ風雅は空を見て叫んだ。


「まさか! ここら一帯を神界へ!? このままじゃ京都一帯が高天原(たかまがはら)になっちまうぞ!」


 京都一帯が神のいる地になる。

 すなわち、妖怪のいる次元に人の世が近づきすぎることを意味する。 

 どんな大惨事になるか分からない。

 だが、大和は冷静さを崩さない。


「ならば俺も、水地流の奥義を見せよう」


 そう言うと大和は刀を青眼に構えた。


「水地流に五始三行四対あり」

 

 呟いて、大和は気を練る。

 神界においてなおも確かなのは、振るってきた剣のみ。

 その意気に酒呑童子の瞳が細まる。


 二人の間の空間が歪み、決着の時は近づいていた。

続きが気になる方。この小説が気に入ったという方。




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