神殺しの戦い方
この国に生まれたもので知らぬものなどいないお伽話。
かつて、スサノオノミコトが高天原からこの世界に降り立った。
そこで出会った、怪物に生け贄に捧げられる女性を哀れに思い、スサノオノミコトは一計を案じた。
スサノオノミコトは女性に扮し、大量の酒を飲ませて眠らせると、眠っている間に怪物を斬り捨ててしまった。
ここで問題なのは、日本神話において主神アマテラスの弟であり最強の武神でもあったスサノオノミコトが直接勝負を避けるほどの存在。
それほどの存在が八岐大蛇なのである。
山の麓の開けた場所で、神話にうたわれた大怪物と神殺し二人が激突する。
背丈はまるで摩天楼ほどもある八対の蛇を目の前に、釧灘大和は一瞬とはいえ怯んでしまった。。
日本神話の中でも、ともすればアマテラス以上に有名な怪物だ。
百鬼夜行の主としては、相応しくもあり、格が勝ちすぎるとも言える。
距離にして50メートルは離れている。
山あいに現れる野球場ほどの広い地形。
そこの端と端にいるのに、あまりにも近く感じる。
それがルシファーの分身体など問題にならない程の圧力で、自身を食らおうと睨んでいるのだ。
「大和くん、教えその三だ」
こんな時に、道長は自然体で構え、黄金色の槍を手にする。
「どれだけ相手が強大だろうと勝つ気でいるのが神殺しだ。それだけ忘れなければ何とかなる」
その背中がまるで山のように頼もしく見え、大和は目をみはる。
道長は黄金色の炎を練り上げる。
黄金色の炎が十文字槍の刃先に集まり光輝く。
極彩色の光線が走った。
槍とは世間一般のイメージと反して、本来突くことはほとんどない。
刃先を使い巨大なリーチで広範囲に薙ぐためのもの。
らせん状に振り回された槍が大蛇の首を二本同時に斬り裂いた。
だが、大怪物に動じた気配はない。
傷口から黒い泡がぶくぶくと泡だったと思うと、みるみると再生していく。
八本の首は互い違いに道長に食らいつこうとする。
逃げ場などない、怪獣大の生物からは想像もつかないほどの機敏な動き。
動く圧力だけで十分距離を取っている大和すら吹き飛ばされそうになる。
だが、日本最強の神殺しである岩倉道長は捕まらない。
(片足から炎を噴出させて、高速移動しているのか)
釧灘大和も井上勇美も数年間戦い続けてきたが、自ら出る炎をそのように使ったことは今までなかった。
だが、八岐大蛇はただ噛みつくだけの怪物にあらず。その権能は神にも等しい。
八岐大蛇の八本首から生み出される水流が光のような速さで周囲を制圧し、鼻を裂くような異臭が立ち込める。
八岐大蛇は一説には氾濫した川の具現化されたものと言われる。
そして蛇の持つ毒のイメージ、それが目の前の怪物を作り出しているのだ。
しかし、岩倉道長はいっそ華麗なほどに鮮やかに回避していく。
凄いと心中で唸る釧灘大和。
けれど、この巨大な八本首の怪物に速さで対抗するなど無理な話か。
八岐大蛇は四方八方からすき間なく陣を組み、食らいつこうとする。
逃げ場など、ない。
釧灘大和は成すすべなく貪られる道長を幻視した。
「岩倉さん!!」
思わず叫び、自身の刀に手をかける。
釧灘大和は断じて目を離してなどいなかった。
それは断言できる。
だが、道長が八岐大蛇の背後に立っていたのを見切ることができなかった。
「こんなもんか」
落胆したような道長の声がしんと静かになった辺りに響く。
八本の首がバラバラになって落ちていく。
巨大な首が落ちることで地響きが起き、大和はたたらを踏む。
槍の速度ではない。と、ゴクリとつばを飲んだ。
そんな大和を戒めるように黄金の炎は一層光強く輝いた。
「油断するな」
道長は八岐大蛇への警戒を解かない。
大和もまた違和感に気づく。
八本の首を失ったというのに、その圧力は揺るがない。
それどころか、さらに巨大になったように感じる。
「天叢雲か」
道長は一人ごとのように呟いた。
天叢雲は八岐大蛇の尾から見つかったという剣である。
本物は天皇家に保管されていると言われるがことの本題はそうではない。
「水流や不死性だけではなく、千年国家の神体となるほどの力を持つ剣を生む権能、それが貴様の本質か」
道長の洞察にもはや霧となった八岐大蛇の巨大な体が凝縮する。
返答とばかりにそれは実態化する。
その姿は、地獄が具現化したような青であった。
海の実態化とまで言えるほどの鮮烈な青。
髪の毛のように生える無数の蛇。
鋼鉄を山から掘り出したような頑強な肉体。
そして見つめたもの全てを金縛りにするようなこの世のものとは思えぬ赤い瞳。
遠呂智。
智するものにとって余りに遠い。
慮外なほどに強きもの。
「さっきまでのはわざとか、天叢雲に迫る剣を作り出すための。舐められたものだな」
岩倉は不機嫌そうに鼻を鳴らす。
それに対し、怪物は悠然と答える。
「過去をなぞり力を成すことこそ術の道理。言われる筋合いはない」
言葉を発した。
あまりの知的な声色に呆気にとられる道長。
そしてその剣はこの世のものではない。
黄金に対するほどに昏く眩い闇色の剣。
まるで死の具現とも思える意匠の両刃剣は見るものを圧倒する。
だが、その刃色はあまりに似ていた。
「俺の刀と、同じ……?」
いや、大きさがあまりにも違う。
形状も日本刀と古代めいた両手剣では異なる。
刃渡りだけで二百二十センチは軽くありそうだ。
だが、その刃色は余りにも。
大和は思わず抜刀し、見比べる。
遠呂智はその瞳で釧灘大和の黒い刀を見つめる。
50メートルは離れているのに、深海にいるような圧力を感じる。
「そうか、当代の神殺しに、私やヤツと同じ死の具現を持つものがいるとは、皮肉なもの、いや相応しくはある」
そう一人ごとのように呟くと、遠呂智は剣を振るった。
それだけで草花は枯れ、地は力を失う。
先ほどまでとは異なり、実態化しているのか。
霊能力者の位階に近づいている。
道長は槍を地面に突き刺し防ぐ。
その時、滅びは止まる。
遠呂智の向こう側が死の世界。
道長のこちら側が生の世界。
そう呼べるほどに色濃く隔たる。
間にある木々や草花は悍ましく曲がりくねり、地獄のような様相となる。
「剣道三倍段。悪いが剣で槍には勝てんよ」
道長は虚勢でもなく、本気で言っている。
「それは人の身の話であろう。我らにとって間合いの差など些事にすぎん」
道長が仕掛けた舌戦にこともなげに返す遠呂智。
道長は黙殺して槍を両手に構え、怪物に突きつける。
しかし、遠呂智はそれを見てにやりと笑う。
どこか達成したような笑みを。
遠呂智は弓を引き絞るように振りかぶった。
瞬間、意図を察した道長は叫ぶ。
「大和くん! 風雅の! 酒呑童子の封印まで走れ!」
大和は最大限俊敏であった。
道長の叫びですぐに遠呂智の意図を察した。
遠呂智の剣が、音を切りさき光のような速さで飛んで行った。
風雅達の守る結界の方へ。
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