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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第5章 龍
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龍のために神楽を作ろう

 静かな湖畔で、岩倉風雅が両手を上げる。


「いや、俺は傷を治しただけじゃん! 何で女の子になるの聞いてないよ!」


 そう言って風雅はパニックになったように言う。


「ていうか裸じゃん女の子がそういうカッコするんじゃありません!」


 風雅は上着を脱いで少女の姿をした龍に着せる。


(陽気な奴だな……)


 そう思いながら、大和は勇美によって目元を隠される。


「ふう、助かったわい。おう苦しゅうないぞ少年」


 元龍の少女は風雅の上着を羽織りながら、向き直る。


「さて、水神加賀国乃水分神(みくまりのかみ)と申す。気軽にみくちゃんで良いぞ」

((神ってのはこういうのばっかりかい))


 少女は上着をダボ付きながらも着て、まるでワンピースのように着こなしながら、するりと地面に座り頭を下げる。


 水分の神、日本書紀に名を連ねる水神である。

 その行いに三人も自然と頭を下げる。


「尾張の国から来ました、釧灘大和と申します」

「同じく井上勇美です。よろしくお願いします」

「都より来ました陰陽岩倉家六十八代目当主岩倉風雅です。じゃあみくちゃん。その、急に女の子になってどうしたこと?」


 風雅もざっくりいくタイプだった。


「ふむ、本来の姿では人間と意志疎通できなくての、普段人間と接するときはこの恰好じゃ。もっとも、最近では巫女が来ることもなくなったがの」

「へえ、時代の流れですねえ。ところであなた、奈良が本尊では」


 風雅としては神に対し敬意もあるのか敬語だ。


「ふふ、天乃水分神は大和国の各地で水神の役目を背負っておる。わしは分身の一人といったところじゃ、そこまでへりくだらなくてもよいぞ。わしのことは地方にいる神の一人と思ってくれればよい」


 そう言うと、咳払いを一つする。


「まあ何、おぬしらがあの悪魔めを払ってくれたのじゃろう。やつの呪いのせいでわしも正気を失っておったからな。その姿で巨大な姿でおぬしらを見下ろすほど恩知らずではないぞ」

「それなんですが、水分神さま、お伝えしたいことがあります」


 大和も風雅に習って敬語を使う。


「俺が来た時には、貴方の社を破壊したであろう悪魔はいませんでした。俺は呪いの元である魔法陣を破壊したに過ぎません。

 御身を害そうとした悪魔はまだ生きているかと」


 その言葉に、みくちゃんは顔を曇らせる。


「何と、しかし、わしを呪える悪魔なぞ自分で言うのもなんじゃが相当高位じゃろうからな。それも致し方なしか」


 そう言うと、風雅は顔を上げる。


「ならとりあえず社を修復して、地神であるみくちゃんの力を上げるようにするか。その後俺があなたに神楽を捧げて力を増幅させればいいでしょう」

「おう、それは助かるのう。まあ少し油断したがこれでもわしは一角の水神、そこまでしてもらえばそうそう負けぬから安心せい」

「じゃあ、とりあえず現場検証するか、行きましょうみくちゃん」


 朱雀が体を下げ、少女を乗せる。風雅も朱雀の上に乗り込もうとするが、大和がそれを止めた。


「なあ、悪魔を倒さなくていいのか」

「ああ、悪魔の居所もわかんないし、あんま安請け合いしない方がいいよ。それにいくら悪魔とはいえ、流石に警戒している水神相手には気軽に手出しできんと思うよ」

「そうか」


 確かに神相手に空手形を切って痛い目にあう神話など各地にある。下手なことを言わない方が得策だろう。

 そのように軽く打ち合わせをしたあと、朱雀は空を飛んで行った。




「……これは酷いのう、見事に壊されておる」


 みくちゃんは悲し気に社を見つめる。

 きっと、生きている千数百年の間に色々なことがあったのだろう。

 そんな思い出が壊されたとなれば、無理もない。

 勇美は、辺りに漂う異臭に違和感を覚え、飛び散った緑の異物を見つめる。


「何だこの緑色の液体」

「悪魔の体液だな。人間や家畜の血より高純度のエネルギー源だよ」

「それで陣を描けば龍を呪うこともできるってわけか」

「うーん……」


 風雅は疑問に思うことがあるのか頭を掻く。


「で、これを直せば、水分神の力が増すんだな」

「まあ理論上はそうだね。ちょっと自治体に連絡するよ」


 そう言って風雅は携帯電話を片手に離れた。

 そこで、大和は何とはなしに虚空を見上げる。

 今、何かに見られた気がした。


「お待たせ―。とりあえず市の担当者に言って直して貰えることになった。雨も止んだしすぐ来るよ」

「そうか、ありがとう。何から何まで」

「いや、あとは神楽を作って、みくちゃんの力を増大させるだけだな」


 その言葉に勇美は小首を傾げ、疑問を口に挟む。


「さっきも言ってたけど、神楽を作るってなんなの?」


 その問いに風雅はドヤ顔を作る。


「ふふん、ウチの一家は曲を作って歌を歌うことで辺りを異界にしたり霊獣に力を与えたりできるんだ」


 つまり、風雅が歌うことで、悪魔や神殺しが十全の力を振るうことができるということである。


「へえ、あんた凄いんだね。何か式神だっけ? 放ったりとか」

「ま、これでも当代一を自負してますから」

「……あんた何歳?」

「へ? 14歳だけど」

「マジか、タメじゃん」

「え? 百パー年上だと思ってた。二人とも大人っぽいねー」


 二人の仲良さげなやり取りに、少し嫉妬した大和が咳払いを挟む。


「とにかく、その神楽とやらを作れば当座は大丈夫なんだな」

「そうだね、ただ、色々誓約があって、作曲したり作詞したりの時間があるから一日はかかるね」


 儀式場を作る労力を考えるとそれでも破格なのだろうか。


「分かった。とりあえず俺達は宿に戻るが、お前さんはどうする」

「ああ、まあ野宿のつもりだけど」


 風雅は事もなげに言う。 


「ならウチの宿屋に泊っていけよ。何か他にも悪魔がいる気配がするし」

「ふむ、確かに襲撃を受ける恐れもあるから、固まってた方がいいか。みくちゃんもそれでいいですか?」

「ふむ、苦しゅうない。久々に町に行くというのもな」


 龍は髪をかきあげながら言う。


「じゃあとりあえず下に言って雄大兄に合流するか」

「はいはい、じゃあ朱雀に乗って乗って」


 風雅の式神に乗り込むと、麓まで飛んで行った。




 空中から現れた自分達に井上雄大は驚いた様子だったが、何より裸に上着一丁の少女に驚愕した。


「そんな女の子連れてたら俺が社会的に死ぬわ!」

「ふむ、確かに。とっとと宿に戻るか」

「麗しい肌に……。いや、元は龍なんだから不適切か」


 風雅は手帳にフレーズを書き足していく。


「韻を踏んで、龍が登場する歌詞に、この地の名前」


 普通に作曲しているように見えるが、これで本当にこの龍の力が増すのだろうか。

 疑問に思いつつも、この少年の実力は非常に高いと判断できたので、黙って従う。

 大和はどうしたものかと少女と、成り行きで同行する少年を見て、まあ何とかなるだろうと思い、車の後部座席に乗り込んで目を瞑った。


「ほほほ、車には一度乗ってみたかったんじゃ。出してくれ」

「なあ、あの女の子結局何なんだ」

「龍神です」

「……は?」


 雄大はポカンとしたようだが、すぐに気を取り直し、車を走らせた。

 

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