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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第5章 龍
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ゲームセンター

「お、あれは何じゃ何じゃ」


 龍の声に、車が一時停止する。

 やたらきらびやかなそれは、地方ではよく見る室内遊戯賭博場だ。


「ああ、あれはうん。俺ら子どもだから入れませんね」


 大和が申し訳なさそうに言う。千数百歳に言うにははばかられるが、見た目は十二歳だ。致し方なし。


「何と! 興味あるんじゃがのう」

「ああでもゲームセンターが併設されてるから、そっちならいけなくはないんじゃないか?」


 見ると、隣には確かにゲームメーカーのロゴがでかでかと書かれている。


「げえむせんたあ、アマテラス様から聞いたことがあるぞ! 

 何でもやんきーとやらがたむろして善良な子どもから金を巻き上げるだとか!」

「情報が古いな!」

「こう、下界にお忍びでいったりとかはしないんですか?」

「うむ、基本的には寝ておるからの。それに神はあまり人間とかかわるべきではないからの」

「そうなの?」

「うむ、あまり神と関わり合いにしてしまうと、人間がこ(・)ち(・)ら(・)側(・)に来すぎて戻れなくなるからの」


 というか。と彼女は言葉を繋ぐ。


「そうして戻りきれなくなったのが、お主等神殺しではないのか?」




 そう言われ、勇美が自嘲気味に笑う。


「ま、そうだね」

「あんま関わり合いにならない方がいいのは同意だな」

「うむ、じゃから少しわし今嬉しいぞ、人にこんなに触れ合ったのは久々じゃ」


 そう言って、車のドアを開けようとする。


「いや、何してるんですか?」

「何! これから行く流れではなかったのか?」

「いや、行きませんよ。アナタ着替えなきゃだし」


 少女が出て行こうとするのを羽交い締めする。


「いいんじゃね? 別に」


 勇美の制止の声にまったをかけたのは、井上雄大(たかひろ)だった。


「お前らも偶には遊んでいいだろ」

「まあ確かに、それにみくちゃんの為に曲を作る都合上、色々なみくちゃんの姿を見たいというか」


 風雅(ふうが)もまた賛同する。


 何かその言い方怪しい気がするが本人にその気はないだろう。


「まあ、晩飯までまだ時間もあるしいいんじゃないか」


 大和も賛同すると、勇美は観念したように首を振る。


「ちょっとだけですよ。みくちゃん」

「わーい!」


 そう言って手を振り上げる少女は、見た目相応にしか見えなかった。




 ゲームセンターは幾人もの家族連れや子供たちで賑わっていた。


「うお、うるさいのお」

「ゲーセンってこんなもんですよ」

「うむう、あれは何じゃ! あまい匂いがするのお」


 みくちゃんが指さしたのは駄菓子を掬って落とす筐体である。


「お、興味おありですか」


 風雅と勇美がみくちゃんに近づいていく。


「この空いたスペースにお菓子をやると」

「成程、押し出されてお菓子が出てくるというわけじゃな。やってみたいやってみたい」


 大和が雄大からもらった小銭を渡すと、少女は勢いよくやっていく。


「ほ、ほ、ほー!」

「お、結構落ちましたね」

「みくちゃんセンスありますよ」

「お、そうかのお! ま、わし龍神じゃしー?」


 たかだか駄菓子のクレーンゲームで何を言っているのか。と大和は呆れる。

 水色の髪をかきあげながら、楽しそうにドヤ顔を披露する少女をみると、口にするのは憚られるが。


「もっかいいきましょうぞみくちゃん姫!」

「いや、ここは河岸をかえよう、あっちの方が落ちそうじゃ」

「流石姫! お目が高い!」


 変なテンションになりながら、風雅と勇美は少女についていく。


「お前はいいのか」


 雄大が大和に声をかけるが、大和は苦笑する。


「いや、何かテンションについていけなくて」

「ああ、まああの少年は知らないが、勇美はあの年頃の女の子には思うところがあるんだよ」

「その事情って、聴いても」


 そこで口を滑らしたと思ったのか、しまったという顔をする。


「ああ、まあ後で本人に聞くといい。勇美もそろそろ乗り越えるべき時期だろう」


 そう言うと、雄大は車に戻ると言い残し、千円札を2枚渡して去って行った。




 水分神はその後取ったお菓子を子どもに分けるなどして、瞬く間におやつコーナーの主になっていた。

 その後はシューティングゲームをした。ゾンビものでみくちゃんはキャーキャーと言いながらも正確無比な射撃をしてギャラリーを沸かせていた。

 ホッケーゲームでは、男チームと女チームに分かれたが、手加減をする余裕がないほどみくちゃんの動きは機敏だった。


「負けたら落書きするのか」

「それは羽子板です姫」




 今は女性陣はクレーンゲームの前に陣取っている。


「あれが欲しいぞ」

「姫ー人形取っても置くとこあるんですか?」

「うむ、湖の中に洞穴があってな。そこはわしに与えられた捧げものがあるのじゃ」

「それってどんなのが」


 龍が隠す財宝とかがあるのだろうか?


「うむ、昔は生け贄とかで口減らしの子を持ってきたものじゃがそれは止めさせての。わしを形どった木彫り細工とか染物だとかを奉納されたりした」

「生け贄とかあったんすね」

「うむ、まあそういうのを求める神もいるが、大概そうしたものは人間の信仰が薄れると邪気に飲まれてしまうからな。アマテラス様がそうした神は調伏しておった」


「アマテラスとはなか良いんです?」

「時折来るくらいじゃが、あの方は良く分からない所があるでの、それでも神無月の会合では勇ましき様を見せるからわしら地方の神はみな慕って居るのじゃ」


 その問いにアマテラスの意図が分からなくなる。確か龍は殺してもいいということだったが。

 それとなく手帳に何かを書き込んでいる風雅に尋ねると、何てことないように言う。


「まあ、アマテラスが直々に彼女を助けると角が立つからそういう言い方したんだろう。もし君らが来なかったら多分親父が出てくるし」

「岩倉の父さんって?」

「あれ、知らない? 岩倉道長。一応日本最強の神殺しなんだけど」


 サラっと告げられた事実に大和は目を見開いて風雅を見る。


「まあ親父とか山陰の清良(せいら)さんや東京の興元(おきもと)さんだと手加減できずに殺しちゃうからな」

「え、そうなの?」


 確かに興元の力は大和や勇美を二人掛りで相手にしても戦えそうだとは感じたが、そこまで暴力的とは感じなかった。


「つうか俺驚いてるよ。大概暴れる神に容赦のない人ばっかりだから。君らがみくちゃんを生かそうとするのは」


 その問いに、大和は怪訝な表情になり、答える。


「俺はルシファーには恨みがあるが、他の神にはないからな」

「ああ、ルシファーねえ。最大級の悪魔を相手に恨むってのがそもそも天上の会話なんだけどね」


 食い入るようにクレーンゲームの筐体にかじりつく水分神と、金の瞳をしたあの男がどうしても重ならない。


「例えば、水分神(みくまりのかみ)が今すぐ誰かを殺そうとするなら立ち向かうが、害意がないならほっとくだろ」

「……多くの人間がそうならいいんだけどね」


 風雅は居住まいを正して大和に向き直る。


「いいかい、そもそも神ってのは暴力的な存在だ。それが、調子が悪くなる度危険なことになったら困るって奴はいる」

「だから、問題のありそうな奴は殺処分するって、そりゃ何とも」

「罰当たりだ。無論日本政府の皆がそう思ってるわけじゃないけど、そういう風に考えちゃう人間ってのは一定数いる。それは覚えていてくれ」


 風雅の真剣な瞳に居心地悪くなりながらも、大和が尋ねる。


「それが、お前が言ってた派閥ってやつか」

「そういうこと」

「のう」


 泣きそうな顔をしてきた水分神に二人は驚く。


「クレーン、とれなかった」

「クレーンなんてほとんどぼったくりですよ」

「しょうがないなあ、ちょっと“世界”取ってきますか」


 風雅は肩を回し、クレーンゲームにいく。


「岩倉、行けるのか」

「これでも妹にしょっちゅう強請られるからな、クレーンは十八番よ」

「へえ、あんたも妹いるんだ」

「そ、妹は可愛いんだよ」

「ああ、可愛いね」


 勇美と風雅の会話に違和感を覚えるが、それは後にしようと大和は首を振る。


「ふんふん、何だ簡単じゃん」


 そう言うと、風雅はコインを入れ、見当違いのところにクレーンを突き刺すかにみえた。

 クレーンが引き抜かれたことで人形が押し出され、取口に落っこちた。


「お。2個とれた。一個貰っていい? 妹へのお土産」


 女性陣はポカンと風雅を見やる。


「?あの」

「「すげー!!」」


 そう言われきゃっきゃっとはしゃぐ二人に、風雅も苦笑する。


「なんじゃその技術! 神か!?」

「神様に言われても」


 風雅も女顔のため、何となく3人の女子がはしゃいでるようで、注目を攫って行った。

 大和はもやもやしつつも、拍手をした。

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