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僕と異種族な君の青春日誌<前編>  作者: 有坂まの
二年生第二章
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第32話 無意識の甘え

 人間を――別の種族を、弱い種だと見下す思い。

 それはかつて、リーフェルトの中にもあった。


 短い寿命。脆い身体。

 陽人のこと。人間ではない別種族の歩花のことを、出会った最初はただ侮っていた。



 そんな自分を恥じる気持ちが、

 自分の役割を果たさねばならないという使命感を煽り立てている。



 強く、守るべきもののために戦える陽人や歩花たちがずっと羨ましかった。

 更には星野尾兄妹に確固たる意志があって今まで戦ってきたことを知り、

 ミリーたちインキュバスらと対している間、リーフェルトは一人、弱い自分を寂しく思った。



 自分の力で立って、考えて、行動しなければ。


 そうしなければこの先自分たちの同胞を守ることも、あの兄妹を説得することもできない。




 コウモリへと身体を変えて、彼は夜の空を舞う。


 人間の血を夜な夜な吸い尽くす、例の同胞の影を追って――。

















<……リーフェルトの奴さ。手伝わなくていいのか?>

<本人がまず、自分の力でなんとかやってみたいと言っているんだ。やらせてみよう>




 同刻。

 木塚小夜の家周辺を、歩花と陽人が二人でガードを固めている。


 ヴァンパイアという厄介な種族を相手にするなら一人では無理だろうと、

 彼らは久々に組んで行動していた。



 辰弥の姿をした歩花は、暗器であるサキュバスの尻尾で。

 陽人は聖書を片手に敵の気配を探っている。




<だからって。修学旅行休むってなあ……>

<僕たちも、修学旅行と小夜の命どちらを選ぶかと言われたら、後者を選ぶだろう?

 彼にとってとても大切なことなんだ。今回のことは>

<……そう、かもしれないけどさ>

<彼が成長する良い機会だ。彼自身もまたそう思っているんだろう。

 結果がたとえ望んだ方向にいかなくてもね>



 特にリーフェルトは、今まで家族に流され生きてきた自分を恥じている。

 そんな彼だからこそ、自分なりに考えて、精一杯やること自体に価値がある。



<歩花さ。本当はお前も、修学旅行キャンセルしたいんじゃねえか?>

<……たった数日だろう?

 キャンセル料だってただじゃないし、親の脛をかじっている立場で、学校より男を選ぶなんてそんな馬鹿なことできるはずがないだろう。

 僕の家は、彼の家ほど裕福じゃない>



 本当は、恋人として支えてあげたいけれど。



<やれるさ。彼だって男なんだから>



 修学旅行から帰って来て、彼が望むときに傍にいてやればいい。



 別クラスで別行動だとしても、正直心寂しくはある。

 折角の修学旅行なのにもったいないと思っても、彼が決心したことに簡単に口出しし、反対することなどできない。




 笑って、背中を押してやる。

 自分にできるのは、それしかない。



 歩花は口を閉ざし、目を伏せた。













 二日後、日曜日。


 狐姿の母と二人、昼に刑事もののドラマなど見ながら和室でくつろいでいると、家のチャイムが鳴り顔を上げる歩花。



「はい」



 容姿を男子の姿に変えインターフォンで来客を確認すれば、女性の声が返ってくる。



『辰弥君いらっしゃるかしら』

「……はい?」



 客の方から自分の名前が出てきて、

 歩花は戸惑い目を丸くしたが




『リーフェルトの姉です』

「……あ。えっ? ……あっ―――はい……!」




 リラックスしていた頭の中を無理矢理フルに稼働させ、

 何故この家がわかったのだろうと不思議に思いながら、突然の恋人の姉の来訪にばたばたと慌てて玄関に出た。




「御機嫌よう」

「お、お久しぶりです……!」




 日傘をさし、サングラスをかけた、夏休みのときのようなハリウッド女優のような佇まい。


 滲み出る優雅さと貫禄に圧倒されながら、縺れた舌を懸命に動かし挨拶を返す。



「リーフェルトが家にいなくて暇だったから、貴方の所に来ちゃった」

「は、はあ……」

「あの子が帰ってくるまで、一緒にお茶でもどうかしらン」

「あ――えと、今から支度しま……あっ、どうぞ! 上がって待っていてください」



 ヴァンパイアが陽射しを嫌うのを思い出して家の中を示せば、

 パルディローズは「ありがとう」とニッコリした。








 元の姿で、失礼のないようにできるだけ清潔感のある服に着替え、

 髪の乱れを急いで直し、歩花はパルと一緒に外に出た。


 電車の二つ先の駅近くにある格式高い喫茶店に入り、

 二人はコーヒーとケーキを注文する。




「一度、貴方とは女二人でお話してみたかったの」

「そう、ですか……」

「硬くならなくてもいいわ。リラックスして頂戴」

「はは……」




 笑いながら、「無理です」と、心の中できっぱり言う。


 女二人で話したかった――とはどういうことだろうかと、ちょっぴり勘繰ってしまう自分がいるだけに。



 彼女の弟のリーフェルトが結婚したいといっている恋人、二階堂歩花という自分。

 弟にふさわしい女かどうか見極めたいからとか、そういうことだろうか。




(王女だからな……。……待てよ。この人は一体いくつなんだ――?)




 リーフェルトをそのまま女性にして大人びさせたような、一見は二十代くらいの若い淑女に見えるが。



「貴方から見て、学校のあの子はどう? 特に成績とか」

「……クラスは分かれてしまいましたが、元気にやっているみたいです。

 勉強もすごく頑張ってますよ。最近、一位も取ってますし――」

「そう。あの子と上手くやれてる?」

「ええ。……まあ」



 コーヒーカップの取っ手に華奢な指を絡ませ、優雅に傾けるパルは、

 まるで一枚の絵画のように美しく、目を奪われる。


 彼女のように教養の行き届いた女性たちがリーフェルトの傍に沢山いるのだと思うと、

 落ち着かない。


 果たして、何の魅力もない自分なんかでいいのだろうか――。



「そういえば、旅行に行くそうね」

「……?」

「あの子の部屋で見つけたわ。“ナントカのしおり”、とかなんとか表紙に書いてあったけど」

「……ああ。修学旅行の」

「ええ。多分それだわ。

 キョート、ナラってところに行くのよね。カメラを忘れないようにあの子に言っておかなきゃ」

「……リーフェルトさんは――」



 そこまで言いかけて、口を閉ざす。


 もしここでリーフェルトが修学旅行に行かないことを自分が言えば、姉であるパルは、絶対に「どうして」と聞いてくるだろう。



(陽人にああは言ったけど……修学旅行なんて、一度きりだし。できれば来てほしいけれど)



 弟が決意したことに対して一体パルはどういった行動をとるのだろう。

 彼がちゃんと意志を持って決意したことを、鈍らせるような真似をしたくもない。



「――……」



 どちらがリーフェルトにとって良いのか。歩花にはわからない。

 だけど、しかし、どうすればと頭を悩ませる弟の恋人に、首を傾げるパル。



「あの子のことで何か悩みでもあるのかしら」

「いえ」

「ふうん?」

「そういえば、パルさんは何故こちらに?」

「……直接、話を聞こうと思ってね」

「?」

「ヴァンパイアハンターの双子たちのことよ。

 貴方、連絡取れる?」



 パルの言葉に、少し考えるような顔になる歩花。



「……連絡先は知ってますが――」

「彼らが拒むなら、無理に会ったりなんかしないわ。ただ、興味があるだけよ」

「はあ……そういうことなら、連絡してみます」

「OKもらえたらリーフェルトに連絡して。五日ほどこちらに滞在する予定だから」

「わかりました」



 それから間もなくケーキを食べ終えても、

 胃を休めながら、女同士の会話は続く。



「そういえば、貴方の家にいた貴方のお母様は夢魔ではないようだけれど」

「ええ。今同居しているのは育ての親です」

「本当のご両親は」

「物心つく前に、事故で――」

「……そう。失礼なことを聞いたわね」

「いえ」

「義理のお父様は人間かしら」

「はい。退魔師として日本各地を回って稼いでいます」

「成る程。父親が師というわけね」

「はい」

「貴方を産んだご両親は? 何をなさっていたのかしら」

「二人も、名の知れた退魔師だったそうです。育ての両親とは二人とも良きライバルであり、友人関係だったとか」



 サキュバスだった実母は正体を隠しながら、実父のパートナーとして活躍していたそうだ。

 ちなみに実父は、陽人が今持っている聖書をかつては使用していた。


 あの聖書は人間なら誰でも使えるというわけではなく、どうやら適性というものがあるらしい。

 実力があるにも関わらず、義父である左一にはその適性はなかった。



「……貴方を育てたご両親は、貴方と弟のことは認めてる?」

「認めているというより、リーフェルトさんとどうなりたいかは、私が決めることだと」

「そう。じゃあ、こっちに来るのね」

「……それが。あの。なんというか」

「?」

「私でいいのかって、考えてしまって」



 ハッキリとしない歩花に、パルは首を傾げる。


 パルの灰色の瞳の中、

 歩花は人差し指で頬を掻いている。



「……私よりも、教養の行き届いた女性が沢山周りにいるのに、私なんかでいいのかって。

 リーフェルトさんが後悔しないかって、その……」

「――……」



 パルは暫し、少し驚いたように瞳を開いていたが。


 すぐに整った赤い唇を溜め息で割って、



「貴方って……」



 呆れた眼差しを目の前の少女に向けた。



「弟もそうだけれど、貴方も随分な甘ったれね」

「……! 甘ったれ――」

「そういうことを言えるのは、あの子に今愛されているという心の余裕があるからよ」



 「いい?」とパルは頬杖を突いて続けた。



「いつまでもぐずぐずしていないで、はっきりどうなりたいか伝えないと。男なんて、不安がってすぐに他の子に行ってしまうのよ」

「は――はあ……」

「余裕ぶって、甘ったれている暇なんてないの。

 自分の気持ちと向き合ってみて、本気であの子を誰にも渡したくないと思うなら、死ぬ気で頑張るの」

「……」



 恋人の姉の科白に、歩花は黙って考え込むような顔になっていく。


 『甘ったれている』『愛されているという心の余裕』――確かにそうかもしれないと、深刻な気持ちになる。



「簡単に出せる答えではないでしょうけれど。もっと焦りなさい。

 言っている意味、わかるわね?」

「……はい」




(すぐに他の子に――か……)




 歩花は小さく唸りながら、短い返事を返した。













キャラクター図鑑



二階堂歩花/にかいどうあゆか(偽名:二階堂辰弥/にかいどうたつや)


 リーフェルトの恋人。二年生になりリーフェルトと別クラスになってしまった、南実先高等学校二年B組生徒。

 退魔師にして、夢魔と人間の混血だった少女。リーフェルトを助ける際彼に吸血されたことで人間から遠ざかり、夢魔の力に加えてヴァンパイアの力を得た。

 ほとんどが固定の性別を持たず、子供を持つことができないと言われている夢魔族だが、

 彼女は固定の性別を持ち、子供を産むことができるサキュバスの血を色濃くひいたハーフサキュバスである。子供を産むことができるサキュバスは血が濃いほどに夢魔の世界ではレアとされているため、他の夢魔たちに常に狙われている。性別を変えられる能力を使い、普段は男子とし過ごしている。

 退魔師の師である義父と、高い霊力を持つ狐の義母の三人家族。悪魔と呼ばれる者たちを今まで散々相手にしてきたせいか、疑い深く、心を許していない相手にはどこまでも容赦がない。勝利のためなら手段を選ばず、小細工や騙しなど、女らしい強かさを見せる。が、完全に心を許した相手にはめっぽう弱く、特に初恋で初恋人のリーフェルトに対してはデレまくり。傍から見ればリーフェルトが彼女に一方的にぞっこんのように見えるが、実は主導権を握っているのは彼氏側で、首輪を付けられているのは彼女のほうだったりする。


 締まるところは締まった身体をしていて、バストサイズはF。サキュバスながら身持ちの堅い少女。

 好きな食べ物は煮物とポテチ。得意料理も煮物が多い。だがポテチは毎日食べているわけではなく、軽くなく重くもなく、戦闘に適した自分のベストな体重をキープしている。

 能力は麻酔針、幻覚、誘惑、意識干渉、感覚・イメージの共有などの精神攻撃を主とする。ヴァンパイアの能力も多少使えるが、メインの血はサキュバスの方なので成熟したヴァンパイアたちと同じ強い効果は期待できない。




メイン武器↓


『サキュバスの尻尾』

 自衛のため、サキュバスだった歩花の実母がかつて使っていた武器。元々は鞭だが、背中に取り付けた専用の装備で柄を固定し暗器として扱っている。蛇の妖怪の祝福を宿した魔石が使われており、鋭い先端には強烈な麻痺毒が仕込まれている。

 歩花の魔力を魔石に乗せることで意のままに操ることができ、敵の拘束、探知も可能。


『大蟻の大槌』

 実母がかつて使っていた武器。大蟻と呼ばれる妖怪たちと心を通わせ契約し、“契約者”と“その血を引いている者”のみが使用可能となっている。『小さき者と嘲笑ってきた者たちの重さを思い知るがいい』という世への恨みが込められており、持ち主の魔力を上乗せするほど、相手が感じる重みが増すという仕組み。実際の重さは大したことはない。

 人間が触れれば、恨みの大合唱が延々と聞こえる呪われた代物。



サブ武器↓


『退魔師の札』

 結界を張ったり、一時的に相手の動きを封じたりできる基本的な退魔道具。

 魔の祝福を受けた魔石と一日密封させることで特別な力を付着させることも可能となる。


『狐の札』

 義母、二階堂茜の力の祝福を受けた札。

 火力は微々たるものだが狐火を起こしたり、相手に幻覚を見せたり、化かすことができる。


『聖水』

 聖の力の祝福を受けた水。人間にはただの水だが、魔の血をひくものたちが触れれば効果抜群。(歩花自身も十分扱いに気をつけなければダメージを受けてしまう。)

 直接敵にかけたり、水風船と歩花の麻酔針を組み合わせ奇襲をかけたりと使い方を応用している。

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