第十三話 敵を治療してしまいました
「わあ〜、やっぱり外は気持ちいいな〜」
休憩の合間を縫って王宮から抜け出して、人気が少ない小道を散歩していた。
王宮の中では感じられない新鮮な空気を肌に感じて、大きく息を吸って吐く。
それだけでも良い気晴らしとなっていた。
風を感じながら歩いていたせいで、ミヤは前をよく見ていなかった。
気がついた時には薄暗い小道に入り込んでいて、血生臭い匂いが微かに漂っている。
慌てて引き換えそうと後ろを向いた瞬間に、何者かに肩を掴まれた。
「おい、嬢ちゃん。こんなところでなにしてるんだあ?」
頬に傷がある怖そうな男性が、にやりと不気味に笑う。
「ごめんなさいっ…。道に迷い込んでしまって…」
びくっと体を震わせながら、ミヤは男性に答えた。
「迷い込んだ…ねぇ。まあ、いいか。この辺じゃあ見かけない顔だなあ?もっとよく顔を見せてくれよ」
男性がミヤに顔を近づけてくる。
咄嗟に顔を下に向けると、視界の先に血まみれの男性の左足が見えた。
「怪我してますっ!!見せてください!」
怪我を見た瞬間に怖いとか危険だとかいう感情が吹き飛び、口から声が出ていた。
急に真っ直ぐ目を見てきたミヤに、男性は一歩下がる。
「な、なんだおめえは…?」
「すみません、少し魔法を使わせてもらいます」
「あ?マホウ…?んだそりゃ…」
「ヒール!」
……………………。
(騎士団の皆さん意外にも反応しないか……)
ミヤは男性に近づいて膝をついた。
「お、おい……。なにして……」
男性が話し終える前に、ミヤは両手で左足に触れる。
ぽわっ……、ぽわっ………。
男性の左足が小さな光を放ち、血が止まっていく。
「これで大丈夫ですね。怪我には気をつけて下さいね」
ミヤは左足を確認して、すくっと立ち上がる。
男性は痛みが引いた足を見て驚いた表情をした。
「なあ、お前は何者だ?このあたりじゃ見ない顔立ちだよな?行く当てがねえなら、俺たちの国に来ねえか?」
ミヤは男性にがっちりと両肩を掴まれて逃げ場を無くす。
(ど、どうしよう…!早く帰らなきゃ…!)
「私は帰る場所はありますので…!」
両手をぶんぶんと振って否定のジェスチャーをすると、男性は大口を開けて笑い出す。
「はははっ…そんな嫌そうな顔しないでくれよ!!わあったよ!出直すわ。だけど、次お前に会ったら掻っ攫うからな!!」
(か…掻っ攫う!?異国に連れていかれるの!?)
「ごめんなさい…!この国から出るつもりは…」
ミヤがそこまで言うと、男性は顔色を変えた。
「お前はこの国の味方だって言うのか?」
「えっと………」
(そうです…と言うべきなのかな…?)
ミヤが返答に迷っていると、ふいに数人の足音が近づいてくる音がした。
ドタドタドタドタッ!!!
「副団長!!そろそろ出国の時間です!!」
男集団が小道に入ってきて、一気に道が狭くなる。
よくよく見れば全員が黒いコウモリの様なマークがついた服を着ていた。
男集団がミヤを視界に入れると表情が一変する。
「ふふふふ副団長!?この女は…!?」
「副団長ーーー!!!遊んでる場合じゃないですよ!!」
「お前らうるせえ!!!この子は俺の足を治してくれたんだ!!騒ぐんじゃねえ!!!」
副団長と言われた男性の大声に、後から来た男集団は一斉に黙り込む。
今さっきまでの騒がしさが嘘のように静まり返る。
「な、なおし…た…?」
男集団の一人が唖然とした顔でぽつりと言葉をもらす。
「ああ、そうだ。なあ嬢ちゃん、もう一回こいつらにも見せてくれよ!さっきのやつ!」
(さっきのやつ…?ヒールかな…?)
「…わかりました。皆さんにもやらせていただきます」
ミヤは男達に囲まれる中、中心で両手を広げた。
全員の視線がミヤに集まる。
「……………エリアヒール!!」
……………………。
……………………。
(全員固まってる……!?)
騎士達みたいに顔が赤くはなっていなかったけれど、全員がぼーっとした顔で固まっていた。
ミヤは自分で魔法を唱えておきながら、何が起こったのか状況が読めないでいた。
それでも逃げるには今しかないと判断し、全速力で歩いてきた道を走り抜ける。
「ごめんなさいっ!!!」
固まる男達の耳に遠ざかっていくミヤの謝る声だけが聞こえていた。
◇◇◇
王宮まで全速力で帰ってくると、門の前には見知った人物が立っていた。
ミヤの姿を見つけた瞬間、信じられない速さでミヤの方へと走り込んでくる。
逃げる間もなく一瞬で抱き締められていた。
「ミヤ……!何処二イッテタノ!?」
バキルガムがぎゅうぎゅうと力強く抱き締めてくる。
苦しさのあまりに、バキルガムの背中を叩く。
それでも一向に抱き締める力が弱まる気配はなかった。
「バキ…?探してくれてたのですか?」
バキルガムの胸板に押し付けられている顔をなんとか動かして、声を出す。
「休憩中…ミヤニ会イニイッタラ…イナクテ…」
泣きそうな声で一生懸命に話すバキルガムの背中に、ミヤは腕を回して抱き締め返した。
「ごめんなさい………」
「ミヤガ………イナクナッタト…思ッタ…!」
「バキ……」
「怖カッタ…!」
「ごめんなさい……。今度はちゃんと行き先を伝えます」
バキルガムの背中に回した手で、子供をあやすようにトントンと優しく撫でる。
「ミヤ……。ミヤ………」
「はい。なんですか…?」
「ミヤト一緒二イタイ…ズット…」
「ふふっ…そうですね」
バキルガムの腕の力が徐々に弱まっていく。
その間もずっと、ミヤはバキルガムを抱き締め返していた。
「ミヤ……ナニシテタノ?」
バキルガムは抱き締めた手は離さないまま、甘えるように頭をミヤの肩にすり寄せる。
「えっと…少し散歩をしてたら…、怪我している人を見つけてしまって…。つい助けてしまったら、遅くなってしまいました…」
隠してもしょうがないと思い、包み隠さず話す。
「ミヤハ優シイ…。デモ、キヲツケテ…」
抱き締められている腕の力が、一瞬だけ強くなった。
「ドンナ人…ダッタノ?」
「黒いコウモリの様なマークの服を着た人達でしたよ」
「エ……」
バキルガムが勢い良く顔を上げてミヤを見た。
瞳が大きく揺れて動揺しているのがすぐにわかる。
「どうしたのですか?」
「ミヤ…大丈夫ダッタ!?ナニモ、サレテナイ!?」
バキルガムは慌てた様子で抱き締めていた手を解き、ミヤの全身をくまなく見回した。
「大丈夫でしたよ?バキ…どうかしました?」
「ソレハ敵ダ!!」
「…………………えっ?」
(あの人たちは敵だったの…!?)




