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最後の灯
あの夜のことを、今でも忘れられない。
魔法都市グレフィアの動力炉が止まりかけていた。
炉の燃料は魂の欠片。
かつては罪人や捕虜のものが使われたが、今は志願者がいなかった。
市長が広場に立ち、静かに告げた。
「誰か一人の魂を捧げれば、この街が三十年もつ」
広場は静まり返った。
私は当時、十六歳の見習い魔導士だった。
師匠のマリウスが、ゆっくりと手を挙げたのを見た。
「先生、やめてください!」
思わずそう叫んだが、師匠は振り向いて静かに笑った。
「お前にはまだやることがある。私にはもうない」
師匠の手が一瞬だけ私の頭に置かれた。
温かかった。
翌朝、炉には新しい光が灯っていた。
街の人たちは誰も知らなかった。
あの火が、誰の命で燃えているかを。
私はそれから五十年、魔導士として生きた。
炉の前を通るたびに、足が止まる。
命は燃やすためにあるのではない。
でも時に、命は誰かの未来の灯になる。
師匠はそれを、最後の沈黙で教えてくれた。




