前へ目次 次へ 11/17 百回刻んだ名前 エルフの里では、葬儀が稀だ。 それでも今日、一人の人間の女が眠りについた。 彼女が里に迷い込んだのは百年前で、まだ幼い子供だった。 ともに遊んだ仲間たちは、今も変わらぬ若い顔で棺を囲んでいる。 誰も涙を流さない。 なぜなら、エルフにとって人の一生は、短すぎて泣く間もないからだ。 だが老いた族長だけは、枯れ木のような手で、静かに地面へ文字を彫り続けていた。 彼女の名前を、百回、刻んだ。 それが、エルフの泣き方だった。