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女性恐怖症を克服したおっさん、修行明けに貞操逆転異世界にブチ込まれる  作者: 歩く魚
女王/聖女

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49/51

成長

 イスタロテの姿がかき消えた。

 全身に力を入れる一瞬だけは捉えることができたが、次の瞬間には存在が無になる。


「――見えたか?」


 背後から声が聞こえた。

 振り返ると、胡座をかいて余裕そうな笑みを浮かべているイスタロテ。


「なっ――速い。私の目でも追い切ることができないとは」


 驚愕を声に乗せたセラフィーネ。

 その反応も当然だろう。


 これまでただの変態にしか思えなかったイスタロテが、突然高いパフォーマンスを発揮したのだから。


「私たちは光の魔術を身につけている。この意味が……分かるか?」

「分かんないです」


 即答すると、イスタロテは「そ、そうか……」と黙り込んでしまう。

 仕方なくエルネスタの方を見る。


「ええと……どこからがよろしいですか?」

「バージルはその、自分の拳一つで戦ってきた男でな。魔術に関する知識はまるでないと思ってくれ」


 いい具合にセラフィーネがフォローしてくれた。


「それでは手短に……魔術は基本的に、その方の素養で使える属性が決まっています」

「私であれば炎属性だな。戦いで使うことは少ないが」

「実は私は風属性の適性があります! その日の風の強さとかを確認するくらいですけど……」


 セラフィーネが魔術を用いないのは、剣での戦いに集中できなくなるからだろう。

 俺と同じで魔術の素質がないと思っていたリーネットは、実は魔術を使えたのか。

 

 もしかすると、基本的に誰もが適応している属性があるが、この世界では未発展で使わない選択肢が強いのかも。


「その中で、光と闇の属性は使えるものが限られています。例外として、魔族は闇属性への深い理解が、私たちのような神に仕える者は後天的に光属性のご加護が得られやすいのです」


「つまり……神様から魔術の素養を与えられいるってことですか?」

「そうなります……ですが」


 言葉の先にいたのはイスタロテだった。


「……そうさ、私はメルンを信仰するのをやめた。だが魔術の腕は衰えてすらいない。この意味がわかるか?」

「…………」


 エルネスタは何も返さなかった。

 いや、返せなかったのか。


 本当に神の力で魔術が使えるようになったのであれば、背くことで剥奪されるはず。

 それなのに、いまだにイスタロテが光魔術を使えるということは――。


「まぁいいさ。この世にはまだ、解明されていないことが山ほどある。バージルのような屈強な男が存在していること自体が謎でもあるんだからな。

 ……話を戻そう。私は光魔術を応用することで、人の認識を超えた速度で動くことができる。お前に勝ち目はないってことさ」


 イスタロテが勝ち誇ったように首を傾げる。


「それは、やってみないと分からないんじゃないですか?」

「はっ、威勢が良いな。なら試してみよう。安心しろ、打ち身程度で済ませてやるさ」


 再び四足になるイスタロテ。

 次の瞬間――彼女と世界の境界線がなくなった。


(男は、いつ何時も堂々と、毅然と全てを受け止めるべし)

 

 胸の中で唱える。


「私がどこからお前を見ているか分かるか!?」


 俺の周囲を凄まじい速度で、なんなら魔術で足場でも作って飛び回っているのだ。

 四方八方から声が聞こえてくる。


(男は、いつ何時も堂々と、毅然と全てを受け止めるべし)


 肺の中の空気を全て吐き出す。

 確かに、今の俺にはイスタロテの姿を見切ることができない。


 だが、戦いとは一点の比べ合いにあらず。

 相手の思考や癖、周囲の空気すらも判断材料となる。


 俺が今まで修行をしていた「あの部屋」では真の意味での実戦は行えなかった。


 内向的な対話だけでは経験できない、己の想像を上回る強敵との対峙。

 それが俺に更なる力を与えてくれる。


「一撃で決めてやろう――喰らえッ!」


 空間が揺れた。

 俺は目を閉じて、ただそれを全身で感じる。


 そして、風を受けて自由に舞う羽のように、無心で――イスタロテの拳を掴んだ。


「――ッッ?!」

「心が乱れた」


 軽く足払いをかけると、イスタロテはコマのように空中に投げ出される。

 俺は彼女の首と膝裏に手を添え、優しく地面に下ろした。


「……よし。俺はまだまだ強くなれる」


 今ならルメリアの速度にも付いていけるだろう。

 自分の伸び代に満足していると、周囲が静まり返っていることに気がつく。


「あの、どうしたんですか……?」


 舐めていた相手に転がされたイスタロテはもちろん、エルネスタやリーネットまでが呆けていた。


「……うん、さすが。さすが私の夫は強いな」


 ただ一人だけ、セラフィーネが熱っぽい視線を送ってくる。


「いや、さすがなんですけど……バージルさん、もっと強くなってませんか?」

「強い男性というのは真実だったのですね……」


 続けて、ようやくリーネットとエルネスタが口を開いた、

 普通に戦っただけだが、やはりこの世界はやりにくい。


「……っ」


 わずかな反応。

 視線を落とすと、イスタロテがようやく事態を飲み込んだようだ。


 俺に負けたことがよほど悔しかったのか、彼女は顔を真っ赤にし、わなわなと震えながら立ち上がった。


「そ、想像以上だ……私の想像する神をも超える、存在かもしれない」

「言い過ぎじゃないですか? それより、これでエルネスタさんを諦めてくれますか?」


 この人たちは、どうにも悪人とは思い切れない。

 穏便に済ませられれば十分なんだが。

 イスタロテは、ふっと笑った。


「負けは負けだ。今日のところは手ぶらで帰るとするさ」

「良かったです」

「手ぶらというのは、何も持たずにということだ。だがバージル、お前が望むなら、本当の意味での手ブラを――」

「早く帰ってください」


 どうしてこの世界の人たちは真面目な顔でセクハラしてくるのか。

 ともあれ、イスタロテは部下を引き連れて帰っていった。

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