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初めての野宿、魔法のテント

鮮やかな緑色の草が、僅かに揺れた。青い草の臭いが、風に乗って漂ってくる。踏み固められた土の道には、馬車の(わだち)と馬の(ひづめ)の跡が残っている。道の端の草は、少し(しお)れていた。ジゼルが前を歩いている。(れん)(かな)の手を引きながら、その後ろから着いていく。馬車が前から砂煙を上げて走ってきた時は、ジゼルに促されるより先に、蓮が道から逸れて草原へと入った。そんなことを、何度か続けて。うっすらと見えていた山々が、少し近くなってきた。山の向こうに沈みかけた太陽が、オレンジ色の光を放っている。ジゼルが立ち止まって、草原を四角く区切るように、杭を刺していった。


「疲れただろう? 今日はここまでにしよう」


そう言って、ジゼルは背負っていた荷物から、淡く光る小瓶を取り出した。瓶の中身は乳白色の液体で、ジゼルはそれを杭と杭の間を繋ぐように垂らした。無臭の液体は、瓶から出た後も、仄かに光り続けている。


「Murus dei adiuvat amissos《人を守護する祝福の壁よ。迷い子に、一時の安息を》」


ジゼルが呪文を紡ぐと同時に、光が天へと伸びた。大きな白い光の柱。手を伸ばしても決して触れられない柱の中に、ジゼルが入っていく。蓮は逡巡(しゅんじゅん)している華の背を押して、柱の中へと足を踏み入れた。白い光が眩しくて、先に入ったはずのジゼルの姿どころか、隣りにいるはずの家族の姿も見えない。


「華。絶対に、手を離さないでね」


蓮に言われて、華は繋いでいた右手を、強く握った。そして、左手で姉の手を包むようにした。自分の手すら、自分から離れてしまえば見えなくなる。だけど、繋いでいる手は、自分がよく知っている人の手だと確信していたから。進んでいる方向も分からなくても、華はその手があるというだけで安心出来ていた。そうして、どれくらい歩いたか。不意に、目の前の光が弱まる。そこは、真っ白な部屋だった。正面とその横の床には、柔らかい布が重ねて敷いてある。ジゼルが部屋の中央で立っていて、蓮が華の横にいた。


「寝る場所は、近い方がいいだろうからな」


そう言って、ジゼルが右端にある敷布を、左端の敷布にくっつける。そこが姉妹のための寝床だということくらいは、華にも分かった。ジゼルは空いた左端のスペースに向かって、その壁に手を差しこんだ。そして、壁から小さな棚を引き出す。その下には机、その周りには3つの椅子。壁と同色のそれは、硬いのに押しこむことができるような、そんな不思議な感触だった。


「さあ、夕食にしよう」


ジゼルがそう言って、荷物を棚に置く。双子は勧められるまま、椅子に座った。

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