第33話 模倣
第33話 模倣
翌日、元気を取り戻した一行は
ベルクショウギを出発した。
「よっしゃー!行くぜ!」
宗也が気合いを入れる。
一行はライズライス(元新潟県)に着いた。
「ここ、ライズライスは昔から稲作で有名な
地域だ。今反Graveコミュニティで
行なっている稲作はここの技術を
模倣している。」
上藤は淡々と説明する。
「へぇー。」
皆が感心する。
「米はGraveの食べ物だったんですか?」
巳波が聞く。
「そもそも稲作は何百年も昔から存在していて
Graveのオリジナルのものという
わけではない。米に対して嫌悪することは
ないよ。」
察して丁寧に答える上藤。
「なるほど。」
いつも通り宿屋にて一晩過ごし、ハルスへ
向けて歩く。
「そろそろ移動手段変えませんか?」
元々は敵地にいる為、目立たないようにと
歩きでいたが結局目立つので別にいいのでは
無いかと鷹斗は思った。
「うーん、そうだね。でも何かあるかな?」
上藤も考えてはいたが答えが出てない。
「この前のチャリオッツを改良しては
どうですか?」
翔師のソウルスキルの事だ。
「なるほどな。宗也、出来そうか?」
上藤は迷う事なく宗也に頼む。
「やってみますね。
植物操作!
チャリオッツ!」
ドン!
植物で出来ているとは思えない程
完璧なチャリオッツが完成した。
「おお。いいね。今度はこれを多人数用に
改良できるかい?」
その後も上藤の指摘がちょこちょこあったが
なんとか完成した。
「これはもしや馬車なんじゃ…?」
鷹斗が疑問を抱くのも仕方ないほどに
チャリオッツを元にして作ったとは思えない
立派な馬車が目の前にある。もちろん多くの
荷物や人を乗せられる仕様だ。
「そう言えばこの馬ってどうなってんの?」
鷹斗が発言こそしたが皆も疑問に思った
ようだ。この馬車には馬車と言うからには
当然馬がいる。しかし、この馬は植物で
できている。だからおかしい。
「この馬は植物によるほぼ完全な
模倣だ。植物なので鳴く事は
出来ない。それ以外は基本出来る。」
宗也が自慢げに言う。
「いやいや、これは凄いな。宗也、これは
かなり高度なソウルスキル技術だぞ?」
上藤が目を丸くしながら褒める。
「そうですね。馬の動きは全て俺が
やってるのでこういう馬特有の動きは
疲れると出来ないですね。」
馬の独特な顔の揺れや呼吸時の身体の振動
などかなり細かい仕草を見せながら答える。
「え?これ全部宗也がやってるのか?」
鷹斗が驚きながら聞く。
「ああ。だから通常の馬じゃあり得ない
動きもやろうと思えばできる。」
宗也がそう言うと馬はヘドバンやアニメの
ような笑み、伏せの姿勢からのジャンプ等、
本当にあり得ない動きを見せた。
「うわっ!」「マジっすか!」「こわ…。」
これには男子には好感触だったが、女子は
少し引いていた。
「まあ、とりあえずこれで移動しようか。」
上藤が乗りこみ、指示する。
「それじゃあ、行きますよ。」
バシン!
宗也は馬をこれまた植物で作った手綱で
叩き、動かす。嘶く声こそないが、声が
あるかのような動きをして歩き出す。
馬はそもそも宗也が動かしているので
この動作は全く意味ない。
「凄いけど細かい。」
玲衣奈が思わず呟く。
一行は宗也特製の馬車に揺られながら
ライズライスの街を移動する。
「今思ったんですが、これ馬車じゃなくて
普通に車でいいんじゃないんですか?」
巳波がふと上藤に聞く。
「そ、そうだな。確かに。宗也の技術の
高さに感心していたが車の方が便利だな。」
上藤も盲点だったようだ。
「申し訳ないんですけど、車は流石に
植物じゃ再現不可能ですよ。」
宗也は首を横に振りながら答える。
「それもそうか。」
みんなはなんとなく納得した。それと同時に
馬はなんで出来るんだよ!とも思った。
ライズライスでは何故かGrave戦闘員と
出会わずに済み、無事に一行はフェーデ
プフェーアト(元群馬県)に着いた。
第33話 完




